始まる日常
第1話 ~あなたは誰~
「どうも、語り手です。」
私のことは放っておいて下さい。
私は主人公ではありません。ただの傍観者です。
主人公は鈴木 稜駿でしょ。
この本は鈴木 稜駿にまつわるお話でモブS君に名前をあげただけの人です。
これ以上はどうでもいいでしょう。
私には名前は必要ありません。“語り手”で十分です。
第2話 ~親族~
父親の死から49日後。
「南無阿弥陀•••」
お坊さんが父親の亡骸に向かって念仏を唱えていた。
数珠を持ち何をしているのかわからないが、兎に角何かしている。
49日の念仏をお坊さんが唱え終わると、そさくさと帰っていく。
残った僕や親族、会社の人などはあまり楽しい雰囲気ではなかったが声を潜めて話していた。
橘さんに肩を叩かれたあと、考えに耽っていたが、
「りょう。」
僕に話しかけてくる人がいた。
それは、僕の従姉妹の大小路 紗婭彌だ。
僕の父親には姉がいて既に結婚しており従姉妹の紗婭彌の子供がいる。因みに紗婭彌は17歳で僕の姉みたいな存在だ。
「しっかりしてね。」
紗婭彌は僕をそう励ます。
ただ僕はこっくりと頷くだけで紗婭彌は困った顔をして「またね。」と言い部屋から出て行く。
多分、食堂に行ったのだと思う。
あんなに広い食堂がこの屋敷にあり今まで2、3人でしか食べなかった、ただ広いだけの食堂は、今日はなんだか広いと感じないくらいの人が押し寄せていた。
料理人も今日は1人ではない。
テーブルも沢山出ていてパーティ会場のようだが、ナプキンは白色が普通なはずなのに黒色だったり、テーブルシートも白ではなく黒で部屋の明かりも薄暗い。
今日は葬儀ver.ということだろう。
そして続々と運ばれてくる精進料理をウェイターが各テーブルに料理を置き其々に飲み物を書いて回っている。僕は適当に烏龍茶と言いウェイターがかしこまりました。と言い残して離れて行く。
僕の席には、母親と宮條さん、橘さん、弁護士の樹原さんが座り近くには紗婭彌の家族が座っていた。
因みに、紗婭彌の母親つまり僕の父親の姉は遺産の一部を相続したが、会社の経営についての遺言は書かれていなかったため僕と僕の母親が父親の株を相続し紗婭彌の母親には株は渡されなかった。
精進料理が全ての席に運ばれるとウェイターは各テーブルに飲み物を運んでいく。
其々が注文したものを間違えることなく置くと母親が席を立ち全員の注目を集めた。
「皆さん、今日は故人 鈴木 郁弥の49日にご出席いただきありがとうございます。この食事は精進料理ですが生前、郁弥が好物だったものを肉、魚を使わずに再現させました。味も素晴らしいものなので、これを機にもう一度郁弥を思い出して1つの節目とさせていただきます。それでは皆さん、いただきます。」
みんな“いただきます”とは言わないが手を合わせる。
僕もそれをして、お箸を手に取る。
僕が父親が好きだったのは、どうやら寿司みたいだ。
僕はそんなことも知らなかったんだ。
マグロは金時人参を使っているようだ。味はマグロとは程遠いが不味くはない。
イカは大根、いくらはグリーンピースに赤い着色料をつけており、さらにキュウリが乗っているので野菜に野菜というミスマッチなものも不味くはない。だが美味しいという訳でもない。 よくわからない。
他にも料理はあったが、どれも不味くもないし美味しくもなかった。
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今、思えばそんなことどうでも良かったんだ。味が美味しくても美味しくなくても自分がしたことを薄々気づいていたんだと思う。
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僕たちは料理を食べ終え、みんなはそろそろ帰宅する頃、僕は沙婭彌に声をかけられた。
「りょうは、これで良いの?」
「これって何?」
「こんな結末で良いの?」
「結末?」
「だって今のりょうって暗いし、ずっと悩んでるように見える。だから叔父さんが亡くなってそんな自分で良いの?」
「あや姉にはわかんないんだ。お父さんが死んだ後の息子の気持ちなんて。だからそうやって呑気な事言ってられるんだ。もう放っておいて。」
「ごめん、りょう。じゃあまたね。」
最悪な別れ方をしてしまった。
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だけど、この時の僕には沙婭彌が許せなくて仕方なかった。暗いのは承知だし、悩んでいるのも確かだ。だけど、放っておいて欲しかった。考える時間が必要だったんだ。
第3話 ~ Plus Ultra 前編~
新しいスタートは勇気が湧いていた。
今度こそ、間違えたりしない。
父親のあの手紙を読んで、僕はもう一度決心した。
強欲になったりしない。
僕は着替えなどを済まして、学校へ向かおうと玄関に行く。
「あっ、待ってください。」
宮條さんがエントランスの階段を駆け下りる。
「あっ、宮條さん、僕今日は歩いて行き帰ります。」
「えっ、よろしいんですか?」
「はい。たまには4ヶ月前みたいに歩きたくなったんで。」
「そうですか。では、行ってらっしゃいませ。」
「はい。行ってきます。」
「あっ、門までお見送りしますよ。」
「大丈夫ですよ。」
「いいえ、これでは私の業務である秘書とお世話とお手伝いの中の“お世話”と“お手伝い”が滞ってしまい職務放棄になってしまいます。」
僕はもう面倒になり、
「じゃあお願いします。」
「承知しました。」
長い門までの道を歩き門に辿り着くと、宮條さんは再度“行ってらっしゃいませ”と言う。
僕も先ほどと同じ返事をして、歩道を歩いて行く。
今日から新しいクラスで新しいクラスメートで全てが、初めからリセットされているみたいで決心にさらに勇気の効果が付属されており今の僕は最高の気分だ。
元々住んでいた家は初めに坂を登る必要があったが、この道は坂がなく平坦な道が続きすぐに美智香和中学校に着くことができた。
中学校の門を歩いて通るのは何ヶ月ぶりだろうか?
「おーい!鈴木殿!」
僕が来た道とは逆の方向から声が聞こえた。僕は門を見ていたが、声のした方を振り向く。
あれは、三佳月だった。
まだ謎の“ござる道”は続いているらしい。『殿』って、僕は殿様じゃない。
『おーい』と言い、まわりの注目を集めた三佳月は、今更恥ずかしがりながら僕の方へ来た。
いや、大きな声で『殿』なんて叫んだら、もちろんみんなの注目を集めるに決まっている。
そっか、『おーい』じゃなくて『殿』にみんな反応したんだ。じゃあ殿と呼ばれた僕は•••やっぱり、みんな僕を見てる。
「おはようでござる、鈴木殿。」
「あー、早く昇降口に行こっか。」
「そうでござるな。」
その『ござる』お願いだからやめてくれ!
昇降口まで来た僕と三佳月は、靴を履き替えて話し出した。
「一旦、元々のクラスに戻るのでござるな。鈴木殿とお別れしたくないでござるなー。」
「大丈夫。別のクラスになっても三佳月はなんとかやっていけると僕は思うけど。」
「そうではなくて、鈴木殿と別れたら我の立場が危ういのでござる!」
あっ、三佳月もそっち系の人だったのか。
「本当に言ってる?」
「まぁ、多少は我と鈴木殿が別々になりたくないというのも含まれているでござるが。」
「三佳月ってツンデレだったけ?」
「そんな訳ないでござる。」
あ、ツンデレだ。
そして、そんなどうでもいい話をしているといつのまにか教室についていた。
「ほんと、ここまでの長すぎる。昇降口の位置変えればいいのに。」
「そうでござるな。」
僕は2年5組の教室を開ける。
教室には思ったより人が多く、最後のお別れをしていた。
「あっ、稜駿くん。おはよう。この『おはよう』も今日で最後かもしれないね。」
「まぁ、廊下ですれ違うことだってあると思うし最後ではないから大丈夫だよ。」
「そうだね。じゃあ用意したらいつものノートを入れに行こう。」
「うん、ちょっと待ってて。」
「こんな時でも美和中ノートを欠かせないのは2人ともすごいでござる。」
「そんなことないよ。」
神楽坂さんはそう言う。
僕は僕の席に鞄を置き、ノートを取り出す。
「そんなことあるでござる。」
「だって、ノート提出してる人このクラスでは10人にも満たないでござる。」
「逆に10くらいの人も提出しているじゃないかな。30人のクラスで約1/3の人が提出していたらそれでいいんじゃないかな?でも、それも今日の後数十分だけだけど。」
「そうでござるね。」
「じゃあ稜駿くん。早く行こうか。」
「うん。」
そう言い教室を出た。
「本当にあと少しだけだね。」
神楽坂さんがそう言う。
「うん。今までありがとう。」
「ちょっと待って、まだあるよ。少なくてもあと1年は同じ学校だからね。」
「そっか。じゃあ教室が違ってもこうしてノートを提出しに行けるね。」
「そうだね。この学校は他クラスの教室に入ってもいい学校だから顔をこうしてまた挨拶もできてノートも一緒に提出できるね。」
「そっか。じゃあ今後ともよろしくお願いします。」
「新年じゃないよ。稜駿くん。」
「新年度、よろしくお願いします。」
「そうだね。こちらこそよろしく。」
そして僕たちはノートを提出した時、
梓川先輩の妹、梓川 美野里の姿が見えた。
一瞬梓川は僕を見たが、無視してそのまま教室に向かって行った。
そして、その後に鬼龍院もいたが、この人も僕を一瞬見ただけで教室に向かう。
「みんな、どうしたんだろう。」
「いやー、なんでもないよ。」
何かを感じ取った神楽坂が僕にそう聞くが、適当に誤魔化す。別に誤魔化すことでもないけれど。なんとなく。
そして僕たちも教室に向かった。
教室に戻るともう既に陽キャグループに汚染されており三佳月は本を読んでいた。 実際は“見ていた”だ。
陽キャグループにはもちろん、あの人だっている。
「おー!稜駿く〜ん、じゃな〜いか〜。」
テンションMAXの寺野は今日も絶好調らしい。
「おはよう、寺野。」
僕はそう言い席に戻る。挨拶しないよりはどんなに適当でも挨拶すべきだと思う。
それに感激したのか、寺野は、
「あぁ、おはよう!稜駿く〜ん。」
いや、完全に煽られている。
『キーンコーンカーンコーン』
久しぶりに聞く学校のチャイムは•••ただ憂鬱にさせるだけだった。
そしてその後に源先生が名簿を持って入ってきた。
今日の流れを話し終えた源先生は、
「それでは、今からクラス替えの発表をする。」
と言い、持っていた名簿を開けて言う。
「今から右から順に、1組、2組、3組、4組、5組と並んでもらうぞー。」
「マジかー!これで終わりかっ!みんなありがとな。」
寺野じゃない誰かがそう言う。
「はぁ、じゃあ言うぞ。」
「1組•••」
知ってる人は言われなかった。
「2組•••神楽坂•••」
神楽坂が言われてしまった。僕は2組じゃない。
「3組•••鬼龍院•••」
鬼龍院が呼ばれた。
「4組•••梓川•••鈴木•••三佳月•••寺野•••」
僕と梓川、三佳月、寺野が一緒って知り合いが多くてよかった。
「5組•••」
「よし、じゃあそれぞれ言われたクラスに行ってくれ。後にそれぞれの担任が来る。じゃあ解散。」
「鈴木殿、また一緒でござるな!」
「うん。よろしく。」
「はい!よろしくでござる。」
3年4組の教室でそんな話をいた。
3年4組は、校舎3階にあり昇降口からは前よりかは近くなった。多分今頃2年5組は元1年生の教室になるのだろう。新1年生は体育館でソワソワしているのだろうか?
4組のメンバーはあまり顔なじみのない人や1年生だった頃のクラスメートがいたりと色とりどりだ。
そして、小松原が廊下側の席に座っていた。
『ガラッ』
担任が入ってきた。
「「えっーーーーー!」」
元5組の人の殆どが声を上げた。
「いやー、元5組の人にとっては“またかよー”だよな。すまん、担任は源 寿一だ。」
また、いつもの日常が始まる。
season 2 開幕です!
殆どのメンバーが4組で、ほぼ変わっておりません。担任も源だし。でも、初めて出てくる登場人物もいますよね。(•••沙婭彌)
ですがseason 2では、これから始まる変化、変化によって生じる問題などがあり
そして最後の結末に•••
では、読んで頂きありがとうございました。
最初の“語り手”についてはノーコメントで。




