もう一度踏み出す日常
第4話 ~Plus Ultra 後編~
新しいクラスメートに2人気になる人がいた。
例えば、佐藤と佐藤が被ることってよくある。僕の名前もありきたりな名前だから僕と合わせて2人くらいいてもおかしくない筈なんだけど。
どうして“神楽坂”が2人いるんだ?
神楽坂 亜紀と神楽坂 祐樹。そして、去年一緒だった神楽坂 桜喜を含めれば3人いることになる。
多すぎじゃないか?
しかも、この3人はとても秀才で勉学にリーダーシップまで兼ね備える神楽坂御三家だ。そしてこの3人は三つ子というわけでもなく本当にたまたま神楽坂という名前が3人もいてたまたま2人がこのクラスになっただけなのだ。
たが、特に関係のない僕は2人の神楽坂さんと話すきっかけもないのでスルーしている。
どうして、始業式の後に部活ってふざけているのか?
いや、たしかに僕が選んだ部活だから文句は言えないが。もし、高校の入学するのに内心というものがなかったら喜んで退部届けを提出しに行っているのに。
まぁ、適当にしていればなんとかなる。
人生は、どんなに転落しても生きていけるのが人生だ。
だから今、頑張らなくても大丈夫。
そんな僕も、少しずつ旧校舎へ近づいて行っている。
「はい、鈴木君が1番。」
今年、進路指導担当となった戸田先生が僕に言う。
「部長としての責務くらいは果たしますよ。」
「頼もしいわね。今年度もよろしくね。」
「はい。」
僕は鞄を貸し出しのカウンター に置き、本棚の本を取り出す。
題名は、『エンペラーとキング』僕はその本をペラペラとめくってみる。
興味がなかったので本棚に戻した。
次に僕がとったのは『〜Plus Ultra〜とは?』という本。
これもペラペラとページをめくる。
「これでいっか。」
興味がなかった訳ではないが読みたいと思えるような本でもないがこれ以上探していい本と巡り合えるとは思えなかったのでこれにした。
これは所謂、論説文だ。
著者は白石 謙三という人だそうだ。全く聞いたことのない人だけど。
僕はその本を机まで持って行き戸田先生に聞いた。
「先生、白石 謙三って知ってます?」
「え、白石 謙三?聞いたことないわね。」
「そうですか。」
「どうして聞いたの?」
「この本の著者が白石 謙三って言うらしくて聞いたことなかったので。」
「ここの蔵書物は古いからね。多分その本も数十年前のものじゃない?」
「たしかにこの本発行されたの30年前だ。」
「そうなの。かなりの年代ものね。」
「まぁ、取り敢えず読んでみます。」
「はい、どうぞ。」
僕は1ページ目をめくる。
『皆さんが疑問に思うことの解決策は一体どのようなものなのか? 例えば、1+1が何故2なのかと、考えたことあるだろうか?又、一体私は何故ここに存在しているのだろうか?などと考えたことが一度でもあるだろう。 もし“そんな体験ない”と思う人がいるのならばこの本はお勧めしない。•••』
要約すると、スペインのカルロス1世という人の個人的なモットーだとか。そして、筆者はそれの凄さつまり、カルロス1世の人生を辿ってこの言葉の力を『もっと先へ、その先へ』という意味を紹介し、実行していこうという話だった。
面白いとは思わなかったが、為になるとは思った。
プルス•ウルトラか。
考えているうちに部員が図書室に入って各々好きな本を手に取って読み始める。
3年生になったからって何か大きく変わることってあまりない気がする。強いて言えば、先輩達がいないことくらい。
そして、同じクラスのはずだが顔を見せないのは梓川 妹こと梓川 美野里だ。シスコンさんは多分これからは幽霊部員になるような予感がした。
それ以外の人は大抵揃ったので僕は、今日の活動内容を説明することにした。
「はい、じゃあ今日することを説明します。えっと、今年度初めての部活ということで、新入部員の受け入れ準備をしないといけません。簡単に言うと、今日は本を読むと言うよりかは、本を作って欲しいです。もしくは、ポスターを書くか。去年の終わりに本を書くという経験をみんなしていると思うから、多分書けないことはないかもしれないけど、いい発想が思いつかなかったらポスター作ってもらったりと、無駄のない行動をして欲しいです。」
そう言うと、戸田先生が、
「はい、じゃあみんな作業に取り掛かりましょうか。ポスターを作る人は画用紙をカウンターに置いておくから各自で取りにってね。執筆するなら先生が原稿用紙職員室に行って刷ってくるからちょっと待ってて。あっ、鈴木君は私と一緒に来て原稿用紙わ運ぶの手伝って。」
先生が言うと僕は頷き、他の部員約10名が各々のすべきことに取り掛かった。
僕は、戸田先生のお手伝いをするため戸田先生と一緒に図書室を出た。
ここは旧校舎なので一度外に出て新校舎に行かないと印刷機が使えない。だから僕と戸田先生は、靴を履き替えて外に出た。
「鈴木君は、進路どうするつもり?」
「えっ?」
急な質問に驚いてしまった。
「ほら、私今年は進路担当だから鈴木君の学年にどういう風に接すればいいかなって疑問に思って。こういう接しやすい口調で話すのか、『鈴木君の進路は一体どうするつもりですか?』って、お堅い口調で行こうか迷ってて。」
先生にも悩み事くらいある。だけど、それを生徒に尋ねるのはどうなのだろうか?
だが、聞かれたことには答えなくちゃならない。
僕は少し悩んで、
「やわらかい口調のほうがいいと思います。」
と言った。
「そう?」
「はい。だって、初めて喋る人にその“お堅い”口調で行くと絶対に引かれると思いますし。」
「なるほど、参考になったわ。ありがとう。」
「いえいえ。」
その後、新校舎に入り先生が職員室で原稿用紙を刷ってその原稿用紙を持って旧校舎の図書室に帰る。
図書館では、ポスターを描いている人や友達と話す人などがおり、それぞれ楽しそうに過ごしていたが、僕たちが入ると原稿用紙を取りに来る人などが来て先程までの雰囲気がなくなってしまった。
もっと普通にしててくれたらいいのだが。
正直、僕が文芸部の部長になってからなんだかみんな“固く”なっている気がする。
理由は何となくわっかている。
前部長(梓川先輩)は雰囲気が明るく、後先考えない行動でいつも僕を困らせていたが、逆にそれが部員にとって居心地のいい空間になっていたのだと思う。
だけど…僕には、それができない。
雰囲気はそこまで明るくないし、後先は考えるし。先輩とは多分、逆。
だからこの図書室という空間は静かになる。
先輩が部長だった頃は、うるさいまではいかないが静かではなっかた。
部員は友達同士で話をし楽しく部活に取り組んでいた。
今は…
どうすれば、先輩がいたあの時のようになるだろうか。
取り敢えず、部活は終わらせて部員は作業を終えて図書室を出ていく。
結局、良い解決策は思いつかなかった。
僕は戸締りを戸田先生に任せて図書室を出る。
そのあとは、門の近くに停車している黒い車に乗り込む。
中には宮條さんが運転席に腰かけており、
「おかえりなさい。」
と声をかけてくれる。
「ただいま…です。」
僕はいつも通りに応えて、車は発進する。
今日は塾がないので、そのまま屋敷に直行だった。
「どうでした?3年生初日。」
「なんだか変わり映えないなって思いました。」
「そうですか。部活は何しました?」
「部活は、新入部員の準備をしていました。」
「どうでした?3年生になって初めての部活は?」
「うーん。なんというか、梓川先輩ってすごい人なんだって改めて思いました。」
「そうですか。私にとってあの子はかなり迷惑でしたけど。」
そういえば先輩はまぁ色々やらかす人だった。宮條さんはそれを嫌に思っているらしい。ってか、当たり前か。すごいと思っても4/5は迷惑しかないから。
「あっ、今日大小路 紗婭彌さんがいらしていますよ。」
「えっ?紗婭彌がなんで?」
「わかりません。取り敢えず帰りましょう。」
家に着くと、駐車場の前に紗婭彌が立っていた。
こんな寒い中、どうして?
49日の日が脳裏に過ぎる。
“謝らなきゃ”
考えるより先に行動に出てしまった。
車が停車すると、僕は扉を開けて紗婭彌の元まで走り一息ついてから僕は声に出した。
「「ごめん」」
僕と紗婭彌の声が被った。
日が沈み、駐車場のオシャレな街灯がオレンジ色の光を放ち僕と紗婭彌の顔がオレンジ色に染められていく。
被った後、最初に切り出したのは僕だった。
「あ、あの。49日の日に酷いこと言ってごめん。」
「私こそ、何も考えずに傷つくようなこと言ってごめんなさい。」
双方黙ったままでこの状況を傍観していた宮條さんが言った。
「私には何がなんだかよくわかりませんが、仲直りしたのであれば寒いので1度屋敷に帰りましょう。」
宮條さんがそう言い僕たちは屋敷に向かって歩き出した。
屋敷に着くと最初に手洗いうがいなどをして、社長室に行こうとしたが、何やら商談をしていると言うことだったので使えず、食堂も夕食の準備で部屋が使えないのだとか。
だから、鈴木 郁弥の個人スペース。つまり僕の部屋に紗婭彌が入って来た。
「りょうの部屋何もないんだね。」
「欲張りはしないって決めてるから。」
「へぇー。でももう話すことないんだけどね。」
それは僕も同感だ。一体何を話せば良いのかさっぱりわからない。
「あっ、どうしてここに来たの?謝るだけのため?」
ナイス僕。会話をなんとか繋げた。
「りょうに謝るのもあったけど、急遽父さんが資料がいるって言うから。」
紗婭彌の父親は鈴の音イグディス関係の仕事をしているため、資料が必要なのだろう。
「でも、その資料があるのは社長室だから入れないのよね。」
「そっか。お父さんも大変だね。」
「そうよねー。でも働いてくれないと困るし。」
父親に対して塩対応していそうな言い方だ。
「まぁ、ね。」
「あっ、ごめん。りょう。」
「うんん。大丈夫。」
「りょうはどうしてそんなに強いの?」
「僕が強い?どこが?」
「お父さんも亡くなってお母さんとも毎日は会っていない。私なら父さんはともかく、母さんが会えなくなったり会う回数で減るのは私じゃ耐えられないなって思って。」
「元々、父さんは帰ってくる回数少なかったし母さんも帰ってくる時間が遅いから1人が慣れているのかも。」
そう答えると紗婭彌は眉を寄せた。
「寂しくないの?」
「寂しいけど、いつかこうなると思うと寂しいけどなんというか荷が軽くなる感じ?よくわからないけどそんな感じ。」
「りょうが心配だよ。」
「心配されるほどのことでもないよ。もう。」
「ねぇ、りょう。世の中にはいろんな人が高みへ登ろうとしている。だけど、どんなものにも限度があるの。寂しさの高みへ登る。つまり寂しさを克服してしまったらこれから寂しくなっても、無慈悲に吹っ切れったって言ってさらにその高みへ行く。そして最終的に無感情になっちゃうのよ、どんなことが起きても。りょうにはそんなことになって欲しくない。だから以前の気持ちを思い出して。あの寂しさを。」
コンビニに出かけたきり帰ってこなかった。僕はその時ゲームをして適当な言葉で見送った。
僕は正しいことをしたのだろうか。
僕の成長って無感情になることだったんじゃないのだろか。
それは成長って言えるのだろうか。
僕は次第に涙を流していく。無表情で。
「りょう。」
沙婭彌は僕の頭を優しく撫でる。
成長って何かを克服するのではなく、それを噛み締めて次に進むことが本当の成長じゃないのか?
今日見たあの本、Plus Ultraって『もっと先へ、その先へ』という意味で『もっと先へ』は本当に生き方として正しいのか?
カルロス1世の人生を辿っても、それは僕の人生じゃない。
僕の人生はただ前を向けば良いって訳じゃない。
後ろを向くことだって必要なんだ。
僕は、今度こそ成長する。
お久しぶりです。
かなりの時間が開きましたがまだまだ続きますので本当に気長にお願いします。
一体どうして毎日投稿できていたのでしょう。
今考えると暇を持て余しすぎたと反省しています。
それでは次回は神楽坂さんとですね。
では読んで頂きありがとうございました。




