欲望の日常
第70話 ~決戦~
私は夢に突き進んだ。
したいことをした。
子供の頃からそうだったかもしれない。
私はワガママでいつもお母さんを困らせていた。
でも私は変わった。
美野里という可愛い妹が家族になると、ワガママを言わなくなった。
多分、満足していたのだと思う。
だけど、どうして私はまたワガママを言うようになったのだろうか。
思い返してみれば、鈴木くんが社長になったことがわかったくらいからだと思う。
それまでは満足していたのに、また足りなくなった?
大っ嫌いな文章に触れて唯一良かったことは、ワガママを受け入れてくれる人に出会ったこと。
絶対に嫌なら何度も断るはずなのに、あの人は優しかった。
勉強をしていないなんて嘘だ。
豪邸に行って逃げ帰って勉強をしていた。
なのになんで私は嘘をついてまであの屋敷に行くのだろうか。
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「なに!この人超イケメン!」
やたらテンションが高い先輩。
それもそのはず、だって最上さんだから。
そんな言葉しか見つからない。
宮條さんは嫌々最上さんに連絡して来てもらった。
「そうですか?この人裏はドス黒いですよ。ほんと、下衆の極みですよ。」
「ひどいこと言わないでください。どこが下衆の極みなんですか?」
「あんた•••っ!」
まるで、汚い言葉を言いかけて寸止めしたようだ。実際そうかもしれない。
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。」
僕が宥めるが、
「こんなやつやっぱり追い返しましょ!ついでに梓川さんも!」
「「えっ!」」
2人はその場で硬直した。
「いきなり連れてこられていきなり追い出すのは、やめて頂いてよろしいですか?」
「やめません。」
「冗談よね。やっぱり無理とか言って追い返すの?」
「はい。その通りでございます。」
「「鈴木くん助けて!」」
「宮條さん。落ち着いて。」
「問題児2人がいるのに、どうしてそんなことが言えるんですか!」
「私、問題児なの?」
「俺までも?」
「そうですよ。他に誰がいるんですか?」
最上さんと先輩は同じ方向を指差した。
「私ですか?」
宮條さんだった。
「あー!もう、先輩どっちなんですか?勉強を受けるのか、受けないのか。」
「もちろん、受けさせてもらいます。
そして、最上さんに一礼する。
それにつられて最上さんも一礼する。
「もう勝手にしてください!」
宮條さんは大階段をドタドタ上がっていった。
「じゃあ早速始めようか。」
「はいっ!」
緊張しているのか知らないが妙に張り切っている。
最上さんがストライクゾーンなのだろうか。
「鈴木くん。」
先輩は耳元で小さな声で聞いてきた。
「最上さんの連絡先、教えて。」
「知りませんよ。」
一応、声を潜めて言う。
「2人ともどうしましたか?」
「「いえっ!何も。」」
そう言い僕たちは距離を取り食堂へ向かった。
『ガチャ』
食堂の扉を開けると大きな机に椅子があり、端には厨房の部屋がありいつもあそこで料理長が料理を作っているのだが。
料理以外にも軽食も作ってくれるのだが、先輩の暴飲暴食の名は既に知れ渡っている。というか1番被害を受けている人だ。
なので誰がきたのだろうかと思って厨房から顔を出した料理長は顔が真っ青になっていた。
あと数週間の辛抱で先輩はこの家にはこなくなるから許してください。
高級そうな肉じゃがやオムレツは美味しいからまた食べたいです。
料理長の特徴といえば家庭料理が高級なところだ。
手抜きといえば確かに手抜きだが•••
そして、先輩は出来るだけ厨房に近い位置に座る。
それにどんな意味があるのか知りたくない。
「僕はホワイトボード取ってきますね。」
僕の部屋のクローゼット中に以前テスト勉強で使ったホワイトボードが収納されているのでそれを取りに行くとさことにした。
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鈴木くん、こんなイケメンと2人きりだなんて、緊張するよ!
そういえば、最上さんと鈴木くんって輪郭がちょっと似ているような•••気のせいか。
だけど、最上さんカッコよすぎる!
スタイル抜群、180cm以上の身長に少し筋肉質な身体なのに細いという私の好みのタイプが忠実に再現されているような•••
「失礼します。」
やる気のない声が響く。
あの端の厨房から出てきた料理人が人数分の水とお菓子を持ってきた。
私が飲みたいのは、これじゃない。
「あの、私紅茶が飲みたいんですけど。」
「•••すみません紅茶のティーバックを切らしておりまして。」
「それはそのはずだって鈴木くんはティーバックで紅茶淹れてなかったもの。確か紅茶の葉っぱを細かくしたものをカップで注いでいたわよ。」
「チッ。」
私にはわかる。これは舌打ちということを。
これも私のワガママ。
この紅茶を飲みたいのではなくてこの人を怒らせること。
性格が悪いと言われるかもしれないけど、これが私のしたいことだから仕方がない。
鈴木くんからは『欲望に忠実だ』って。
そうよ。それで何が悪いの?となっちゃう。
この屋敷に来たい理由はもしかしたらこの人を怒らせるためかも。
そう思うと綻んでしまう。
「持ってきましたよー。」
『ガラガラガラ』
鈴木くんが引っ張って持ってきたのはホワイトボード。
既に何回も書いた後が残っている。
鈴木くんも沢山勉強した証のようなものだろう。
「じゃあ、早速始めるけど梓川さんは大体どの部分がわからないの?」
「全部です。」
「ん?」
最上さんの拍子抜けした声が聞こえた。
本当は全部完璧なんだけど。
「ところで梓川さんの志望校はどこかな?」
「私立田鶴川高等学校。」
「「えっ?」」
そう、私立田鶴川高等学校は超名門進学校だがらだ。
「先輩、もう願書出したのですよね。」
「えぇ、試験は1週間後だがら。」
「「えっ?」」
「なによ、2人とも。」
「名門ですよね。」
最上さんが驚愕の表情を浮かべている。そんな表情もカッコいいのがイケメンの宿命。
「とりあえず、数学から始めよう。まずは関数からだね•••」
1週間後。
試験当日。
自習と最上さんの講座もあり私はこの1週間でものすごく成長した。
1週間ずっと鈴木くんの家に通った。
そこで人を困らせていたのだが、最上さんは初日は驚いていたが、それ以降真剣に取り組んでくれた。
顔はタイプかもしれないけど、性格はあまりタイプじゃないかな。
やっぱり困りながらも取り組んでくれる人がいいかな。
田鶴川高等学校に入り指定された教室へ行く。
最近建て替えられたらしくてICT技術を活用した学校なのがこの学校の最大の特徴。それに教室も綺麗だ。
美智香和中学校では68期生という学校創立から68年目の学年で学校自体古い。
だがら旧校舎があるんだけど。
監督官の先生が入ってきた。
暫く先生から諸注意を受けいよいよ試験開始。
テスト問題は最上さんの講座を受けていなかったら本当にギリギリ解けたかな?というぐらいだったのにスラスラ解けるようになったのはやはり最上さんの講座を受けたからだろう。
やっぱりお金持ちさんが贔屓しているくらいの実力はあるのだろう。確か東京大学現役で出身とか。
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今日は文芸部の活動がある日。
「じゃあ、今日は読書会します。」
僕がそう言い部員は持参した本や図書室にある本を取り出した。
「じゃあ1時間ぐらい読んで感想を言いあいましょう。じゃあ•••」
『バンッ!』
図書室の扉が勢いよく開いた。
そして、その扉を開けたのは先輩だった。
「はぁ、はぁ、うかった。」
「はい?」
「受かったの!」
「「「えっーーーーー!」」」
戸田先生、梓川 妹、僕がそんなはずないと驚愕表情をしていた。
「梓川さん、ほんと?」
「えぇほんとですよ。」
「そんなごめんなさい、あなたにキツイ言葉も言ってしまって。」
どうやらそもそもの学力ではダメだったらしい。
だがら最上さんに頼んだのか。
「お姉ちゃんすごい!でも私が田鶴川に行けるかどうか。」
「最上さんに教えて貰えば1発よ!」
「最上さん?」
「どうして、余計なことばっかり言うのですか?来てもらうのもタダじゃないんですけど。」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。」
「財政難に陥ったら先輩の所為ですからね。」
「私は自由人なの。」
「あぁ、そうですか。それと先輩おめでとうございます。」
「あら、礼儀正しいのね。」
「一応です。」
次回は卒業式です。
それでは読んで頂きありがとうございました。




