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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第3章 結ばれてもすれ違う想い
45/88

45 ついにバレた正体

 野性味溢れる武骨な手と、繊細なうさぎのアンバランス。


 いくら誇らしげに見せられたところで、ラフィールが抱いた感想は「似合わない」の一言だった。


 一方で領主はというと、ラフィールの微妙な反応が気に食わなかったらしい。


()()()()()()?」


 闘気にも似た圧力を纏って、改めて同意を求めてきた狼の主。


 区切られた言葉は内容に比べて非常に重く、強張った顔にキリリとまなじりが吊り上がると、ただでさえ迫力のある人相が、より一層極悪度を増していく。


 草食の獣人ならば、秒で泣いてしまいそうな破壊力だ。


(ヤバいな、怒らせたか?)


 そう判断した領主の忠実なる騎士ラフィールは、端正な顔に爽やかな笑みを貼り付けると、求められていた答えを臆面もなく差し出した。


「いえ、とても可愛いと思います。さすがは領主さま。趣味がとてもよろしいようで」

「……棒読みだな」

「気のせいでしょう」


 感情がこもらないのも仕方がない。ラフィールはクリスタルのうさぎには興味がなかった。どうせならもっと柔らかくて美味しそうな、本物のうさぎが良い。

 さりげなく置かれたペーパーウエイトに目を止めてしまったことで、領主にどうやら「うさぎ好き」と誤解された可能性が高かったが、責められたところでお門違いというものだ。


「この魅力がわからんとは……。もう下がって良いぞ」

「はい。それではそういたします」


 物足りなさを隠そうともしない領主は、仏頂面でラフィールの退室を許可してくれた。


「父」の祝福と溜め息を受け取って、今度こそラフィールは御前を下がることにする。次の任務のことを考えれば、早く自室に帰りたかった。


(そういえば、うさぎも草食動物なんだよな。あんなに食っているのにすっかり忘れていた)


 ラフィールは大きな音が立たないように、最後までしっかりと扉を支える。


 飴を煮詰めたような深い色の木目に視界が塞がれたとき、向こうに存在しているはずのクリスタルのきらめきも見えなくなった。


(うさぎの獣人は絶滅寸前で、フォレスターナから姿を消した。彼らが今もこの国で生きていたとなれば、大騒ぎになるに違いない)


 人払いした廊下は静寂で満ちている。ラフィールもまた動かない。


(ゴードンの爺さんによると、うさぎの獣人は容姿端麗で家庭的、さみしがり屋で従順だという。まるで()()()みたいに)


 ラフィールとも親しい老医師の初恋は、尖塔に閉じ込められていた美しいうさぎのお姉さんだ。

 その憧れの姫君はゴードン少年の存在も知らないまま、彼の前から忽然と姿を消してしまったという。


 小さな胸を焦がして通った幼い日は遠いのに、話すこともできずに儚く零れ落ちた想いは、年月を経るごとにますます強くなると、酒の席でゴードンは嘆いていた。

 行き場を失くした想いが、彼女を永遠の女性へと昇華させてしまったのかもしれない。


(うさぎの獣人が発見されたとすれば、すぐに貴族に囲われてしまうだろう)


 バラバラだった断片が、ラフィールの手によって、ゆっくりと確実に組み立てられようとしていた。


 ラフィールは過去に行くために目を瞑る。


 まぶたの裏に浮かぶのは、水面みなもに揺らめく月にいた、びしょ濡れの可愛い恋人。


 それからラフィールは孤児院で読んだ『月のうさぎ』の絵本を思い出した。彼はフッと息を漏らす。


(()()()は草を食べているときと同じくらい、幸せそうに餅を食ってたな)


 あれはお月見の宴のことだった。

 初めての口づけを交わした、甘い夜の始まりのとき。


 カチリ


 すべてのピースが綺麗にはまり、真実のパズルが完成した。


(ああ、絶対に間違いない)


 領主の掌で輝くクリスタルと、犬の耳と尻尾をもつレナが重なった瞬間、現れたのはうさぎのレナ。


(だからあいつは、必死に正体を隠しているのか。お姉さんを探すためだけに、変化へんげの苦しみにも耐えて……)


 熱に浮かされてラフィールを見つめるときの、罪悪感を孕んだ切ない瞳が気になっていた。

 時折見せる寂しそうな横顔には、正体を明かせない孤独と、姉に会えない焦燥が滲んでいたのではなかったか。


 レナの抱えていた多すぎる荷物を数えて、ラフィールは決意とともに目を開いた。

 胸が苦しいのに、夜明け前にはまた次の任務が待っている。急がなければ。


(レナに早く会いたい)


 彼女の正体を知ってしまったラフィールは、とんでもない不安に襲われて大股で歩き出す。


 思い出には興味はない。生身の彼女を愛し続けられなければ意味がない。


 薬がなくなってもレナが自分ラフィールの前から消えてしまわぬように、早急に何か対策をとらなければならなかった。

長老「レナ、アウトー!」

レナ「えっ。私、笑ってませんΣ( ̄□ ̄;)」

長老「ラフィールにうさぎだとバレたじゃろうが。里全体の存続に関わるかもしれん。これは大変なことになったわい。早く帰ってくるのじゃ!」

レナ「でももう少し、ラフィールさまとの思い出がほしいです……(しょぼん)」

☆ 切ない展開はありますが、この物語はハッピーエンドです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 偉そうに甘える...やっぱ子供だなwwwラフィール=領主様の子供っていう方程式が僕にはできたwwwあー...もしできればですけどイメージとしてイラストを描いて見たいのでこんなのがいいってあ…
[良い点] いやぁいいっすねぇwww 領主様めっちゃピュアやないか...狼でしかも年がラフィールのお父さんくらいって事だったらめっちゃ可愛いやんwww ラフィールが子供だったらなぁ...ちょっとあまり…
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