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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第2章 恋する気持ちを通わせて
23/88

23 領主の館でメイドをします

退職していくメイドの態度に、真面目に生きている読者の皆さまがイラッとして、パソコン、スマホ、またはタブレットの液晶を破壊したくなる衝動に駆られる(おそれ)がございます。

心に余裕のあるときにお読みください( ;∀;)

 メアリ婆さんとて自覚はある。

 今回のことは、勝手に期待をして勝手に落胆しただけのこと。

 それなのに初対面の少女に苛立ちをぶつけてしまった。おそらく彼女からしたら、理不尽以外の何物でもないだろう。


 けれど自分が間違っているとわかっていても、心の内にある感情のレバーを上手く切り替えることができなかった。

 ここのところずっと多忙で、ひどく疲れているからかもしれない。メイドの退職が続いて人手が足りないのだ。


 メアリ婆さんは自分の記憶の引き出しから、昨日の苦々しい記憶を引っ張り出す。その途端、怒りが沸々(ふつふつ)よみがえった。


(あの子はにゃんこメイドだったね。愛嬌のある顔に、砂糖菓子のように甘い声。

 そして魅力的な尻尾と腰を、見せつけるようにフリフリと揺らして歩くのさ。狙った男の目の前で)


 昨日退職を申し出たメイドは、ここで出会った騎士と結婚するのだという。


(本当に腹立たしいね。そんな安い方法で気を引く女も、それに騙されるバカな男も……)


 己の仕事に誇りをもっているからこそ、メアリ婆さんは許せない。

 そのメイドはこの館に仕事をしに来ていたのではなく、ただ恋愛をしに来ていたのだろう。勤務態度や諸々の事情から鑑みるに、そう考えて差し支えはないはずだ。


 そしてまだまだ結婚ラッシュは続きそうなのだから頭が痛い。

 仕事がキツい、メアリ婆さんや古参のメイドにいじめられた等と言って、恋人(騎士)たちにしなだれかかり、結婚を迫るであろうメイドたちの姿が頭に浮かぶ。


 仕事のキツさは仕方がないが、そもそもメアリ婆さんは、ここを去り行くメイドたちに理不尽な怒りを向けたことなんて1度もない。


(アタシが怒ってきたのは、あの子たちが仕事をきちんとやらなかったときだけさ)


 危機管理の都合上、もともと使用人は紹介制で雇っている。メイドも例外ではないものの、最近は結婚相手を見つけるためにやってくる女性が多かった。

 騎士は街中の娘たちにとって憧れの存在。彼らとお近づきになれるメイドは、そんな女性たちにとって旨みの多い仕事なのだろう。

 騎士たちもまた、メイドとの出会いを歓迎する者たちがほとんどで、ラフィールのようにまったく寄せ付けない方が珍しい。


 メアリ婆さんは、未だに顔を上げないレナを見た。


(この子も同じなのかねぇ?)


 理不尽な八つ当たりに晒されても、彼女は不愉快そうな態度も見せず、「働きたい」とこうべを垂れた。

 その真摯な姿に嘘はないと、信じてみても良いのではないか。


(にゃんこ娘ですら落とせなかった、難攻不落のラフィール。その彼が連れてきた可愛いワンちゃん)


 パンチが効き過ぎているパンチパーマのせいで、まったく印象に残らない黒真珠のような瞳の奥に、ほんのわずかな好奇心のともる。


「顔をあげな」

「はいっ!」

 

 ようやく顔を上げたレナを、メアリ婆さんは舐めるようにじっくりと観察した。


 緊張を宿す榛色の瞳は真っ直ぐで、可愛らしい耳と尻尾は不安なのか力なく垂れていた。淡い茶色の髪は触れたくなるほど艶やかなのに、巻いたり盛ったり飾ったり、特に何も手を加えていないように見える。


 それに本人の素材の良さでまったく気にならなかったが、着ている服はヨレヨレでくたびれていた。彼女が今着ているのは、有事の際に領民を保護したときに着せる服だ。


 ちなみにレナは、保護されたその日に貸してもらった2着の服を日替わりで着ていた。


(こうして見ると、至って真面目そうなお嬢さんだ。というかむしろ格好だけ見れば、まったく垢抜あかぬけないね。とんでもなく器量が良いから、全然気にならなかったけれど)


 今まで辞めていった娘たちは皆とてもお洒落だった。中にはメイド服のすそを大胆に短くした強者もいた。


 もちろん度を超していたら、メアリ婆さんは容赦なく叱っていたが、所詮いたちごっこ。注意された瞬間は殊勝な態度を取るものの、すぐにまた元通りだ。


 メアリ婆さんは、ラフィールからレナの種族までは聞いていなかったが、迷いの森で保護した云々は聞いていた。家を失い、住み込みで働ける場所を探しているということも。そして……。


(そういえばこの子は持病があるんだったね。そんな身体で採用してくれる場所なんて滅多にないから、アタシに何を言われても黙って耐えるしかないのかね……。まぁ、気の毒なことだ……)


 メアリ婆さんの沸騰しきった頭は大分冷静さを取り戻していた。レナに対して同情の気持ちが沸いてくる。

 何よりも今は人手不足だ。猫の手も犬の手と借りたいくらい忙しい。


(いや、しばらく新しいにゃんこは見たくないね。今いるにゃんこも、やる気がないんだかあるんだか)


 可愛らしい犬の獣人。ラフィールの紹介なら信じてやる価値はあるのかもしれない。


「わかった。アンタの根性、しかとこの目で確認させてもらおうじゃないか」

「! ありがとうございます」


 レナの初めて見る笑顔が眩しすぎて、さすがのメアリ婆さんも言葉につまる。


「……っ、えっとアンタ、名前は?」

「私はレナと申します、メアリさま」

「メアリさま、って柄じゃないよ。皆みたいに『メアリ婆さん』と呼んでくれ」

「はい。メアリお婆さま」

「……何か違うね。まぁ、いいか」


 メアリ婆さんはふと、遠く離れて住む孫を思い出した。なかなか会えないが、元気にしているだろうか。

 2人の顔は似ていないけれど、それは主観の問題で、メアリ婆さんには愛する孫とレナが重なって見えた。

長老「前回の話によると、どうやらラフィールは、危険な任務を任されているようじゃの。たしかに野盗の討伐もしておったし」

レナ「心配ですね」

長老「むむむ、これはフラグがっ、フラグが立ちそうじゃ!」

レナ「えっ……そんな! ラフィール隊長、死なないでっ!」

ラフィール「勝手に、俺を殺すなよ」

長老「げっ、ラフィール……Σ(゜Д゜) 」


長老は脱兎のごとく逃げ出した。


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