選挙の日常
第67話 ~安堵~
先輩の中では波は過ぎ去ったと思っているらしいが、そんなわけない。
あれは、地震で言うところの初期微動というやつだ。
小さな揺れに過ぎない。
ただの最初の一波に過ぎない。
「やっと、終わった。これで心置きなく卒業することができるわ。みんなありがとう!」
先輩は部員全員に向けて感謝の意を述べている。
話し終えると拍手が先輩に送られる。
これでようやく先輩は退部の時だからだ。
小説を書き終えてから次の部活の日。
今日は先輩の退部式だ。
他の部活よりも遅い退部は、目を伏せておこう。
花束が贈られるわけではないが、それなりの先輩への感謝の意を拍手として伝える。
「ありがとう。みんなありがとう!この梓川 翔子は永遠に不滅よ!」
最後は何を言ってるのかよくわからなかったが、とにかくこれで先輩もようやくおつとめ終了という訳だ。
僕も『なんちゃって部長』から『部長』に格上げだ。
まぁ特にどうこうするつもりはないが。
先輩が出て行くと戸田先生が、
「今までも部長だったけどこれからはみんなを引っ張って行くリーダーとしてよろしくね。」
そう僕に向かって言う。
僕はあまりリーダーなどには向いていないのだけど。
2年生になると、梓川先輩が部長となった。
部長の活動としては主に、生徒会への諸々の報告書作成、部員をまとめ上げ一致団結できるように中心となって部活動を行う、などなど他にも様々ある。
そして部長という立場で最も重要なのはコミュニケーション能力。
これが無くては部長など務まらない。
だけど現在の部長、つまり僕はそれが著しく欠乏している。
それでも僕が部長になったのは訳がある。
文芸部の部長の選出は多数決で決まる。
僕が1年生に行われて最終的に先輩が部長となった。
2学期の半ば、本来ならこの時期で先輩は引退なのだが、
「これからも私たち3人は文芸部の先輩として、これからも後輩を見守って行きたいと思います。」
謎な発言をした日これが僕が部長になったきっかけ。
だが、先輩たちも一応は退部しているということに書類上ではなっている。
だから新しい部長の選出を行わなければならなかった。
そして、部長の選出の件について元部長の先輩がとんでもない選出法を見出した。
「部長のことなんだけど、有権者方式にしない?有権者は2年生と私たち3人。立候補者はいない、2年生の中で全員参加よ!どうかしら?」
今思えば、先輩はこの頃から欲望に忠実だったのかもしれない。
そして、残念なことにそれが可決されてしまった。
「それ、いいわね。民主主義の在り方を今のうちに学んでおきましょう!」
戸田先生は国語教師のはずなのだが、公民にも詳しいのだろうか。
理由はともあれ前代未聞の有権者方式が採用さらてしまい、ルールが発表された。
4人の立候補者の中から、7票で多数決をする。
立候補者の票は自分以外に入れること。
部長立候補者は6人に自分の良さを発表して票を入れてもらう。
たったこれだけのことだけだが元々そんなことする気がなかった僕は、特に発表に力を入れることはなかった。
適当に、『伝統を守っていきたいと思います』とか言ったような気がする。
だが本気で部長になりたい2人がいた。
五十嵐 拓也と松本 遥 だ。
「僕は、部長になった暁には部費を増やして活動の幅を広げていきたいと思います。」
「私が部長になった暁には、楽しく部活に励めるように部室の変更を生徒会に申し立て、新校舎の図書室で部活動をできたらベストだと思っています。」
などなどほぼ生徒会選出と同じだが、特にこと2人が本気だった。
因みに梓川 妹は、「私は今年で退部します。」
この時は意味がわからなかったが、今になると姉がいなくなるからだとわかった気がする。
そして、この2人の頂上決戦が始まった。
梓川 妹は諸事情により棄権が認められて実質五十嵐さんと松本さんの対決だ。
だけどこれ以上発表しても互角なのは変わらないため2人は強行作戦に出た。
「鈴木くんなら僕に票を入れてくれるよね。だから僕に清き一票を。」
「鈴木くんはこんな旧校舎嫌だよね。だって他の部活動は新校舎なのにおかしくない?だから清き一票を。」
2人とも脅している時点で清きも何もないことには気づいていないのか?
2人は脅しを他の先輩や梓川 妹までを脅した。
そして、穢れた1票を入れるときがきた。
票の流れは単純だ。
対決している2人はライバルに票を与えるはずもなく余っている僕に票が回ってくる。
これで5票がどちらかの2人に入るという寸法だ。
「五十嵐 拓也をよろしくお願いします!」
と本人が言い
「松本 遥をよろしくお願いします。」
と本人が言い
議会選か何かですか?
とツッコミたくなるような立ち振る舞いをしている2人は別室に送られた。ついでに僕も。
僕はどちらでもよかったため公正に判断した結果、梓川先輩に票を託すことにした。
こんなのアリなのかどうかは主催者が決めることなので票が消失しようが構わない。
僕にどちらか決めることはできない。
その心境は面倒というのと、恨まれるのが怖いからだ。
ちょうど奇数という嫌な組み合わせは僕には不向きだ。
待合室(廊下)で
「これで勝負は決まったな。先輩の票で結果が決まると言っても過言ではないな。」
「確かにね。2票とプラス1票で部長だから発言力あるものね。」
僕の1票とシスコン妹の1票で合わせて3票、発言力がある先輩は他の先輩もその票に入れる可能性があるということだ。
因みに梓川 妹がシスコンだとは文芸部のみんなは気づいていないが、姉の後を追う可愛げのある子で止まっている。本当はもっともっとヤバイのだが。
「結果発表ーーー!」
とお笑いコンビ『ボストンタウン』の浜井が大声で言ってそうな声が響く。
その正体は、浜井ではなく先輩で浜井のような響く声ではないが、近い声でそう言うと、
「結果は、五十嵐 拓也、1票!」
「えっ!」
五十嵐さんがそんなはずは•••と戸惑っている。
「続いて、松本 遥、1票!」
「はぁ!」
憤怒の声が•••エグい。
「最後に、鈴木 稜駿、5票!」
「「えっーーー!」」
五十嵐さんと松本さんが何故という表情をして僕を見る。
「鈴木くんのあの演説には涙したわ!伝統を守る。えぇ!大いに守って頂戴!」
この部活に伝統なんてものはないのだが。
「は、はぁ。」
こうしてなんちゃって部長に就任となった。
ところで僕の票はどうなったのだろうか。
先輩に託して、先輩が僕に票を入れたことは確実。
じゃあ僕の票は僕が入れたことになるのだが。
「先輩、僕の票はどうしましたか?」
「秘密。」
そう突き返された。
次回は、また未定です。
最近、文芸部のネタはあるにはあるのですが、それは、ワンクール先と言いますか、なんと言いますか。な状態でスランプに等しいような気がします。
また完成したらTwitterの方で報告させて頂きます。
それでは読んで頂きありがとうございました。




