団欒の日常
第11話 ~親子団欒~
僕は宮條さんに手をギュッと握り引っ張りられながら塾を去る。
いつものことなので慣れているし今更いうのも難なのだが、どうしてすぐに塾を出て行こうとするのか?
『進路希望調査』のプリントを受け取って鞄に入れるだけの行動も宮條さんは待ってくれない。
なので半分入れた状態で手を握られ引っ張られている。
まるでスーパーなどで駄々を捏ねる子供を母親が引っ張る絵面。
だが、それを中学3年生の僕と年齢不詳の宮條さんですると想像、いや体感していて気持ちが悪い。
それでも待ってくれずに車に乗り込まされた僕は車に乗ってからプリントを鞄に入れてシートベルトを閉める。
それと同時に宮條さんが運転席に乗り込み車が発進する。
そしてこの後の僕と宮條さんの行動は、無言。それ一択。
何故なら僕の話題は塾のことしかないから。
宮條さんに塾と最上さんの話題はタブーだ。
じゃないと宮條さんは怒る。
“その話、やめてもらっていいですか?”
冷ややかな言葉でその場を凍りつかせる(経験者は語る)
兎にも角にも、この場を乗り切るには無言が最善の方法なのだ。
無言でなんとかその場を乗り切った僕は、屋敷に戻りお風呂を素早く済ませてから食堂に行くと、珍しく母親がヒレステーキを料理長の前で頬張っていた。
僕に気づいた母親が僕に向かって、
「お帰り、稜駿。」
「うん、ただいま。」
宮條さんはいつのまにか僕の後ろに立ち、母親に一礼している。
僕はその様子を見て、本当に食堂に入っていいのか不安になる。
「入っていいわよ。」
そう言われて僕と宮條さんは中に入るが、逆に許可くれなかったら食堂に入ったらダメだったのだろうか?
僕は食堂に入り、母親の隣に座る。
因みに宮條さんは僕と対面し且つ母親の隣に座る。
「それでーどうだった学校は?何組になったの?」
「4組。友達も結構同じクラスにいるよ。」
「そうなの、稜駿も友達ができたのね。」
1年生の頃は友達0人という感覚だったのだろうか。
「お母さん。稜駿君は思いの外、友達多いですよ。女友達も多いようでこちらに遊びにきていましたよ。」
あれだろ、宮條さんはオブラートに包んで話しているが、実際は無理矢理理不尽に押しかけてきた梓川先輩のことを言っているのだろう。
というか先輩と母親が出会すことがなくて本当によかった。
「へぇー、そうなの。それって紗婭彌ちゃんのことじゃないよね?」
「えぇ、1つ年上の部活動の先輩だそうですよ。」
「えっ?僕そんなこと言いましたか?」
僕は先輩のことを文芸部の部長だ言ったことない。
「情報収集は完璧ですので。」
僕の生活ってそんなに監視されていたのか?
いつ?
「あっ、じゃあ僕が旧校舎の掃除をしていた時はどうしでしたか?」
僕と先輩と梓川妹がよくわからない悪魔だかなんだかに巻き込まれていた時だ。
僕が目覚めたのは僕の部屋。つまりここまでどうやって帰ってきたのか謎なのだ。
「なんのことですか?」
「えっと、様子が変な日ありませんでした?」
「確かに一度ありましたね。迎えに行ったらその“女友達”とその妹さんで歩いてきて、あなたが車に乗り込んだときにあなたが元気のない声で『じゃあ』と言って扉を閉めて私が話しかけても『そうですね』とか『はい』ばっかりで会話が成り立ってなくて帰った後もお風呂に入った後、『食事はいりません』って言って部屋に戻られましたが、考えてみればあの時大丈夫でしたか?」
「えっ、大丈夫です。」
「えっなになに?稜駿もしかして恋に落ちたの?」
「は?何言ってんの?」
「完全に恋の病じゃん。ヒューヒュー!青春だねー!」
「うるさい。そんなんじゃない。」
「まぁ、まぁ、お母さん。」
宮條さんが止めに入ったかと思いきや、
「こういう時は、こういうんですよ。お母さん。“私は認めません”。」
何故そこで冷ややかな声でいうのか!ナチュラルに怖い。
「っていうか、宮條さんに関係ないじゃないですか!」
「私じゃありません。お母さんが言っているのです。」
「そうよ。“認めないわ、あんな子。”」
「知らないじゃん!」
「そうだけど、ろくに挨拶もなしで大事な息子を取るなんて。」
「そうですそうです。お母さんその意気です。」
「だから、宮條さんには関係ないです。」
黙ってないで助けて、シェフ。
僕は今まで黙って見守っているシェフを見る。
「その、私は皿洗いがあるので。し、失礼します。」
あっ、逃げた。
僕たちまだ何も食べてないのに皿洗いだと?
見苦しい嘘より助けて。
ガミガミと母親と宮條さんに言われてそんなんじゃないと何度も言っていたのに聞き入れて貰えず、結論は先輩を連れてこい。という結果になった。
もちろん、連れてくる気はないので却下した。
そもそも、あんな頑固な人タイプじゃない。
そして“ガミガミ”が終わったのをシェフが見計らって僕と宮條さんの分のヒレステーキを運んできた。
「ねぇ、卯月さん。これ冷めちゃったから温めてきて貰えないかしら。」
母親はそう言い、シェフに食べかけのヒレステーキを差し出す。
「はい。」
そう言って卯月さんは食べかけのヒレステーキを受け取る。
なんだか、久しぶりに嫌な思いをした。
だけど、母親と久しぶりに会えてよかったし会話は最低だけど何年かすればいい思い出になるはずだから今日はとっても良い日になったと思う。
色々なことが今日あったけど僕が今日一驚いたのは、シェフの名前が卯月ということだ。
次回、第1章最終回です。
いつものことなのですが、久しぶりすぎるので書いておきます。
次回が終わると『陰キャの日常 if』が始まります。
ifの方では捺加環の特徴に迫っていきます。
では読んで頂きありがとうございました。




