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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第3章 結ばれてもすれ違う想い
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42 犬の獣人になる理由

「お前……その姿は……」


 長椅子のかたわらに立つラフィールは、変化へんげの痛みにのたうち回る友人を、ただ呆然と見つめていた。


 受け入れ難い現実に、ラフィールの指からするりとブランケットが抜け落ちる。床に広がったそれは、彼の足もとに波のような皺を作った。


 寄るとしていたブランケットを奪われたまま、ロディは1人で熱さと痛みに耐え続ける。


 固唾を飲んで見守る中、その変化を完全に終えたとき。

 布地の波間に佇んで、ラフィールは恐る恐る友人の名前を口にした。


「ロディ」


 未経験の痛みから解放されたロディは、冷や汗でぺったりと張り付いた灰褐色の前髪を、手の甲でぞんざいに払うところだった。


「僕の、身体からだに一体何が……?」


 熱さにうなされて、曖昧になったロディの記憶。

 だがその質問は、ラフィールが彼に覆い被さったことで遮られた。


「?!」


 体格に勝る狼の騎士に乗られれば、普段ろくに運動もしていない研究者が、力で敵うはずもない。


「うわぁー! さ、触らないでくれっ!」


 顔や体格、色彩は何も変わっていないのに、ロバの長い耳と尻尾だけが、彼から跡形もなく消えていた。


「そこはっ。そこは敏感なんだっ! ひぃ……」


 今のロディにあるのは、三角形の犬耳とふわふわとした犬の尻尾。


「や、止めろ! あふっ……くっ……。くそぅ……!」


 ラフィールはロディの叫びを敢えて無視した。犬のものとなった耳をほぐすように入念に確認し、尻尾の付け根から先端まで掌全体と指を使ってゆっくりと丁寧になぞっていく。


「マジな顔でその絶妙な手つきは犯罪だっ…や、止めてくれっ! 僕には……僕には……恋人マチルダがぁ……!」


 そんな訴えとは関係なく、確認し終えたラフィールはようやくその手の動きを止めた。己の掌をじっと見つめて独りごちる。


「耳も尻尾も、本物……」


 有り得ない現実でも、もう受け入れざるを得なかった。女のように脅える友。その彼を、改めて隅々まで観察する。


 手触りも見た目も、狼である自分のものとよく似ているが、それよりはもう少し小振りで、間違いなくロディの頭と臀部でんぶから生えていた。


 それは幾度も触れ合った、レナのものとほぼ同じ。


 尤も彼女のものは柔らかくて繊細で、極上のベルベットのような手触りだったけれど。


「あいつが飲んでいたのは、犬の獣人になる薬だったのか……」


 レナが纏う秘密のヴェール。

 触れてはならぬそのすそに、ラフィールの手がかかってしまった瞬間だった……。




 * * *




 その後、薬の効果が切れるまで、ラフィールは念のためロディに付き添うことにした。


 時計の針が午前0時を回る頃。

 たっぷりの水を含んだ絵の具が紙に滲むような輪郭を描いて、ロディは徐々に元の姿へと戻っていった。


 明朝、ラフィールは領主の館があるウォルフの街へと出立する。


(レナはなぜ、あんな苦しみに耐えてまで、犬の獣人に変化へんげする必要がある?)


 ラフィールは馬を歩かせながら、何度目かもわからなくなった疑問を頭の中で繰り返した。


(あいつの、本当の種族は何だ?)


 衝撃の事実を知ってから、ふと気が付くと同じことばかりを考えてしまう。


 王都は広い。街を抜けるまでにも少しずつ街並みは変化していく。


 そしてラフィールには、王都を出る前に、どうしても寄っておきたいところがあった。


 商店が建ち並ぶメインストリートは、生憎あいにくの曇り空にもかかわらず、多くの人で賑わっていた。

 その一方で華やかな店先から少し離れるだけで、物乞いや花を売る少女の姿が散見される。なんだか街全体が暗い雰囲気見えるのは、今にも泣き出しそうな空のためだけではなさそうだ。


 都市部の光と闇を感じざるを得ない光景は、垂れ込める雲そのままに、ラフィールをやるせない気分にさせる。


 ウォルフの街は規模の面では王都にはまったく及ばないが、優れた領主の統治のおかげで、基本的に人々は幸せに暮らしている。但し領地は辺境ゆえに広大だ。だからそのすべてに手が回るわけではないけれど。


 街行く人を眺めれば、やはり多いのは犬の獣人だった。しかしそれ以外の獣人だって沢山いる。


 たしかに犬に変化すれば目立たないかもしれないが、それはあくまでも彼女の容姿が十人並みならばの話だ。犬の今だって相当目立っているのだから、変化することにどれほどの意味があるのだろうか。


「ねぇ、あなた。あのお店、入っても良いかしら?」

「ああ、今日は君の誕生日だからね」


 犬の夫婦が奥へと消えた宝石店。そこがラフィールの目的地だ。


(もしかして、特別に珍しい種族なのか?)


 迷いの森には希少種族が多く隠れ住んでいるという。


(希少種族の若い女。それもレナほどの美少女なら、人買いにとっては喉から手が出るほど欲しい()()だろう。故郷の大人たちからも散々、注意するように言われてきたのかもしれない)


 そう思いながらラフィールは、犬の夫婦に続いて宝石店へと入っていった。

長老「ラフィールめ。ワシの可愛いレナを既にモフり済みとは…。羨ましいわい(ブツブツ)」

レナ「でも長老。私もラフィールさまのことをモフっています……。彼がやり方を教えてくれて……(赤面)」

長老「くっ。まさかのモフり合い?!」

レナ「はい。ですが私はまだまだ下手で……(しょぼん) ラフィールさまは『上手だよ』って優しく褒めてくださいますけど……」

★ モフり合いとは……。人型の状態で、互いの耳と尻尾を()で合うことを意味しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 秘伝のお薬はそんなにも苦しいものだったのですね。 レナちゃんはお姉さんを捜すために健気に耐えていたのを知って、ますますレナちゃんが愛おしく思えました。 ロディさん、ラフィール隊長にモフられ…
[良い点] 溜めますねぇwww 感度がまさかの良好! どんどんRー15じゃなくなっていくぅ!www レナってラフィールのお腹とか触ってるのかな? めっちゃもふもふしてそうwww それか逆にレナが触られ…
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