怪しい日常
第79話 ~容疑者~
「電話出ませんねー。」
宮條はスマホを見ながらそういうが、スマホから発信音が消えると、
「何かあったのでしょうか?」
宮條は真由子にそう言った。
「大丈夫よ。もし何かあっても責任は私が取るから。」
「そういう意味で言ってるんじゃありません。」
「そう、でもきっと大丈夫よ。私はいつもあなたに任せきりだけど、それはここ数週間の話。
長い月日とは比べものにならないわ。」
「そう、ですね•••」
宮條はその言葉がどうして受け入れならなかった。
「何か不満?」
「私、ちょっと探してきます。」
宮條は電気系統の点検のことを知っていたので階段で1階へと駆け下りた。
だが駆け下りたと言っても実際は5階ほど下りたところでヘトヘトとなったが、それでも1階を目指して宮條は階段をゆっくり下りた。
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先程まで聞こえていたカタカタ音がなくなる。
つまり誰かは作業を止めたということ。
その次に来るのは一体何なのか。言わなくても想像できる。
足音が近づいてくる。
これは見つかったら一体どうなるんだ?
僕は壁に張り付いて出来るだけ目立たないように•••これは他の人から見ると相当目立つ。
だが、薄暗い廊下の中で真ん中に突っ立つよりはマシな筈だ。
大丈夫だ。
何かあっても襲われる可能性は多分低い、だってここの社長だから。
とも思ったが、よく考えてみれば僕は社員に社長と認知されていない。精々背伸びした小学生なんだろう。
あの社員を無性にクビにしたくなった。だがそれは今後、社会問題に繋がっていくのだろう。
世の中って怖すぎる。
マスコミが一体どこにいるかなんて想像したくない。って今かなり危機的状況なのにマスコミついて語ってなんていられない。
ドアノブに手がかかる音がした。
これを後は開くだけで僕がいる廊下に通じる。
どうしよう。やっぱり逃げる?
走ったら足音が出るし、ゆっくり逃げるというは論外だ。
じゃあどうすべきか、子供っぽく振る舞えばいいんじゃないのか?
『ガチャ』
扉が開いた。
もうこれしかない!この作戦で行こう。
扉を開けたのは新入社員っぽい人、20代の女の人だ。
そしてちょうどその時、
『ガシャン』『ガシャン』
まさかのここで電力が復旧した。
タイミング良すぎないか?
そうなると、その人は壁に張り付いている僕を見つける。
「ここで何してるの?」
その新入社員っぽい人が尋ねてきた。
名札を見ると彼女は、湯浅 結衣その下に総務課と書かれていた。
「えっと•••迷子になって。」
「そうなの?お母さんどこか分かる?」
「わ、わからない。」
「そう、じゃあお姉さんと一緒にちょっと来て。」
意外にも親切な湯浅さんはエレベーターで1階に送ってくれた。
『一階です』
この機械的な音も聴き慣れて1階へとやってきた僕と湯浅さんは僕を人を待たせる座席に送る。
「お姉さんちょっとまだやることがあるからここで待っててね。」
そう言うとスタスタとエレベーターに駆け込みどこかへ行った。
多分3階だろう。
そして湯浅さんがエレベーターに乗ると同時に別のエレベーターが到着しそこから沢山の人が出てくる。
その中に橘さんもいた。
橘さんは帰宅するのか僕の前を通ってエントランスを通り抜けようとしていたが僕がそれを阻止する。
単純に真苗を読んだだけだが。
「橘さん。」
すると橘さんは僕の方を見る。
「あぁー、稜駿くん。どうしたの?」
「その、株の横領か知りませんけど怪しい人を見つけたんです。」
「えっ!そうなの?」
「はい•••」
僕が湯浅さんの名前を言おうとしたその時、
「探しましたよー!」
ヘトヘトの宮條さんが僕の方へくる。
「心配、しましたよ。」
「す、すみません。」
「どうして、電話に出なかったのですか?」
「電話しなくていい時に電話したから切ってしまいました。」
「どうしてですか?」
それは、犯人が何かしていたから。
•••一概に湯浅さんが犯人と言えるのか?
だって湯浅さんは確かにあそこで何をしていたのかはわからないが、単純に人気のない場所で仕事をしたかっただけなのかもしれない。だってコンピュータでできることっていうのは少ない筈。
「見学している間に急に停電になって。」
「そ、そういえば伝え忘れていました。すみませんいつも大事なことを言い忘れてしまって。」
「別に大丈夫ですよ。何もなかった訳だし。」
「それはそうですが•••」
「あれ?お母さん見たかったの?それに副社長どうしてここに?」
いつのまに現れたのか湯浅さんが僕たちの間に割り込んでいる。
「えっと•••そう。お母さん見つかった。」
「よかったね。お母さん息子さん3階で迷子になってましたよ。」
湯浅さんは宮條さんにそう言う。
宮條さんも一瞬戸惑ったが、多分理解してくれてそれに合わせて、
「はい。仕事に夢中になってたらつい目を離してしまって。」
「次は気をつけてくださいね。それで副社長何故ここに?」
ちょっと待て。マズイよ。橘さんは副社長という地位の中宮條さん(平社員役)の近くになんて普通ある筈ないよな。つまりこれって僕たちの方が怪しまれるんじゃないのか?
「いやー、子供の育児って大変だからこのビルにも保育施設か社員の子供を預けるスペースみたいなものを作るのを検討してみた方がいいかなーって見ていて思ったから。」
「そうだったんですかー。」
ナイス!橘さん。
「そうそう。最近シングルマザーで働いて帰りが遅いなんてことがよくあるからねー。」
「そうですね。是非前向きに検討してください。それでは私はここで失礼します。バイバイ、君。」
僕は手を振った。
すると湯浅さんは今度はエントランスの方へ向かいそのまま会社を後にした。
「危なかったー。」
僕は安堵した。
「気をつけてくださいね。社員に知られては困るのですから。」
宮條さんがそう言う。
「どうして、僕が社長だと言うことみんな知らないのですか?」
「それは、プライバシーを尊重しているからです。」
なんだかイマイチな回答が返ってきた。
「そうですか。」
「じゃあ私はここで。」
橘さんはそう言ってエントランスから会社を出て行った。
「どうでしたか、ここの社会見学は?」
「怪しいですね。」
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受付嬢の智代と紗綾は困惑していた。
何故なら彼ら3人の話を盗み聞きしていたからだ。
ここの社長が子供だとは、みんな知っている。
だがその人がこんな身近にいるとはこな2人は予想していなかった。
迷子の子供がお母さんが来るのを待っている。
2人ともそんな考えだった。
だけど、副社長である橘 躬弦があの子に敬語で話している。
その様子を見ていた2人がした行動は•••共有することだった。
怪しいやつ登場しましたてね。
さて、この人が犯人なのでしょうか•••物語はまだまだこれからですよ。
それでは読んで頂きありがとうございました。




