表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/88

15 メイドへのお誘い

 野盗が討伐されたのにもかかわらず、ラビアーノの民が誰も保護されていないということは、彼らは迷いの森のどこかに身を潜めているに違いなかった。


 人を惑わす深い森はうさぎの獣人たちにとって、母の愛のように包み込み、父の腕のように守ってくれる、ふところの広い優しい場所。

 今までも様々な森の恵みに支えられ、ひっそりと生き続けてきたのだ。だからきっと皆にはまた会える、レナはそう思うことにした。


 不安に曇る心を磨き直して前を向いたレナに、ラフィールは率直な疑問をぶつける。


「領主の館はウォルスタの街にあるが、なぜそこに行きたいんだ?」


 姉のことを言うべきか迷ったが、どんな些細な手がかりでもほしくて、レナは正直に話すことにした。


「行方不明になった姉を領主さまの館で見た、という噂を聞いたんです。家は燃えてしまったし、里の皆も散り散りになって、今の私には帰る家もありません。それなら姉を探しに行こうかと思って……」


 今後、外に出る機会は訪れないかもしれない。禍福かふくあざなえる縄の如し。もしかしてこれが何かのきっかけになる可能性だってある。


「噂だけを頼りに、行くのもどうかとは思うが……。そもそもウォルスタで身を寄せるあてはあるのか? お姉さんを探すにしても、拠点となる場所は必要だろう?」


 ラフィールの言うことはいちいちもっともだった。野宿しながら姉を探す訳にはいかないし、宿に泊まり続けるお金もない。


「ん? もしかして……私って……」


 空っぽのポケットをあさる。もちろんこの服も借り物だ。身に付けているのは、長老に渡された里秘伝の丸薬の入った小瓶のみ。


 つまりレナは今、一文無しだ。


 彼女はそのことに、今ようやく思い至る。


「そういえば……私……お金がありません……」


 街から街へ移動するにしても馬車代がかかる。道中、宿無し食事無しでは行かれない。それは至極当たり前のこと。


「あ、でも歩けばいいですよね? 頑張って歩いて、あっちで住み込みの仕事を探せば……」

「レナちゃん。ウォルスタの街までは馬車で1週間はかかるわよ? ここはド田舎なんだから。それにウォルスタに着いたところで、そんなすぐにまともな仕事が見つかるかしら?」


 マチルダはくすくすと噛み殺した笑いを漏らし、それから面白そうにラフィールを見た。彼は呆れたように嘆息する。


「保護した以上は連れていってやる。お前みたいな田舎者が大きな街に出て、人買いにさらわれても困る」


 レナは「田舎者」の自覚はあったので、そこはなにも言わなかったが、聞くべきことは山ほどあった。


「犬の獣人でも拐われるんですか?」

「犬だろうが、猫だろうが、おのぼりさんは格好の獲物だ。まぁ、特に狙われるのは稀少種族の若い女と子どもだがな」

「……そう、ですか」


 カタリナの安否がますます心配になり、レナは消えそうな声で呟いた。


「でも、馬車で1週間もかかるなら、そんな遠い街まで連れていって頂く訳には参りません。何とかして自分で行きます」

「遠い街まで、女1人で行くのは危険だ。人拐いが出るのは街だけじゃない。街道だって普通に出るし、何だったらこの街にだって、迷いの森にだって現れる。そもそも今回の野盗どもの狙いの1つは、迷いの森にいるとされるいくつかの希少種族だったらしい」

「でも……」

「でも、じゃない」


 ラフィールはそれ以上の反論は許さなかった。


「俺たちの任務も今日で終わりだ。明日別部隊が到着次第、領主さまのところに帰還する予定になっている。だからあくまでもついでだから、遠慮することはない」

「領主さまのところに帰還……? 任務……?」

「それに領主さまの館のメイドが何人か辞めることになったとかで、確か今はかなりの人手不足のはずだ。お前をメイド頭に紹介してやるから、館で住み込みで働いてお姉さんを探せばいい」

 

 レナの頭は情報過多でパンクしそうだった。


「えっと……」


 それでも確認しておかねばならない。


「あの……ラフィール隊長たちって、何者なんですか?」

「俺たちは領主さまにお仕えするウォルフの騎士だ。辺境警備の任務のため、この地におもむいた」


 彼らが着ている青い服。それは栄光の青。ほまれあるウォルフの騎士の証。

 ウォルフ領に住んでいる者なら常識なはずの知識を、レナはまったく知らなかった。


「世間知らずにもほどがあるな。そんな田舎者の小娘を途中で放り出すのも騎士の名折れだ。野盗をのさばらせてしまった責任もある。だから俺たちについてこい、レナ」

「はいっ……」


 こうしてレナは姉を探すため、ウォルフの領主の館に帰還するラフィールたちと同行することにした。

レナ「やっと『メイド』の単語が出てきましたね」

長老「タイトル詐欺はしないから安心せい! ……しかし、メイドが集団退職した館って、何かヤバイ匂いがプンプンするのぅ。とぉーい国の『ぶらっく企業』のような職場環境かもしれん」

レナ「そうですね。退職の理由が気になります」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] ようやくメイドの単語が……! てっきりウサギ姿でメイドを想像していましたが、今の感じだと犬の姿でメイドなのかな。 レナは箱入り娘の上、閉ざされた世界しか知らないから、少し心配です(´・ω・…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ