私欲の日常
第83話 ~終わりの始まり~
今日は父親が亡くなって49日目だ。
長いようで短いような。
49日前までは普通に長距離トラックの運転手として普通に過ごしていたはずなのに。
でも、今日また死ぬ人もいるし生まれる人もいる。
49日前にも亡くなった人がいて産まれた人もいる。
そう考えると、生死なんて本当にただの通過点としか思えない。
その日、悲しんだ人がいても地球の裏側では同じ悲しみを味わっている人なんて絶対にいない。
僕の家の隣の人だって父親が死んだことなんて知らないんじゃないだろうか。
お葬式は家族葬だったので親類しか来ていなかった。つまりそれ以外の人は普通に過ごして普通の日であって逆に僕も今考えている間に亡くなった人がいるのかもしれない。
だけど、悲しくない。普通だ。
どうして?
今日は春休みだが制服を着て屋敷の社長室へ足を運ぶ。
まだお寺の人は来ていないみたい。
だが社長室には、母親、橘さん、宮條さん、その他親類が部屋にいた。
この屋敷の中では最も小さな部屋なのでこんなにも人がいると窮屈だ。
それに社長室のデスクに遺骨と遺影を置いているのでその奥には行けず余計に窮屈だ。
しばらく待っているとお寺の人が来た。
宗派とか何がどうとかは全くわからないので母親に任せる。
でも母親も何言ってるのかわからなそうだった。
「蝋燭はこちらの燭台に刺して、線香は3つに分けて並べてください。」
「は、はぁ。」
母親は微妙な顔をして言った。
その後も少し説明を受けて、
「尽阿弥陀仏•••」
どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
1時間?2時間?
そろそろ念仏も終わる頃だろう。
正直、これをすることに意味なんてあるのかないかなんて分からないが、しなくても良いはずだ。
「•••經瞻餘鐙縄」
『ボーン•••』
この音の後の響きが僕は嫌いだ。
心臓まで震えているかのようでまるで脳震盪が起きているみたいにフラフラしてくる。
それでも最後は手を合わせる。
「終わりました。」
お寺の人がそう言い席を立つとお辞儀をしてお金の入った封筒を受け取る。
勿論、この人だってこれで生計を立てて生活しているのだから当然のことなのだろう。
「ありがとうございました。」
母親がそう言う。
結局、この部屋にいる全員涙を流すことはなかった。
49日前まではあんなにも号泣していた僕もただ頭がフラフラするとしか考えていなかったのかもしれない。
どうして?
またそんなふうに疑問が募る。
僕は父親を忘れたのか?
泣かなければならない使命などはない。
だけど、だけど•••
頭の中が困惑で満ちていく。
僕は最低な人間だ。と。
今までずっとずっと忘れていた。
校外学習、僕は父親のことを忘れていた。
先輩とおかしな体験をした時だって、僕はただ生きることしか考えていなかった。
大切な家族なのに。
挙句、会社のことが手一杯になった時、49日まであと1週間だとわかっていたのにも関わらず、犯人探しをしていた。
その時に父親が生きていて欲しかったと願ったけど、結局僕が面倒なことを父親に押し付けたかっただけ。
それを最低と言わずしてなんと言うのだろうか。
クズ?存在価値なし?陰キャ?
どんな誹謗中傷を浴びても今言えるのは、ごめんなさい。ただ一言だ。
自分の自己私欲を満たすために、父親に生き返ってほしいだとか、ただ生きたいだとか•••
ごめんなさい。お父さん。
僕は、僕は最低で親不孝者だと思ってる。
実際そう。
クズで最低で卑劣で陰キャで。お父さんのこと何にも知らなかった。
もう•••
その時、僕の肩に手が置かれたのを感じた。
手を置いたのは橘さんだった。
「前の社長は成長していらっしゃいましたよ。」
そして橘さんは手を離した。
成長。
橘さんは何を言いたいのだろうか。
でも父親はいつも前向きだった。
最後に話したあの日。
父親はそれでいいんだと言っていた。
ゲームをしていた僕に。
ただそう言って出かけた。
橘さんは僕に成長しろと言ったのか?
後ろばっかり向かずに?
じゃなかったらあの言葉は何?
僕が思ったことはそれだけ。過去に縋るな、成長しろ。と言っているのだろうか?
わからない。
それを直接橘さんに聞くことも出来るが、ここは1人で考えなければならないところなのだろう。
考える。考えると•••
最近、毎日投稿というのが難しくなってきました。
初めは、ポンポンと毎朝7時に投稿していたのですが最近は、良いとはいえません。
でもやることが増えてくるこの時期、執筆にあたる時間がない現実。
こんなところで語り始めるのは良くないですね。
それでは読んで頂きありがとうございました。




