CASE ω の日常
第58話 ~ω~
CASE δからCASEωまで繋がっているという扉の先は、何もなかった。
ただ、1本の細い道が真っ直ぐにただただいているだけだった。
それを、僕と梓川 翔子先輩と走って行く。
5分ほど走り続けたところで先輩が、
「長い、わよ!」
「20個の、事例をすっ、飛ばしているんだ、からこれ、くらい普通な、んじゃないですか?」
「そろ、そろげ、んかい!」
そう言って先輩は立ち止まる。
「ダメ、ですよ、急にとま、ると、体に悪、影響ですよ!」
「わかってる、わよ!」
そう言って、先輩は長距離走を走り終えたようにゆっくり歩き出した。
そして、それに僕もついて行く。
しばらくして、落ち着くと、
「鈴木くん、喉乾いた。何か飲み物持ってない?」
「持ってるわけないじゃないですか。」
「そう。」
「先輩、早く行ってください。詰まってますよ。」
「詰まるって鈴木くんしかいないじゃないの。•••まさか、あの幽霊みたいなのがまた後ろにいる訳?」
「そんな訳•••」
そう言って僕が後ろを振り返ると•••
「先輩、走ってください!」
「えっ、嘘!本気?」
そう言って先輩も振り返る。
すると、
「うわっーーーーーー!」
「きゃーーーーーーー!」
全力疾走で、CASEωまで走った。
「鈴木くん、ようやく、扉!」
「早く!後ろから、まだおっ、かけてくる!」
『ガチャ』
先輩が扉を開き僕も扉の中に入り勢いよく扉を閉める。
『バン!』と音を立ててしてるとそれ以降、扉の先から音が聞こえてくることはなかった。
今まで見てきた机を数えると6回目の机には『CASE ω』と書かれた事例の24個目に到達した。
「ここの階段を降りてまた階段を上れば、輪島から美野里を助けることができるのよね?」
「多分ですけど、はい。」
「そう、じゃあ行くわよ。」
そう言って先輩は、階段を降りて行く。
しばらく歩くと、木製の扉があった。
いかにも西洋の扉で白で塗りたくられている。
「これが、最後なのよね。」
「多分。」
「最後まで頼りないわね。そこは、『はい!早く美野里を助けましょう!』って励まさないと。あれ?鈴木くんに美野里って言われるのはなんだか腹が立つわね。」
「それは、僕もですよ。頼りなくてすみません!」
皮肉を込めて言ったのだが、
「あら、自分の欠点に気づくのはいいことよ。」
そう言えばこの人は、人の心情を読まない冷徹な人だった。
「先輩はどこまで行っても先輩ですね。なんというか、歪みない。というか、これが先輩。みたいな?」
「言ってる意味がわからないわ。とにかく、開けるわよ。」
「はい。」
先輩はドアノブに手をかけて、扉を開ける。
「何?この部屋?」
僕たちは扉の中に入ると、全てが真っ白で何もない部屋だった。壁が一体どこまで行ったら見つかるのかっていうくらい遠くて、天井はとても高い。それに、電灯や電飾などもないのにこの部屋は明るい。
そして、僕たちが入ってきた扉は、僕が入ると同時に塵になり吹いていないはずの風に飛ばされた。
「これは、密室なんでしょうか?それとも、外ですか?」
「どちらも正解とは言えないわね。考えたら負けの部屋よ。」
「言ってる意味がわからなくはないですが、言葉を選んでください。」
「そんなに言うのなら、この部屋がなんなのかを知るために、立ち止まらずに歩くわよ!」
「わかりました。」
しばらく歩いても僕たちの『コンコン』と言う足音が真っ白な部屋に響くだけで家具や小物が1つも無い。
ひたすら歩いても扉らしきものは見つからない。
「ここってどう言うところなの?本当にこれが、現実で起こると言うの?あり得ないわ。」
「そもそも、ここは現実じゃないとわかっているのであれば、ただの妄想、夢ですよ。」
「それはないわ。だってほら。そうでしょ。」
先輩は僕の頰を抓ってきた。
「先輩、そうやって意地悪するのやめてもらっていいですか。」
「もちろん、やめない。」
「本当に意地わるゅでしゅね。」
抓られているおかげで上手く話せていない。
「意地が悪くて悪かったわね。」
「わかっているなゃらやめてください。更しぇいしてくだしゃい。」
「私は、犯罪者じゃないわよ。」
「まゃ薬、絶ちゃいにしたらダメでしゅよ。絶ちゃいでしゅよ!」
「な、何よ急に。」
「いいでしゅか、絶対にでしゅよ。」
「わかってるわよ。そんなこと。」
なんだか、先輩も焦り始めている。
やはり、するな。と言われればしたくなるのだろうか。
そんなことで訳のわからない部屋なのにお気楽な気分でいると、正面から、
『お姉ちゃん。』
と言う梓川 妹の声が聞こえた。
「美野里?」
そう先輩が言うが、返事はない。
『お姉ちゃん。』
さっきの向きとは違う右はから聞こえてきた。
「どこ?美野里、どこにいるの?」
だが返事はない。
『お姉ちゃん。』
今度は、左からその声が聞こえてくるも、先輩の言葉には返事しない。
『お姉ちゃん。』
次は、後ろ。
振り向いても誰もいない。なのに聞こえてくる。
『お姉ちゃん。』
今度は天井から、
『お姉ちゃん。』
今度は地面から。そして、先輩が
「ねぇ、美野里どこなの?出てきてお願い!」
そう言うと、美野里は返事した。
「後ろだよ。」
そう言って、僕たちは振り返る。
そこには、たしかに梓川 妹の姿だった。
「美野里!」
そう言って先輩は梓川 妹に近づいていく。
梓川 妹も先輩に近づいていく。
そして、体が触れ合えるくらいの距離になると、先輩は梓川 妹を抱きしめた。
「ごめんね。美野里。私、美野里を助けることできなかった。」
「うんん。全然気にしていない。」
「美野里、輪島は?
どこに行ったの?」
「輪島は『この部屋で待ってろ。』って言ってどこかへ行っちゃった。」
「へぇー。じゃあ今のうちに逃げないと!」
「でも、お姉ちゃん。出口がないの。」
「たしかに。ここは真っ白で何もないわね。」
「お姉ちゃん、怖いよう。」
そう言って梓川 妹は先輩に抱きついた。
「大丈夫よ。心配しないで。」
先輩は梓川 妹の頭を撫でる。
「お姉ちゃん。私、大事なことを話すね。
私が、ここに招いたの。」
「大丈夫よ。分かっている。」
「私は、強く願ったの。お姉ちゃんとずっと居たいって。するとね、夢でこの部屋のことを知ったの。旧校舎に入口があること。ギリシャ語のこととか全て。私はここに行けば、お姉ちゃんとずっと一緒に居られるって。」
「分かってるわよ。私がずっと美野里を守ってあげる。」
すると、梓川 妹は目を輝かせた。
「でも、その前にここを脱出しないとね。」
先輩がそう言って、梓川 妹から離れようとするが、
「そう言うわけにはいかないよ。」
急におかしなことを言い出した。
「何、言ってるの?」
「ここで、ずっと一緒に居ようよ。ここだと、お腹は空かないし、何もしなくても生きていけるのよ。」
「えっ?」
「ちょっと待ってください。」
僕がそう言った。
「あなた、誰ですか?」
僕は、梓川 美野里にそう言った。
「私は、梓川 美野里よ。あなたは鈴木よね。あなたもここで永遠に過ごすことになるわね。不本意ながらも。」
「出口はない。って言ったのに、どうして輪島はこの部屋に美野里さんを送って行くことができたのですか?輪島は『CASE ω』を出た先にいるはずです。なのに出口がないとなると、輪島はこの部屋にいるはずです。広いから探せばいるのかもしれませんが、この部屋は思ったよりも狭いですよ。だって扉が塵のようになって消えたのを僕は見ました。その塵が目の前にあるからですよ。」
そう言って僕は梓川 妹の後ろにある何もない空間に僕は倒れこむようにした。
だが、僕は倒れなかった。
僕は空中に凭れている。
「先輩が持っている紫色のしたライトが壁に何か埃のようなものが映っているんですよ。
白色を目が錯覚するように、色を濃くしたり薄くしたりして奥行きがあるように見せかけているけど実際はそこまで広くない細い一本道のような感じなんですよ。」
「だけど、出口はないじゃない。」
「出口は、真っ直ぐ壁に伝っていくとまた白に塗りたくられている扉があると思いますよ。梓川 美野里さん。どうして出口がないと嘘をついたのですか?全てを知っているんですよね。そして、梓川 美野里さんはお姉ちゃんっ子。何が何でもお姉ちゃんをここから脱出させたいと思うはずです。」
梓川 妹?は先輩を離さない。
「まさか、輪島?」
先輩がそう言う。
「輪島なんかではない。」
本性を現した。
白に似合わない黒い煙を出して、今まで梓川 妹の格好をしていたのは、変装だったようだ。
「誰?」
大男で、如何にもギリシャ神話やキリスト教の聖書に出てきそうな、古代の服装をした男。
「私は悪魔のアザゼル。ここに招いたのはあなたの妹ではない。この私だ。梓川 翔子といったな。貴殿は、あの人とよく似ている。
自分を貫き、人に優しく、努力を隠す姿が。私の愛した妻よ!」
「ちょっと、離しなさいよ!」
太い腕に抱かれている先輩はどうにかしようとしている。
するとアザゼルは、先輩をゆっくり離した。
そして、先輩は僕の方へやって来た。
「ここに呼ばれるのは、私や他の悪魔と契約するか、強く願うことでこれるのだが、例外もある。
悪魔自らここに招いかことだ。
気に入った人をここに招下ことができるのだが、余計な2人が付いて来てしまったようだな。本来ならば1人のはずだったのだが、邪魔が入ってしまったようだ。」
「じゃあ、なんで美野里は謎のことを知っていたの?」
先輩がアザゼルら尋ねる。
「あいつは使者だ。」
「よくわからないわよ!何言ってるの?」
「知らなくて良い。そんなことより、梓川 翔子。私と契約をしないか?」
そう言ってアザゼルはどこからか紙を取り出した。
「私と貴殿とで婚姻をしてくれるのであれば、そこにいる輩ともう1人、貴殿の妹を元の世界に返そう。本来、悪魔はそれ以上のことを要求するのだが、今回はここまで会いに来てくれたことを免じて、2人は助けよう。さぁ、どうする?ついでにあの腕に異様な執着をするあの男も消してやろう。」
「私は、みんなで元の世界に帰るの!1人でも欠けてはいけないわ。例え目の前に立ち塞がるのが悪魔だったり、狂気人間だったとしても、私はみんなと帰るの!」
そう言って、先輩は僕の手を握り走り出した。
「壁を伝えればいいのよね!」
「そうです。」
先輩は空いている右手で白い壁を触りながら進んでいく。
「待て!梓川 翔子!然もないと『全ての狭間』から出られなくしてやろう。」
『ドンドン』と大きな足音で追ってくるアザゼル。
アザゼルも壁を伝えて来ている。
そして、
「ここよ。この辺りに•••」
先輩と僕で目の前にある壁をペタペタ触ってドアノブがどこにあるのか確認する。
「先輩、押してみてはどうですか?」
「そうね。じゃあいくよ、せーの!」
僕たちが壁を押すと、黒いあの廊下が現れた。
「早く!」
そう言われて、先輩が黒い廊下に入り僕も入ろうとしたとき、
僕の服の襟をアザゼルが掴んだ。
「残念だったな。梓川 翔子、契約に1つ追加だ。もし私と婚姻するのであれば、先ほどの条件と、この輩を救うと約束しよう。」
「わかったわ。」
先輩は、迷わず、即答で答えた。
「素直なのもあの人にそっくりだ!」
そう言って紙を空いている片方で先輩に渡した。
「先輩!そんなことしなくていいです!早く妹さんを救ってください!」
「鈴木くん。私は先輩として後輩を守らないといけない義務があるの。」
「そんなのは義務なだけで絶対ではありません!僕は、父親のところに早く行きたいです!」
「そんな嘘つかなくていいのよ。」
「嘘じゃないです!どうして僕を騙していたのか聞きに行ってきます!」
「ねぇ、鈴木くん。もし美野里が悲しんだら鈴木くんが慰めてあげてね。こういうのよ。『お姉ちゃんは結婚して幸せに暮らしてる』って。」
そう言い、契約書に名前を書き始めた。
「先輩!やめてください!」
梓
「先輩、考え直してください!」
川
「先輩、先輩はバカです!そんなことで契約だなんてバカですか!」
翔
「僕が、先輩を守るんじゃなかったんですか!」
そこで、先輩の手が止まった。
「ごめんね。鈴木くん。私は先輩としてみんなを守らなくちゃ!」
そう言って『子』の一画目を書いたその時、
『バン!』
僕の頭の上からドロドロの黒い何かが降って来た。
「お姉ちゃん!」
そう言ったのは、本物の梓川 美野里だった。
すると、僕の襟を掴んでいたアザゼルの手が弱くなる。そこで僕は飛び出して倒れるアザゼルから離れる。
梓川 妹の手には、『CASE β』の扉の向こうで使っていたハンドガンがそこにはあった。
そして、黒い血のようなものを吹き出すアザゼル。
僕は先輩からハンカチを受け取り黒い何か拭き取る。
「みんな無事でよかった。」
先輩がそういう。
「やったー!悪魔にヘッドショットお見舞いしてやったわ!」
「た、助かった。」
と安堵して白い部屋の扉を閉める。
「いいや、まだ助かってはいないよ。」
目の前の階段の上にいた輪島がそう言った。
自分は別にキリスト教徒でもなんでもない人です。無宗派です。
今回は、悪魔の回でしたが、どうだったでしょうか。
アザゼルは一応元々は天使だったそうですが、人間とそういう関係になってしまい、悪魔になったそうです。
一般的に天使から悪魔へのジョブチェンジを堕天使とかいうそうです。
(なんでこんなに詳しいのか?って。ネットって素晴らしいですね。)
次回は、輪島との『戦い?』です。
それでは、読んで頂きありがとうございました。




