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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第2章 恋する気持ちを通わせて
34/88

34 月の妖精

明けましておめでとうございます(*´∀`)

 レナは男の発言に引っ掛かりを覚えた。


(マーキングされていない?)


 マーキングされたいがために、レナはラフィールと踊っていた訳ではなかった。打算なんて何もなく、ただ彼と踊りたかったから踊っただけ。

 しかしあれだけ抱え込まれるように密着して踊っていたのに、マーキングされていないとはどういうことなのだろうか。


(男の人にぎゅってしてもらうだけでは……ダメだったの……?)


 マーキングとはもっとずっと親密な男女の行為。しとねを共にする必要があることを、レナはまったく知らなかった。


「仕方ねぇな。あの隊長さんのかわりに、俺たちが遊んでやるよ。身体はそれなりに大人なんだろ?」


 舐めまわすような視線に背筋が凍った。月に雲がかかり、男たちの陰鬱な笑みがより一層暗くなる。


「来ないで、ください……」


 レナは震えながら懇願するが、聞き届けられる訳もない。


 ラフィールの女に手を出すのはリスクが高いと、男たちも思っていた。しかしマーキングされていないレナに貼られたレッテルは「フラレたばかりの哀れな女」。

 レナとラフィールが心を通じ合わせて踊っていたことなんて、酒で濁った不良狼の目にはまったく映っていなかった。


 男たちの魔の手がレナに迫る。


「たくさーん慰めてやるからよぉ」

「いや、来ないで……」


 レナのかかとがコツンと噴水にぶつかった。もともと今立ち上がったばかりなのだ。け反るようにした脚も、そのふちにかかって後がない。


「あ……」


(逃げられない……?)


 目の前の男たちは下卑た笑いを浮かべていた。


「お前みたいな地味な女を楽しませてやるんだからよ。逃げるなよ」

「今日はそういう夜だって」

「そこらへんで簡単に済ませるからよ」


 前にも右にも左にも、欲望の牙を剥き出しにした狼の男、男、男。


 退路を断たれたレナは助けを求め、壁のような男たちの隙間から周囲を見る。


 そこにはまだ、レナの騎士ラフィールはいなかった。


 ひどく酔っ払った狼の騎士たちを恐れ、遠巻きにする観衆たち。ダンスや飲食に夢中で気がつかない者も多かった。

 そして最悪なことに、ラフィールたちまともな他の騎士たちは、さっきの喧嘩の様子を見に行ってしまったのか誰もいない。


 レナは自分で何とかしなければいけないことを悟り、前を向いた。


 体格の違う男たち3人を相手に、まともにぶつかって勝てるとは思えない。取るべき手段は限られていた。


「勿体ぶってないでこっち来いよ。……っておい待て、逃げるな!」


 追い詰められたレナは薄い噴水の縁に上がって、この場から逃れようとする。


「こ、来ないでっ」

「ちっ、暴れるな!」


 きつく縛ったお下げ髪と濃紺のロングスカートが、慌てた男たちに引っ張られた。


「きゃ!」

「「「うわっ!」」」


 するするとほどけていく髪と、かしいでいく線の細い身体。スカートの裾がわずかに広がったその刹那。


 パッシャーン


 水音が響き、月夜に飛沫しぶきが派手に舞う。


 周囲がどよめき、ついに誰かが助けを呼んだ。広がる波紋の中心には、可哀想なレナが横たわる。


 身をよじって懸命な抵抗をした結果、バランスを崩して上半身から落ちてしまったのだ。


「やべぇぞ」

「さすがにやり過ぎたか」

「でもこの女が勝手に落ちただけで」


 さざ波のような動揺が辺りに広がる。


(寒いし……痛いわ……)


 落ちたときに咄嗟についた手が痛い。膝もしたたかにうちつけた。メアリ婆さんから外さないようにと、固く指示されていた眼鏡もどこかに飛んでいってしまったらしい。それにこの季節の水は手足の感覚を奪うほどに冷たかった。


 ほどけてしまった髪と水浸しのメイド服。

 背中の中ほどまである髪もかなり濡れてしまったが、それ以上にメイド服が身体にぴったりと貼り付いて気持ちが悪い。


 寒さと痛みに震えながら顔を上げると、いつの間にか月にかかる雲が消えていた。


 眩しいほどに明るい月……。


 そして次にレナの目に映ったのは、呆然と自分レナを眺める人々の姿だった。


 * * *


 男たちも含めて、この場にいた者たちは一斉に息を飲んだ。


 濡れたメイド服が描くのは、少女から女性へと成長する過程の危うい曲線。分厚い眼鏡に隠されていたのは、人形のような精緻な美貌。


 揺らぐ月の中に座り込む美しい少女。


 その姿はまさしく月の妖精だった。

 変わらない噴水の音も、軽快な音楽も、賑やかな人々のざわめきも今や何もかも遠かった。皆、何の言葉もつむげずに、誰もが固まって動けない。


 時が、止まっていた。

長老「この世界の月は1つじゃが、とぉーい国の月よりも大きいんじゃ。それに月には不思議な力があるとされていての。3バカ狼は酒と月に飲まれてしまったようじゃ。普段は大分まともらしいぞ。一応は奴らも騎士のはしくれだからな」

レナ「そうなんですか……。でもとても怖かったです……」

長老「うむ。でも辛いことのあとは、(とろ)けるような甘い展開が待っているのじゃ!」



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― 新着の感想 ―
[良い点] くみんちゃん、明けましておめでとうございます(´∀`*) 年末年始の更新ありがとうございます♡ 「ラフィールは今、レナだけの騎士だった。」ここすごくロマンチックで、きゅんきゅんしちゃいま…
[良い点] くっ、狼3匹まとめてお仕置きよ! ラフィール、どこまで行っちゃたの? 早く戻ってきて~! もうこの際メアリ婆さんでもいいからレナのところに行ってあげてくだされ( ノД`)゜。 そしてとろけ…
[一言] 甘い展開! この流れだとめちゃくちゃ期待できそうですねー! 楽しみにしています! 本年も宜しくお願い致しますm(_ _)m
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