能力の日常
第16話 ~お宅訪問Ⅰ~
「そんな話今まで、聞いたことなかったけれど。」
これじゃあ、数学の問2の(5)の答えがわからない。
「今まで聞かれたことなかったでござるから。」
相も変わらずその何がし道の言葉遣いでわかりにくい。
「これじゃ、ノートに何書いてあるのかわからない。」
「我さえ分かっていればそれで充分なのでござる。」
おそらくこのほどの字の集合体では、さすがに『我』でもわからない気がする。
「じゃあ、問2の(5)の答えって何?」
三佳月はノートを顔面に寄せる。そして、眼を細くしてじっくり観察しているようだが、
「おそらく解いてないでござる。」
「おそらくって。」
僕は呆れた訳ではないけれど、何となくだが三佳月の成績の伸びない原因はこれにあるのかもしれないと思った。
そう、2年生の学年末テストの結果が返ってきたとき…
いや、一番初めに言った言葉を取り消す。
そんな話今まで聞いたことあった。
テストがすべて返却されて、お昼休みにそんな話をした。
『我の家は家族が多いのでお金がいつもないのでござる。』
あれは本当だったんだ。
僕はその頃、僕からお金をせびるために適当なウソをついている。
と勝手に思い込んでいた。
だが、あれは事実だったなんて思いもしなかった。
『キーンコーンカーンコーン』
すべての授業を終えて教室で源先生が来るの待っていた。
「やぁ、でござる。」
三佳月が僕の座っている何とも言えない座席へと足を運んできた。
「どうかした?」
「その、唐突で申しわけないでござるけれど今日家に来ないでござるか?」
「別にいいけれど。多分塾とかもないし。」
「それはありがたいのでござる。」
「ありがたい?」
「その、鈴木殿はいつも車で登校しているでござるよね。」
「まぁ。」
「その我も一度車で登校とかしてみたいでござるので何卒。」
「それくらいならいいけれど。」
僕はあの時、疑ってしまったんだ。
だから、三佳月に僕は僕のできることでお詫びをしたいと思った。
「はい、はよ席に着けー。」
教室に入ると同時に源先生が大きな声でそう言った。
源先生からの諸連絡を耳で聞き頭で理解して忘れて。
今は源先生の諸連絡よりも重要なことがあった。
「〜じゃあこれでホームルームを終わる。学代よろしく。」
いつのまにか決定していた学級代表が起立と言い礼と仰り、みんなが頭を下げて“さようなら”と言って頭を上げてほとんどの人が教室から出て行く。
そして、僕は三佳月の席まで行った。
三佳月は僕とは正反対の窓側の席だったので、みんなの流れとは逆行して三佳月の席に向かった。
三佳月は鞄に荷物を詰めている最中だった。
「ところで三佳月の家ってどこにあるの?」
と僕は三佳月に聞いた。何気に知らない情報だった。
友達続けてはや1年。
よく考えてみれば、三佳月のこと僕はほとんど知らない。家族構成や誕生日、好きな食べ物とか。
「美智川の大樹がある所の近くでござる。」
僕の住んでいた家は美智川を越えて少し行った先の住宅街だった。
そして『美智川の大樹』というのは、この川の北東つまり川の下流の方にものすごく馬鹿でかい高さ50メートルくらいあるんじゃないかというくらい高い木だ。
何故、そこにあるのかはよく知らないが、美智香和の名所のひとつだ。
「へぇー。結構家から学校まで遠くない?」
「たしかに遠いでござるが、我は苦ではないでござる。」
言われてみれば、僕も前の家に住んでいた時は結構な距離を歩いていた気がする。しかし、そこまで辛いとは思ったことなかった。
多分、その理由は慣れなんだと思う。
だから今、あの家から学校まで歩いたら苦なんだろうな。
そんなことを考えていると三佳月は荷物を鞄に詰め込み終わり、僕たちは昇降口へと向かい、そして宮條さんの待つ黒い車まで歩いて行った。
因みにその間の会話は三佳月の解読不能な中二病発言で僕はなんとなく調子を合わせていた。
黒い車が駐車場で止まっているのを発見し、僕たちはその黒い車へと歩いて行く。
「そういえば、鈴木殿の秘書のお方はいと麗しい女子でござるね。我も、ああいうお方を『こそ得め』したいでござるね。」
これはある種の隠語なのか?
“そういえば、鈴木の秘書の女は中々エ◯いからだしとるやないかい。俺ああいう女とヤ◯たいわー”
的な隠語が隠れてるんじゃないだろうか。
「三佳月、それ絶対に宮條さんの前で言ったらダメだよ。じゃないとブッ飛ばされるから。」
「宮條さんとやらは、そんなにお強いお方なのでござるか?なおよろしでござるな。」
“宮條は強くて女◯様みたいなド◯なんかい。なお一層、ヤ◯たいわー”
ダメだ。僕なんてこと考えてるんだ。
ただの普通の会話じゃないか。
「前例があるから。」
鬼龍院を背負い投げした時と小松原の告白といい色々あった。
「それは、何故か危険な香りがするでござるね。」
「ちょっ、ちょっと黙っててくれない?」
僕は妄想というか耳から聞き取る音声が全て下ネタに聞こえるという能力を手に入れてしまったので今は、三佳月の声をシャットアウトしたい。
「アイアイサー!」
“アッ、ラ◯ェー!”
なんだよ!
僕は耳を塞ぎ急いで車に向かった。
今回に関してはノーコメントで。
次回は、鈴木が三佳月の家にお宅訪問です。
それでは読んで頂きありがとうございました。




