拡散の日常
第80話 ~拡散~
僕は一度家に帰ることになった。
家というのは語弊がある。寝泊りしているあの屋敷というのがただしいのかもしれない。
宮條さんは運転をして、僕はただ座席に座って屋敷に着くのを待っている。
ただそれだけの時間。
でもそれでよかった。
だってそうじゃなかったらきっとまた別の問題が来るだけだから。
屋敷に着き車から降りる。
本当ならば今日も家で寝泊りする筈だった予定が株の横領だかなんだかに奪われてしまった。
だけどこれ以上は特に問題も起きたりしない筈。
だって上手く立ち回って、湯浅さんとの接触も出来る限り避けられたしもうこれ以上問題があっても対処できるわけがない。
もう考えるのも嫌になった僕はゆっくり湯船に浸かり、美味しいご飯を宮條さんと2人で食べて何も変わらない日常を過ごした。
寝ると少し気分が良くなった。
昨日まで問題がどうとか思っていたが、ゲームをしているとそんなこと考えずに済んだ。
ファーストパーソンシュミレーションゲーム所謂fpsで朝の時間を潰す。
敵を銃で撃ち◯すゲーム『コール オブ デューク』通称CODで遊びストレスを発散した。
今日は普通の日。本当になんでもない日。
そう思っていた。
『バンッ』
いきなり僕の部屋の扉が開く。
誰だかもう大体予想はつく。宮條さんだろう。
僕は振り返ってみると、やっぱり宮條さんだった。
「今すぐ会社に行きますよ!」
今度は何が問題なんだろうか。
昨日の今日とで美智香和の中心部にやってきた。
今日も人が沢山いる。
歩いている人、走っている人。
それぞれ、僕とは違う目的があるから歩いたり走ったりしている。
それが普通。
僕の嫌ことをあの人たちに全部押し付けるなんて無理に決まってる。
そんな役に立たないことを考えているとあのビルに到着した。
車の周りには前みたいに沢山人はいなかった。
僕の母親と橘さんそれとエントランスにいる受付嬢の2人。確か•••ダメだ。思い出せない。
僕は車を降りてどこへ通されたか、最上階の会議室だった。
会議室にいたのは、樹原さんとその部下っぽい人達のみ。
後はエレベーターで一緒に来た僕の母親や橘さんなどだけだった。
それぞれ任意の席に腰掛ける。
昨日みたいにたくさんの人はいないため人と人との感覚が広い。
そして、僕が腰掛けると宮條さんは一歩下がったところで停止した。
「席に座ってもいいんじゃないですか?」
僕がそう言うと宮條さんは
「私は秘書ですので。」
「そうなんですか。」
まぁ座らないなら別にいいんだけど。
全員が先に着くと樹原さんが、
「皆さんお集まり頂きありがとうございます。今回集まって頂いたのは2つの“問題”が生じたからです。」
“問題”そのフレーズは大っ嫌いだ。普通は問題なんて起きる筈がない。
「1つ目ですが、また鈴木 真由子様の株が何者かによって盗まれました。
今回も2%の株が盗まれました。
残り鈴木 真由子様の株は6%となりました。
ここで少し考えてみてください。
セキュリティー会社に調べてもらったところ、株が盗まれたのはちょうど1週間前だそうです。
今回でちょうど1週間経ち、また2%盗まれている。
これはなんらかの計画性があると私はみています。
次、盗まれるのは来週あたりかもしれません。」
そうなんだ。でもどうやって盗まれているのか手口もわからないのにどうすればいいんだ。
「2つ目の問題なんですが、鈴木 稜駿様とそちらの受付嬢2名が深く関わっています。
あっ、紹介しておきます。2人の受付嬢の右が智代左が紗綾です。
では、この3人がどう関係していらなかと言うと、鈴木 稜駿様が社長だということをこの受付嬢が広めたのです。
この情報はどんどん拡散していき今や鈴木 稜駿様のことを知らない人間はこの会社にはいません。
その情報を知った、私と鈴木 真由子様、橘 躬弦様が外部へこの情報が漏れないように少し特殊なルートを使って押さえ込んでいます。
ですが、社員の1人でもこの情報をマスコミなどに喋ったら、あっという間に情報が広がり一部業界から批判を受けることになります。何故なら中学生という義務教育の途中で仕事をしているという設定ですので政府の方々や色々な業界から叩かれることは間違いありません。
では、本題に入りましょう。会社に多大なる損害を齎した
この受付嬢2名にどのようにしますか?
鈴木 稜駿様。」
「えっ、はい?」
一瞬戸惑った。決して樹原さんの話を聞いていなかった訳じゃない。
「この受付嬢2名にどのような処分をいたしますか?」
「えっ?」なんで?
この人たち何か悪いことしたのだろうか。
受付嬢2人は頭を下げたままこちらを向かない。
えっー。処分ってクビとかのことだよな。でも特に実害とかもないしどうでもいいんだけど。
「それじゃあ•••人事部に任せます。」
「「「えっ」」」
樹原さん、受付嬢2人が目を丸くした。
「えっと、何か問題でしたか?」
「いえいえ、人事部に任せるのですね。わかりました。そう旨を人事部に伝えておきます。」
樹原さんがそう言い、部下を走らせた。
多分電話か何かで人事部に知らせているのだろう。
これで一件落着なんだろうか。
まぁ今日は早く帰ってCODの続きしたいしなんでもいいや。
後で宮條さんに聞いたが、あの受付嬢の2人は総務課に移ったそうだ。
だからまた別の人が受付に移ったのだろう。
そしてまた今日も会社にいる。
理由は、
「今日また鈴木 真由子様の株が盗まれました。」
会議室には湯浅さんもいた。




