12 腕に囚われて
ラフィールは本気で「超」ドSです。ここから溺愛になるまでの落差をお楽しみいただければと思いますが、苦手な方はそっと閉じてください。
後半はラフィールの心情中心に書いています。後半部分はさらに鬼畜です。もしくは鬼、或いは悪魔。
よしっ、これだけ書けば大丈夫でしょう。平気な方はどうぞ♡
「大人を騙したらどうなるか、わからせてやろうと言っているんだ」
ラフィールの声がレナの中でリフレインする。
「わからせるって……どうやって……?」
「さあ?」
レナはどこまでも純粋だった。返してくれるわけもないのに聞かずにはいられない。か細い声は答えを得られることもなく、張りつめた静寂に溶けていく。
ラフィールにとってレナの疑問は愚か者の問いかけだ。何の価値も見出だせない。答えてやるつもりもない。
(逃げなきゃ……。この人はきっと、とても恐ろしいことを……)
現状のままの自分では話し合いができる相手ではないことを、レナは今になってようやく悟った。
レナとて嘘はつきたくない。しかし全てのことを明らかにすることもできない。だから薬さえ返してもらえれば、彼らの前から消えるつもりだった。
ラフィールたちに深入りして犠牲を払うとすれば、それは間違いなくレナの方だと、よくわかっている。
そのため、レナは渾身の力でラフィールを振り払った。この場から何とかして逃げ出したかったから。
「!」
驚いたのはラフィールではなくレナ本人だった。予想に反してラフィールはいとも簡単に、彼女の腕を自由にしたのだ。
レナは予想外のことに面喰らう。しかしラフィールの様子を確認する余裕はない。
実際ラフィールはまったく動揺することもなく、ただレナが足掻くのを感心して見ていたのだから、確認しなくて幸いだった。嬲る側の冷静な余裕など、嬲られる側には、絶望しか与えない。
それからレナはドアノブに手をかけた。そして一気に手前に引く。
(これで、逃げられる……!)
扉が開いた歓喜の瞬間。
僅かな隙間に浮かぶ薄暗い廊下には誰もいない。
レナが薄い身体を滑り込ませようとした、そのとき。
ダンッ!
威圧的に響く音とともに視界が戻る。
レナの瞳に映るのは扉の木目。
彼女の顔の真横には、ラフィールの右腕があった。
「逃がさない」
開きかけた扉はラフィールによって閉ざされたのだ。
「そんな……」
ラフィールの腕に行く手を塞がれ、どんな宝石よりも光を映す榛色の目を零れそうなほど見開いた。
「残念だったな」
抑揚のない声の中にも、ラフィールが面白がっている様子が伝わってくる。レナが恐怖とともに仰ぎ見れば、ラフィールの端整な顔はうっすらと笑っていた。
「……っ」
勝手に流れそうになる涙をこらえ、この恐ろしい男から逃げるため、塞がれていない方、つまりラフィールの左でレナの右側に重心を移す。
そして踏み出された一歩は……。
バンッ!
ラフィールの左腕により、またもや呆気なく阻まれた。
「逃げられると思うなよ」
レナの頬を一筋の涙が伝った。
「ラフィール……隊長……」
「もう抵抗は終わりか?」
ラフィールは喉の奥だけでクツクツと笑う。
自分の腕に囚われた震える少女。
レナは同情すべきほど無力で、そして今まで出会った誰もが霞んでしまうくらい、とても可愛いらしかった。
* * *
レナに振り払われてやったラフィールは愉悦に頬を綻ばせた。
(多少は抵抗してもらわないと、張り合いがない)
必死に逃げようともがく小娘の抵抗を抑えるのは簡単だ。体格も力も、経験値も何もかも違うのだから、焦る彼女を見ていると笑いすらこみ上げてくる。
それに慌てているレナの動きは、著しく精細を欠いていた。混乱するとこうなるんだな、とラフィールはやけに冷静に眺めていたくらいだ。
わざと扉を開けさせてやったのは、別に優しさからではない。希望がみえたところで絶望を与えてやるのも一興かと、ふと思いついたからに過ぎない。
あまりにも簡単に腕の中で閉じ籠られた少女の、頭2つ分ほど下の位置にある犬耳は完全に戦意を喪失していた。
(脅しすぎたか?)
ただ可哀想だとは思わない。あんな不十分な説明で、怪しい薬を返してやったのだからむしろ感謝してもらいたいくらいだ。
「ラフィール隊長……もう……許して……ください……」
(最後の仕上げだな)
レナはポロポロと真珠のような涙を流していた。
「こっちを向け」
そう言うとラフィールは、抵抗を諦めた少女の顎を一気に掬い上げた。
長老「ラフィールは積極的じゃのう」
レナ「展開……ちょっとはやくないですか? もう壁(扉)ドンに顎クイって。読者さま、ポカーンとしてませんか……(オロオロ)」
長老「はやくないぞ。鬼畜から溺愛にはいくつものステップを踏まないといかんからな」
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