妄想の帝国 その18 健康管理社会 不健康、不摂生、不衛生の元凶はニホン国現政府?腐敗しきった政権を終わらせ健康国家を樹立しよう!
国民を不健康にする違法労働加担者、ブラック企業、性犯罪者などなどを次々と拘束し、矯正していった健康警察の面々。不健康者の証言や独自の調査研究のうえ、ニホン国の不健康の原因は現政権だと突き止める。国民の真の健康のため、現政権の官房長官らとオキナワで会合をもつ健康警察のヨウジョウだった…。
増大する一方の医療費削減のため政府はある決定を行った。
“健康絶対促進法”の設立である。健康維持のため、あらゆる不健康な行動、食生活や生活習慣などを禁止するという法案である。個人の権利を侵害するとして反対もあったが
“政府に健康にしてもらえるんだからいいじゃん”
“自分の不摂生で病気になるやつのために医療費を払いたくない”
などの法案賛成の意見が多数あり、法案は可決された。
そして、不健康行動を取り締まる“健康警察”が設置された。
健康警察の活動は次第に拡大し、不健康を生じる組織、企業までが、取り締まりの対象となり、それに伴い違反者の裁判、収容、更生を担う健康検察や健康管理収容所などの組織が作られていった。やがて国民の理解や支持を得てゆき健康絶対促進法関連の組織は次第に権限を増していくことになった。
国民の不健康を是正するため邁進する健康警察、その追及は財界、マスコミに及んだ。ニホン国のあらゆる権力にメスを入れる健康警察は不健康な経営者、マスメディア関係者を次々拘束。拘束者の協力で次々の健康関連商品を発明し販売、最新治療を研究し国際機関で発表し研究資金を獲得と、資金も人材も豊富な一大組織となった。そして健康警察はついに政府と同等の規模にまで成長した。
「やはり暑いなあ、エアコンつけちゃだめなのか」
暑苦しい長袖のスーツにネクタイまで締めた官邸の役人たちの矛盾した台詞に、健康警察関連組織、管理部門のヨウジョウは苦笑いした。
「暑ければあなた方もアロハシャツに着替えてはいかがですか。この建物は周囲に木々が植えられ、窓も大きく良く風もはいるので薄着なら結構大丈夫ですよ。それに屋外との寒暖の差がありすぎると健康にも悪いんですよ」
「それは…。そちらは健康警察だから、健康を気にするのは当然だが」
「そもそもニホン政府が国民の健康のために我らが組織を作ったんですけどね、そのトップの方々が不健康極まりないとはおかしなことですな」
官邸のトップ、官房長官はむっとした様子で
「不健康?我々は健康だ、問題ない」
とスーツを脱ぎながら返事をした。体格が貧弱なのにポッコリお腹、背広をきていたときはわかりにくいが官房長官はメタボそのものだった。他の役人も似たり寄ったりの体型で、一部体を機械化しているとはいえ、健康に適度に日焼けしてがっしりしている健康警察の隊員たちとは大違いだ。
はつらつとした表情の健康警察の面々とは対照的に冴えない官邸の役人たちに対し
「我々の調査ではニホン国民の不健康の元はあなた方現政権です、すなわち我々が拘束し矯正しなければならないのはあなた方なのです」
ヨウジョウはきっぱりと言い放った。
「なんだ、その言い草は。こんなところで呼びつけておいて、なんだ、質問に答えてやらないぞ」
声を荒げる官房長官。
ヨウジョウは全く動じず
「落ち着いて根拠ぐらい聞いたらいかがです、官房長官ともあろうものがみっともない。忖度ばかりの御用記者に囲まれてご自分が帝国の摂政とでも勘違いされたのですかな」
「生意気な、この…」
とブチ切れ寸前の官房長官だったが、側近が耳打ちした。
“長官、どちらにしても帰りの飛行機が出発するのは数時間後、それまで我々はこの島から出られないんです。警備も連れてはきていますが、健康警察の奴等に対抗できるかどうか、警備のなかにも健康警察に同調するものがいるかもしれません”
“く、オキナワで会合というのは我々をおびき寄せたのはそのためだったのか。総理が最新式オムツに興味をしめしたからというのもあるが”
“排泄物を装着中に乾燥、分解処理をうたっていますから。NASAでも採用を検討、火星有人宇宙探査でも使用を検討とのことで。他にも興味深い製品がありますし”
“それを商品化した金を使って、この南の県の施設を建てたし、他にも…”
「ひそひそ話はそれぐらいにしていただいて、政府が不健康の元凶という根拠をあげましょう。ではまず技能実習と称した違法労働を黙認したこと」
とヨウジョウが壁を指し示すと、歳末で検挙された技能実習生を違法に使っていた配送業者の映像が出てきた。
『か、彼らはダイセイからの斡旋だ、あんた方もしっている通り政府関係者が役員やら出資してるから、安全だと』
健康警察からの取り調べをうけている配送業者社長はベラベラと役人や議員との癒着をしゃべってる動画が映し出された。
「こ、こんな奴の証言などあてにならんぞ、その」
と早速反論する官房長官だが声は上ずっている。
「では次、違法エステのダカスノ社長、総理の奥様とご懇意と吹聴し、我々に減刑を申し立てましたよ。知人、身内を贔屓にし、法律をやぶってもおとがめなし。しかも労働者の健康を損ない、医療費を増大させるとは、まさにガンですな」
「総理の奥様は顔がひろいのだ、いろいろとお付き合いしているし、その中には怪しげなものもだな」
「そうですな、長時間使用は危険な薬品や美容機器も使用していたということで、本人にも隠れた健康被害がいくつかあり、いまだ治療中です。アメリカの美容整形学会でも驚きのひどいものです、総理の奥様がそのようなものを使ってなければいいんですが」
“ちょ、長官、総理夫人はそのお取り巻きだけでなく、議員や閣僚のご婦人方にすすめていたんですよ、私の妻も”
と青くなる副長官。
“問題ない、長時間でなければ、多分”
「おやおや随分顔色が悪いですな。まだまだありますよ。総理や大臣方のご親戚、ご友人には性犯罪者が多いんですな、性犯罪更生の研究に随分役にたっていただきましたよ。あ、被害者のトラウマの解消方法もすすみましたしね。克服したようにみえて認知の歪み、弱者への敵愾心やひどい妄想を口にしていた著名人の治験もすすんでますし」
“我が政権の閣僚方はなんたって、あんな変態と、もしかして類はなんとかではないですよね”
“いや、その精神に多少歪みがあっても、多少ではないかもしれんが、そういう知人がいても問題は”
「ないわけではないでしょう、そういう不健全な行いを黙認し、法をまげているわけですから。犯罪の隠蔽に加担する方も不健全な精神ですな」
「わー、盗み聞きするな、ヨウジョウ!」
「長官、そのデシベルでは丸聞こえです。その程度の音量で、小声で話しているつもりとは、ひょっとして難聴ぎみということですか。大都市ではノイズがひどく五感がかなり鈍る、身体の不調の元とウチの研究員もいっていましたが、本当のようですな」
「コンクリートジャングルの不夜城トーキョーではそれぐらいでないとかえって生きていけんのだ!」
「生きていくというよりゾンビになるようなものですね。更生した元広告会社社員たちが“トーキョーでの生活は異常だ、自然の中で生活リズムを戻したら頭がクリアになったし、幸福感もました”といっていましたよ。トーキョーはかなり非人間的な部分があるようですな」
「ふん、田舎ものにはわからんのだ、トーキョー首都であり、大企業の本社があっていろいろと大変で」
地方出身であるにもかからず、田舎をバカにしたようにいう官房長官。可笑しな理屈は無視してひょうひょうとした調子で答えるヨウジョウ。
「家にも帰れず家族にもあえないほど働かされるんですな、大手事務所に所属するの芸能人でも自分のスケジュールはままならない。毎日会社に泊まり込みでゆっくり休むこともできないとか管理がなっていない、大事な商品と言える芸人の健康を害するとは一流大手事務所がきいてあきれる。社長も社員も所属するタレントも、心身ともに実に不健康ですな。そんな病んだ芸人をテレビでみているほうも不健康になりそうです」
「げ、芸人なんだからそれぐらい、芸のためならなんでも」
「芸のためなら、家族も犠牲とは非人間というより非生物的ですな。AIでさえ呆れそうです。それに商品でもなんでも過大に広告をうつというのは視聴者の判断を鈍らせるというやり方ですな、特に政治家の誇大宣伝というのは国民にも実に不健全な影響を与えます」
「せ、宣伝がどうだというのだ、そんなものに影響を受けるほうが不健康だ」
「影響を受けるほうがオカシイですか。ではなぜ、税金を使ってマスコミと不健全な会食を繰り返したのでしょうかね?自分が有利なように影響を及ぼすためではないんですか、マスコミを懐柔して。正確な情報を知らせず国民を騙すとは歪んだ精神ですね。人を操るとはサイコパスというやつですか。それとも国民に選ばれたことも忘れ自分が王だとでも思いこんだ誇大妄想ですか。こんなことを考えるとは重度の精神疾患をおもちなんですな」
異常者扱いされて思わずキレる官房長官。
「わ、私は健康だ、どこも問題ない!」
「この診断結果ではかなり違いますな、長官。貧血に隠れ糖尿病。脳にも影響が及んでいる歪んだ認知、思考がその表れです。そういった症状は必須栄養素の不足も原因です、肉など動物性たんぱく質に偏った会食が原因と思われます。長官の頭がさらに涼しくなられたのも頭皮につまった毛穴の汚れが原因の一つです。ライトの当たりすぎに夜更かし会食の睡眠不足のために老廃物の排出がうまくいかず、今後ますます髪の毛が…」
「う、嘘をつくなー!」
「失礼な、これは最新の健康診断予測で、アメリカの富豪も絶賛。医療費を浮かすためEUや中国でも採用されているんですよ。高齢化の進む中国ではさらに精度の高い予測をというので被検者を募集中ですが、長官おやりになりませんか。特に毛髪の状態のモニターは需要がそれなりにあるんです」
「ふざけているのか、ヨウジョウ」
「半分、本気ですよ。特に総理の胃腸の不調を調べたところ、興味深い結果もありますし」
「きょ、興味深いとは」
ヨウジョウの含んだような物言いに思わず身をのりだす官房長官。
「総理は焼き肉がお好きですが、食べた肉に妙なものも混じっていたようですな。新型プリオン、脳の神経伝達を阻害する異常たんぱく質があったようで。従来の狂牛病プリオンとは違うようですが、やはり蓄積するとアホというか知的能力が著しく劣る点は同様です。総理は前からああいった方だから気が付かなかったんですかね」
「ホ、ホントーですか!ぼ、僕、総理につきあって肉をー」
と叫んだのは警備についていた内閣調査特別室の職員の一人。他の職員も顔から血の気がひいている。
「ああ、大丈夫。今同じく会食していたマスコミ関係者さんが治験に参加しています。今のところ劇的な改善は見込めないものの症状を抑えることはできそうです。もっとも何人かの被験者は残念ながら知能指数がその、ニホン脳炎の治癒後程度になってしまいました。大変お気の毒ですが、総理と焼き肉会食をかなり頻繁にされていたようですので仕方ないかもしれませんね」
「つ、つまり総理との会食で彼らが病気になったと言いたいのかね!」
「そうとも言えますな。自分の嗜好のために周囲を病気にするのも罪と言えます。それだけでなく今まで述べた罪状、一般庶民からお取り巻き、政財界まで心身ともに不健康にするとはトップとしてありえませんな。しかも国民を自ら不健康状態に追い込んで、自己責任を振りかざすとは言語道断、ニホン政府、現政権のあなた方こそ国民の不健康の元凶です」
「なにを生意気な」
「また同じセリフですか。ボギャブラリーがかなり貧弱ですな、長官。やはりトーキョーでの腐敗政権忖度の影響ですかな。それとも記者の鋭い質問に丁寧に答えず、嫌がらせして無視という子供じみたことばかりしたせいで言語能力が退化したせいですかな」
「き、貴様だって不健康とか不摂生とか似たような単語を連発してるだろう!」
「精神と健康の破壊者、国家的詐欺師、人的災害集団、国民の敵などと言ってもよいのですが、交渉時にそのような言葉を使うべきでないと言われましてな、攻撃的過ぎると」
今までの言動が十分攻撃的だとは思っているのかいないのか、淡々とヨウジョウは続ける。
「そもそもこの会合に官邸の皆さんを招待したのは、ある提案をするためです。ニホン国を健全にするため、一度ニホン政府を解体しませんか。そして都道府県が同等の権利をもつ国家連合として再生するのです」
「国家連合?同等の権利だと、バカな今だって国民は平等で」
「そうでしょうか、資源、財力に隔たりがあり、トーキョーなどに集中。逆に大都市の市民は偏った情報にさらされ慢性の睡眠負債をかかえてますし、食事も…」
「そんなことはない、そんなことはあ」
「そういえる根拠は何ですかね。政府は、ニホンは病んでますよ。自分が病気でないと思い込めば病が治るわけではない。適切な治療のため、一度今の体制をみなおし、全都道府県で今後の在り方を協議するために暫定的にわが健康警察が主導となり国家連合をつくるのです。腐敗した政財界が健全な状態に戻るまで、もちろん国民の監視の下で。そのために各都道府県の首長らにも交渉を進めてますし」
「勝手なことをするな!中央政府の許可もなく、そんなことを」
「地方自治は認められているはずですがね。国が、トーキョーの政府が決めたことに地方や国民は黙って従えですか。そういう発想自体、民主主義国家というより独裁国家ですよ、21世紀の健全な国家とは思えませんな」
「なんといおうと、そんな交渉には乗れん!だいたい政府機関の一つが生意気にも…」
“長官、その健康警察はすでに一政府機関とは言えないレベル。優秀な女性、外国人、若者が皆そっちに流れ人材も豊富なうえ、健康商品やら最新治療やらの開発研究で資金も潤沢で、すでに小規模国家レベル、G20の一員となってもおかしくはないとの報告で”
「そうですねえ副長官。まあ額面予算は政府には及びませんが、人材も資金もそれなりにもっていますよ」
「た、確かにオルタナティブ政府といわれているようだが、国際機関カッコクレンに認められているのはニホン政府で」
「カッコクレンを構成する国々にも支持されてるんですがね、健康警察は。まあ心身ともに健康というのは人類共通の目標の一つですからな、不健全腐敗国家とどちらがいいかといえば、いわずもがなですな」
「ともかくニホン政府としてはそんな提案は断る」
「決めるのは貴方ではないでしょう、長官。議会とそして総理ですかな。まあ議会が正常に機能していれば、ですが」
「う、議員は、その」
「与党の議員の大半は治療中ですなあ。精神疾患の疑いを自分で申告された方もいましたしな」
“あいつら自分たちだけ助かりたいからって、健康警察に駆け込むとは”
「元野党の方もこの案には賛成のようですな。もっとも国会の議席をマスメディアの忖度デマ報道とグレー不正選挙で奪われたんで当然ですな。不都合な真実を隠して野党に責任を擦り付けるやり方は入院中のマスコミの社長さんや財界人、自称有識者たちからたっぷり聞かせていただきましたよ」
“くうマスコミ操作で野党を追い出すような真似しなければよかった”
「そうですね、健全な批判者を遠ざけるとは間違ってますな。正常な判断を失っている。まあ今日はいったんお帰りいただいて結構ですよ。あ、総理ご要望の最新全状況対応大人用おむつby健康管理組織商品部もお土産につけますよ」
「あ、ありがとうございます、トーキョーにも入荷してるんですが少量で」
と思わず笑顔で受け取ってしまう副長官。
そのやりとりを不機嫌な顔で見守りながら官房長官は
「では、これにて失礼する」
と、わざと荒々しく足音をたてて退室した。ぺこぺこと頭をさげつつオムツを抱えた副長官たちもそれに続いた。が、警備の何人かはそのままで恐る恐るヨウジョウに問いかけた。
「その、ここに残れば新型プリオンの診断とか治療はうけられんでしょうか」
「ああ、受けられますよ、早い方が治療もしやすい。ただ順番というものが」
「なんでも協力しますから、少しでも早くしていただきたいんです。でも、そのこの話は」
「ああ、大丈夫、長官たちはもう建物から出てますよ、今の話が聞かれる心配はない。だいたい警備の方が何人いたかも気が付いてないんじゃないですか、だいぶ興奮していたようですから」
ヨウジョウはニヤニヤしながら答えた。
(旧ニホン帝国の役人の真似をして“我堂々と退場す”とでもやりたかったんですかね、官房長官。この期に及んでそんなカッコつけとは病んでますな)
と、出し損ねた報告書を改めてみる。
(総理、官邸の買い物依存症、アルコールなどの薬物依存、誇大妄想による浪費、そして膨大な医療費。これらでニホン国は実質破綻寸前。それに目をそらし続けて“俺たちスゴイ、ニホン国最高”と思い込むとは病膏肓に入るというやつですか。これは交渉が難しい。しかしニホンを真に健康にするために、あとひと踏ん張りですな)
と、懇意にしている研究者ジュウヤクお勧めの新開発健康サプリを口に放りこみ今後の予定をめぐらすヨウジョウであった。
ニンゲンの健康には属する社会の影響が少なからずあるんですよね。医療へのアクセスだけでなく人とのかかわりなども関係し、格差社会の健康への影響も研究されているらしいです。