創造する日常
第12話 ~想像画~
夕食は、先輩の話が終わると母親の仕事上の愚痴話を聞かされて楽しく過ごせた。
夕食を食べ終えると、美和中ノートをしなければならなかったので自室へ戻り自習をして適当に時間を潰してから寝た。
次の日。
いつも通りの時間に起き、制服に着替えて食堂へ行く。
宮條さんは既に朝食を食べているが、母親の姿がなかったので聞いてみた。
すると、まだ寝ているそうだ。
今日は折角の休みだということなのでしばらくは起きそうにないらしい。
まぁ、ほぼ会社に寝泊まりしている母親が初めてと言っていいほどの休暇。
ゆっくりさせてあげよう。
そんな訳で結局いつもと同じような1日の始まりということになる。
なので、朝食を食べ終えてしばらくして車に乗り込む。
5分程で美智香和中学校に着くのでその間、僕たちは母親の話題で盛り上がっていた。
例えば“一体会社でどんな仕事量があったら家に帰れない状況になるのか”という疑問に対して宮條さんは
『接待なども社長の代わりに行っていらっしゃるので、他の社員とは比べものにはなりませんね。』
だとか。
等々の話で盛り上がり、現在。
車から降りた僕は宮條さんを見送り、生徒用玄関までの道のりを歩いていく。
自転車置き場の自転車も疎でポツポツとあるだけ。
そんな自転車置き場を横目にして僕はまた歩いていく。
しばらく歩くと生徒用玄関
勿論、生徒は人っ子1人見かけない。
まぁ、いつものことなので別に気にも留めず靴箱へ移動する。
3年4組になって靴箱も移動したので間違えないように『3年4組』と心の中で復唱しながら靴箱へと移動した。
僕が小学校から数えて9年間、年度の始まりはいつも学年とクラスを間違えてしまうのでこうして復唱して暗示をかけないと、うっかりしたところで前の学年のときのクラスを書いてしまう時がある。
3年生になって初日、教科書類を配られたときに一瞬、名前のクラスのところに『5』と半分くらいまで書いてしまいグニャッと5を変形させて強制的に4にした。
だけどそのせいで、4が4に見えない事態が発生してしまった。
だから、こうして心の中で復唱して暗示をかけなければならないのだ。
そうして、靴箱に到着して靴を履き替えて3年4組に向かった。
教室に到着すると、昨日のように神楽坂さん2人が亜紀は読書。もう1人の祐樹は昨日出された宿題に必死に取り組んでいた。
まぁ性格は全然違うし、していることが昨日とほぼ同じなので多分。
「「おはよう。」」
やっぱり。
「うん、おはよう。神楽坂さん。」
どちらも同じ名前なので同時に挨拶した。
その後は特に会話がなかったので、神楽坂生徒会長と美和中ノートを提出しに行くことにした。
2組の教室は相変わらずこの学校なので神楽坂生徒会長さんしか教室にはいなかった。
昨日はそっと扉を開けたが、今日は普通に扉を開けた。
『ガラガラ』と少し年季の入った音がした。
その音に神楽坂生徒会長さんは気づき僕に対して、
「おはよう。」
と言ったので
「うん、おはよう。」
と言い返す。
僕は少し教室に入り神楽坂生徒会長さんがしてことを覗く。
どうやら神楽坂生徒会長さん元い神楽坂 桜喜は色鉛筆で絵を描いていた。
「ん、なんの絵?」
人はおらずまるで風景が見たいな森林の絵だが、肝心の被写体がこの教室にはない。
「これは想像した絵。所謂、想像画だね。」
「想像画?」
「風景の想像画ってなんていうんだろう?まぁ、とにかく頭の中で想像した風景を紙に起こすみたいな感じ。」
紙に書かれている絵は、色づいた葉が風によって落ちるその瞬間を写真に納めたような絵。葉の下には清流のようなものが流れており、周りは紅葉の木に囲まれて、奥には色づいた小麦のようなものが一面に広がっている。
これが神楽坂さんが想像していた風景。
なんと言っていいかわからない。
絵はとても綺麗で美しいのだが、何故これを描いているのか?
全くわからない。
「どうして、絵を描いてるの?」
「元々、絵が好きなんだ。絵っていっても風景画だけどね。多分この絵も僕がどこかで見た景色が誇張されて頭の中に浮かんだんだと思う。ほら、こういう想像って今は覚えてるけど5分したら忘れてるみたいな感じで、2度と思い出せないと思うから暇だったから描けるうちに絵を描こうって思っただけだよ。」
「へぇー、綺麗だね。特に落ちてる紅葉見たいな葉。」
「これが特に印象に残るかな。真ん中にあるもんね。」
「うん。」
「あっ、そうだ。美和中ノート提出するんだよね。」
「そうそう。でもこの絵もう少し見ていたい気がする。」
「じゃあ、あげるよ。」
「えっ、でも神楽坂さんが折角描いたものなのに。」
「大丈夫。僕はこれが描けてもう満足だし。捨てるのも勿体ないしね。」
「本当にいい?」
「うん。」
「じゃあ、貰うよ。」
そう言って神楽坂さんから絵を受け取る。
「ありがとう。」
「こちらこそ、ありがとう。」
「じゃあ美和中ノート提出しに行こう。」
「そうだね。」
神楽坂さんはノートを取り出して職人室へと向かった。
今回で第1章終わりです。
次回からifの方になりますので、そちらも読んで頂けると幸いです。
それでは、読んで頂きありがとうございました。




