28 発情期のやりすごし方
定期的に見直して言い回し等を直しておりますが、ストーリーにはまったく影響ありません。ご迷惑をおかけします(;・ω・)
「……あ!」
レナには1つだけ、心当たりがあった。
長老が丸薬を配るときに「発情全般に関する機能を、増強促進する効果がある」と言っていたのだ。但し服用中は妊娠できない、とも。
「……うーむ、なるほど。この丸薬の副作用という訳じゃな」
レナの説明を聞いて、ゴードンは頷いた。
「実は私、副作用のことはほとんど気にしていなかったんです。発情期を迎えていない私には、まだ関係ないと思って……。
でもたしかに、この薬を飲むようになってから、変な夢を毎日のように見るんです。もしかして、それと発情香が漏れていることは何か関係があるのでしょうか?」
「変な夢とはどんな夢なんじゃ?」
「……えっと……あの……その……」
ラフィールと出会ってからは、毎晩のように彼が夢に現れた。
夢の中の彼はいつだって意地悪で、レナはいつもめちゃくちゃにされてしまうのだ。でもそれは人には言えない悦びをもたらすもので……。
思い出すだけで身体の芯がキュンと疼く。レナは紅を刷いたように頬を染めた。
「言わないと、ダメ……ですか?」
戸惑う彼女に、ゴードンは思わず苦笑した。
「恥ずかしがっていても仕方ないぞい。ワシはもう年じゃから、その辺りの煩悩からは解脱した身じゃ。安心せい!」
悟りの境地に入ったはずのゴードンでさえも、優しく甘い香りを漂わせるレナに、思うところがない訳ではない。
しかし羞じらう姿にえも言われぬ初々しい色気を纏うレナに、老医師は警戒される訳にはいかなかった。このまま見て見ぬふりをすれば、必ずや彼女は泣くことになるだろう。想像するのは簡単過ぎて放ってはおけない。
「夜な夜な、色っぽい夢を見ているんじゃろ?」
ゴードンは言い聞かせるように声をかけてやる。その声は自分でもどこから出したのかわからないくらい、やけに優しくなってしまった。
「はい」
レナは覚悟を決めたようだ。
「ふむ、ならば夢と発情香が漏れていることは、因果関係があると考えるのが妥当じゃろう。そしてその原因は、お前さんの飲んでる丸薬に違いない」
ただの夢でも感じてしまうレナに、ゴードンは現実を教えてやる。
「いざ発情すればそんな夢を見るだけじゃないぞ。発情期はもっとこう凄いんじゃ。お主は初過ぎる。先が思いやられるわい」
「そんなに凄いんですか……?」
レナは宝石のような瞳を、驚きに丸く見開いた。
発情期とは、命を未来に繋ぐため、女が男を受け入れる状態になる期間のこと。
発情香。それは発情期の女が放つ甘美な香り。男を狂わせて、衝動に理性を服従させる愛の美酒。
その香りや強さには個人差があり、当然のことながら男の方にも特に惹かれる香りがある。
好みの芳香を纏う女に出会えた瞬間、雷に撃たれたような衝撃が貫いて、嵐にも似た激しい恋に堕ちてしまったと口にする男も少なくない。
つまりはただの一目惚れだが、彼らはそれを「運命」と表現することを非常に好んだ。
香りだけで始まる恋の場合、心の繋がりは後付けだ。新しく咲く芳しい花を見つければ、新たな運命を求めて男たちは飛んでいく。花の蜜を堪能した後には、違う花も愛でたくなることもあるだろう。
そんな悪い虫はたくさんいる。本当はレナだって既に毒牙にかかっていても、何ら不思議ではなかったのだ。
「発情期をコントロールすることも大切だが、お主の場合はそもそも漏れ出ている発情香を何とかせねばなるまい」
ゴードンはアゴヒゲをゆっくりと擦った。
「発情期を抑える薬は一緒に貰わなかったのか? 大体医者っていうモンは、副作用を抑えるための薬も同時に処方するはずじゃが」
「いいえ、もらっていません」
長老は医者ではないし、あのときは非常時だから仕方がなかった。
「ならばお主の欲望を発散させてくれるような、恋人はいないのか?」
「いません」
「うーむ。じゃあ、一般的な薬を出しておくとしよう。飲み合わせが悪かった試しはかつて聞いたことはないが、何せお主が今飲んでおるのは未知の薬だからな。おかしいと思ったら、飲むのはやめるんじゃぞ。わかったな?」
「はい」
そうして出されたのはゴードンの白衣を濡らしているのと同じ赤い液体だった。
「あの、これ……?」
「残り少なくなったから新しく作ろうと思ったんじゃが、この通りこぼしてしまっての。あんまりないんじゃ。1回分じゃな。これを発情期がきたら飲みなさい。それと普段はこの粉薬を飲んで、発情香を抑えるようにな」
「わかりました」
里の秘伝の丸薬だけではなく、更に飲まなければいけない水薬と粉薬が追加されたことに、レナは表情を曇らせた。
こんなに色んな薬を飲んで、自分の体は大丈夫なのか、つい心配になってしまう。
「女性の皆さんは発情期を抑えるために、こんなに沢山のお薬を飲んでいるものなのですか?」
「あくまでも本人や親御さんの希望によるな。本当はやっぱり無理やりおさえるのは良くないんじゃ。所詮欲望を散らすだけじゃから、次の発情までの周期は短くなるし、そのうち薬への耐性ができて効かなくなる」
「でも、できるだけお薬は頼りたくないけれど、恋人もいないという方もいらっしゃると思うのです。その方たちは一体どのように対処されているのでしょうか……?」
ゴードンは無垢な質問に骨ばった肩を下げた。
「そりゃ、適当な相手と割りきった関係をもつしかないじゃろう。それに関係をもって雄にマーキングしてもらうと、ほかの雄が寄りつき辛くなるから虫除けにもなる。いつ効かなくなるかわからない薬を飲み続けるよりも、よっぽど効率的だし健康に良い」
「マーキング、ですか。……わかりました」
レナはラフィールの精悍な立ち姿を脳裏に描く。
(男の人にたくさんぎゅっとしてもらえば良いってことよね?)
発情香が漏れていたのに今まで無事でいられたのは、馬上でラフィールに抱きしめてもらっていたからかもしれない。
別離の苦しみを思い出したレナの胸が切なく縮み、そして彼を恋い慕う。
(ラフィール隊長……もしかして、このことをご存知だったのでは? 私に医者に行くように言ったり、常に側にいてくださったのは偶然なの?)
でもその頼りになる彼はもういない。レナは今後の自分のために、ゴードンから薬を受け取った。
ラフィ「おい、レナ。お前は夢の中で、俺に何をさせているんだ?」
レナ「……言わなきゃダメですか? (涙目)」
ラフィ「(可愛いな) 」
レナ「(ゴニョゴニョ)」
ラフィ「……わかった。夢を現実にしてやる。おいで、レナ」
(ここから先は脳内補完お願いします♡)




