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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第3章 結ばれてもすれ違う想い
43/88

43 血の繋がらない息子1

 ラフィールが領主館のあるウォルフの街に着いたのは、それから6日後の昼下がりのこと。


 帰還の報告を行うため、ラフィールは中央棟にある領主の執務室へと向かっていた。通常であれば騎士の申告は謁見の間で行うのだが、今回のように事務的な連絡のみの場合は、形式にこだわらないことになっている。


 どっしりとした両開きの扉の前。

 ラフィールは脇に控える騎士たちに目配せし、ノックの後に口上を述べて入室した。


 彫像さながらに立っていた騎士の奥に座る、眼鏡をかけた狼の領主。彼は筋骨隆々とした巨体を丸め、何やら熱心に書きものをしている最中だった。


 細々(こまごま)とした事務仕事に忙殺されていてもなお、支配者の風格を漂わせる辺境の主。その姿を眺めていたら、ラフィールはふとロディのことを思い出した。


「領主さまが怖い」が口癖だった、館に勤め始めた頃の少年ロディ。草食の獣人が肉食の獣人を怖れるのは、あらがいがたい本能だ。


(本当のレナは、草食の獣人なのだろう)


 雑食であるはずの犬のレナが、狼のラフィールを極端に怖れていた理由。

 肉が苦手で野菜が大好きなこと。


 恋人同士になったレナとラフィールは、あの夜を境に彼女の部屋で短い逢瀬を重ねていた。

 そのときに偶然、ラフィールは見てしまったのだ。

 机の引き出しの奥の奥。ゴードンに処方された薬と一緒に、そこら辺に生えている草や実が、レースのハンカチに包まれて大切にしまわれていたのを……。


 尤も、問い詰めたときの慌てる姿が可愛くて、ラフィールは早々にレナを押し倒してしまったため、何となく有耶無耶うやむやになったのだが。


(メアリ婆さんもゴードンの爺さんも草食なのに、今もなお隠し続けているということは、レナは羊や山羊ではないんだろうな。ロバか馬か、牛か……。キリン、象、鹿……あとは……)


 そんなことをとりとめもなく考えながら、領主の様子を伺っていたラフィールは、主がペンを休めたのを確認した。どうやら仕事の区切りがついたらしい。


「ただいま、帰還いたしました」

「うむ、ラフィール。ご苦労であった」


 ラフィールは忙しい主人が望む通り、簡潔にそして細大漏らさず報告した。それから王都から持ち帰った、分厚い書類が入った文箱ふばこを渡す。


 中央つまり国からの指示は基本的に文書で飛んでくるが、昨今は治安の悪化に伴い、護衛を付けなければならない文官よりも騎士自らが伝令役を担うことが多かった。

 そしてその役割を担う騎士は、それなりの実力と領主の信頼、そして機動力が求められるため、年若く実力のあるラフィールは、まさにうってつけの人材だった。


「うーむ……」


 領主は書類に目を通すと、唸り声をあげて顔をしかめる。


 いつも「国のため」という大義のもと、人を寄越せ、金を出せ等と、中央は無理難題をふっかけてくるのだ。


 領主はにらめっこしていた書類を机に置いた。書類の山がまた一段と高くなる。


「ラフィール。帰ってきたばかりで申し訳ないが、至急部隊を率いて、蛮族の討伐に向かったフォレスターナ騎士団の援護に向かってほしい。物資と人手が不足しているようだ」

「御意」


 この国では地方領主は、国王にとって都合の良い使い走りでなければならなかった。いわんやその騎士に至っては、生きようが死のうが構わない、ただの捨て駒なのだろう。


 しかしラフィールに不満はない。どんな任務でも期待に応える自信がある。


「それでは私はこれにて、失礼いたします」


 用件が済んだラフィールは退室の礼をとった。


 新たな任務の目的地は遠い。距離から時間を逆算すれば、明日の朝、まだ夜も明けきらぬうちに再び出立しなければならないだろう。


「待ちなさい。私からも話がある」


 すると領主はラフィールを引き止めた流れで、部屋にいた騎士に退出を命じた。扉の外に控えている騎士たちまでこの部屋から遠ざけるほどの、完璧な人払い。


 部屋に奇妙な沈黙が落ちる。何を告げられるのかわからず、ラフィールはただ静かに言葉を待った。領主は眼鏡を外して机に置く。


「私には跡継ぎとなる子がいない。だからお前のことは我が息子のように思っている」


 緊張した空気にそぐわない、愛情のこもった優しい眼差し。ラフィールは驚きで微かに目を見開いた。


「……私のような孤児には、誠に勿体ないお言葉。ありがとうございます」


 領主には先祖代々守ってきたこの土地を、引き継ぐべき子どもがいない。


 そのせいか領主は、2人きりになったり、ラフィールが難しい任務をこなしたときなど折に触れ「お前が私の息子であれば」とこぼすことも多かった。

 でもそれは僅かな悲哀が交ざったほんの軽い冗談のはずで。


 わざわざ人払いをしてまで伝える意味が、この時のラフィールには、まったくもってわからなかった。

長老「隠してあったおやつ、ラフィールにバレちゃったんじゃな?」

レナ「はい……。高い位置から問い詰められると、なんかもう、すっかりパニックになってしまって……。『引き出しの中を見るくらいなら、私のことを見てください』って言っちゃったんです」

長老「だから押し倒されるんじゃ。おぉ、ちなみにXデーは本日夜なのでよろしく頼むぞい」

☆ 物語の中の「本日夜」です。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 草食の獣人。そっかぁキリンとか象もいるんだ……それ、ちょっと見てみたいです(゜∀゜*) 本日夜Xデー?!(作中で) これはあんなこととかそんなこととか期待できますね?! そこにだけ反応し…
[良い点] 押し倒してるのにまだXしてないんですか!? モフりあってるのに我慢してるって……(涙) ラフィールさん……イイコイイコー! [一言] 『本日の夜』楽しみにしてますー!
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