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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第2章 恋する気持ちを通わせて
33/88

33 幸せの後の大ピンチ

 ラフィールはレナの腰をさりげなく抱いて、ひらけている場所まで誘導した。


 やや狭い石畳の広場は長方形で、今夜は寄り添って踊る男女で溢れている。中央には噴水があり、揺らぐ水面には明るい月が映っていた。小さな泡が浮かんでは、やがて儚く消えていく。


 布地越しに感じるラフィールの手の感触。その力強さが心地よい。


 好きな人が会いに来てくれたこと。あの日が最後ではなかったこと。

 夢のような現実に、レナの胸は既に一杯になっていた。


 狼やうさぎの獣人は夜目が利くが、目の悪い種族への配慮から、月の光を補うように各テーブルにはランプが置かれ、至る所で篝火かがりびかれていた。


 喧騒の中で、半歩先を行くラフィールが立ち止まる。


「レナ」


 名前を呼ぶ彼の声は甘く優しい。


 ラフィールはひざまづくと、彼女の手をうやうやしくすくい上げてそっと口付けを落とした。吐息が当たれば肌に熱が広がって、駆け上がる鼓動で胸が痛い。


「お手をどうぞ。お姫さま」


 ラフィールは今、レナだけの騎士ナイトだった。


 夢見心地に言葉も失くしてしまったレナと、大人の余裕を漂わせ、ゆったりと立ち上がるラフィール。

 彼はレナの右手を自分のものと絡ませて、もう片方の手を自らの腕に沿わせた。


 宴に招待された街の楽隊。彼らはフォレスターナの国に昔から伝わる円舞曲を奏でている。


 故郷ラビアーノでも祭りのときには老若男女集まって、この旋律に合わせて踊ったものだ。軽快なリズムなのに、弦楽器の音色が郷愁を誘う美しい曲。


「踊ったことはあるんだろう?」

「はい」


 レナはラフィールのリードに身を任せ、ステップを刻み始めた。


 絡められた指先から通う熱がくすぐったい。大きな手に包まれると緊張するのに安心する。


 月明かりの舞台で2人は夢中で舞い続けた。


 笑顔が零れ、離れていた時間を無くすように固く指を繋げて身体を密着させる。巧みなリードはレナに羽を与え、息の合った動きは親密さを周りに見せつけているようだった。


 レナはこの耀かがやける瞬間を切り取って、永遠の額縁に入れてしまいたいと思う……。


 しかしその幸せの幕切れは、あまりにも呆気ないものだった。


 少し離れた飲食スペースから聞こえてくる、男たちの怒声と食器が割れる音。そして女性の甲高い悲鳴。


 ラフィールは眉間に皺を寄せた。


「……騒がしいな。喧嘩か?」


 今夜は無礼講の宴であり、酒が入ればトラブルはつきものだ。酔いが回った頃合いに、毎年どこかで喧嘩が起きる。もともと肉食の獣人は平素から気性の荒い者が多かった。


 そして揉め事となれば、警備を任せられた部隊の長として、ラフィールも無視してはいられない。


「様子を見てくる。しばらく経っても俺が帰ってこなかったら、お前はメアリ婆さんのところへ戻れ。いいな?」

「……はい」


 注がれる視線を鬱陶しく感じながら、ラフィールは仕事モードに切り替えた。


 硬派なラフィールがレナを相手にしたことが、予想以上に皆の関心を引いたらしい。喧嘩の仲裁を求める以上に、好奇心が含まれた下品な眼差しに、ラフィールは苛立ちを覚えた。


 けれど捨てられた仔犬の目をしているレナを見ると、苛立ちよりも申し訳なさの方が勝ってしまう。

 彼女は男の仕事と自分の存在を比べないタイプの女だ。引き止められても困るが、悲しそうに見送られるのも忍びない。


「……悪いな」

「いいえ、私のことは気になさらないで下さい」

「すまない。できればここに戻ってくるから」


 ラフィールは最後にレナの柔らかな頬に愛しげに触れた。離れる体温は未練だけを残して消えていく。


 後ろ姿を見送って、レナは悲しいため息をついた。


 このまま別れてしまったら、次はいつ会えるのかわからない。噴水の薄い縁に腰掛けて、レナは1人で彼が戻ってくるのを待つことにした。




 * * *




 レナは月を眺めながらラフィールを待っていた。さみしい時間はひどく長く感じられて、夜風と噴水の水音が身体を余計に冷やしていく。尤も実際は、ほとんど時間なんて経っていなかったのだけど。


 もうそろそろメアリ婆さんたちのいるシルバー席に戻ろうかと、立ち上がった瞬間だった。


 近づいてくるのは酔っ払った狼の男たち。全員が青い騎士服を着崩している。


「よぉ、そこの眼鏡の冴えないお嬢ちゃん? どうやって、あの堅物の5番隊の隊長を落としたんだ?」


 失礼な物言いにも、レナは咄嗟に反応できなかった。そんな初々しい態度を馬鹿にして、彼らの1人が大声で笑う。


「わはは。違うだろぉ? フラレたから、ひとりぼっちでこんなところで座ってるんだよな? 犬のお嬢ちゃん」


 相当出来上がっているらしく、男たちは3人とも酒臭い。


「私は、ラフィール隊長を待っていて……」


 レナは困惑しつつも、どこまでも真面目に答えた。


 彼女とて酔っ払いの相手をしたことはある。

 但し相手は酔い潰れた長老や、泣き上戸の父レオナール、そしてその他気のいい里の大人たちに限っていた。たちの悪い絡み酒の人なんて、たった1人もいなかった。


「はーはは、あの隊長は女に興味ねぇーよ。ましてやお前みたいな地味そうなつまんねー女。身体がよっぽど良くなきゃな」


 さっきとは違う狼が下品に腹を抱えて笑うと、そのままレナの匂いを嗅ぎに来た。


「!」


 男に鼻先が身体に触れてゾッとする。


「なんだ、やっぱりコイツ。まだ男にマーキングされてねぇじゃん」


 若い狼たちが顔を見合わせ、満月を背にニヤリと笑った。

レナ「ラフィール隊長って、女の人に興味がないんですか? 酔っ払いの狼さんがそう言っていましたけど……」

長老「そういや、今日ベーコンレタスバーガーを食べておったな」

レナ「え……Σ(-∀-;)」


おやつとして食べていただけです(笑) ラフィールはレナ一筋♡

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