新元号が気になって夜も眠れない男がタイムリープして元号をリセマラする話

　明日の4月1日、新元号が発表される。夜中だというのに、緊張で全く眠れない。俺は一人、ベッドの上で何度も寝返りを打った。

　気に入らない元号だったらどうする。一度発表されてしまえば、どれだけ文句を言っても変わる事はない。

『……』

　もしも新元号がクソ元号だったら、せめてテレビの前で思い切り……それこそ喉から血が出るほど文句を言ってやろうじゃないか……

　それが唯一、一般市民の俺に……できる……抵抗……だ……

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「新元号を発表します」

　時刻は11:29。

　テレビの中で、色紙を裏側に掲げる男が言った。

　俺はそれを、ソファに腰掛け固唾を飲んで見守っている。この色紙を表にするだけで、新元号が明らかになる。さあ、俺の満足のいく元号を発表してくれ。

『……』

　そして11:30になると同時、男は何のためらいもなく色紙の表を向けた。

「開臨」

『……画数多過ぎ。迷惑だな、オイ』

　意味もよく伝わって来ない、微妙としか言いようのない元号だ。

　こんな元号と生きていくなんて、憂鬱としか言いようがない。俺はテレビのリモコンを手に取り、電源を切っ

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「新元号を発表します」

　時刻は11:29。

　テレビの中で、色紙を裏側に掲げる男が言った。

『……』

　どういうことだ。元号ならさっき発表されただろう。

　しかし、テレビの中の男は色紙を裏側に向けたままだ。

『……』

　ぼーっとし過ぎて、幻覚でも見てたのだろうか。俺は必死に頭を働かせようと辺りを見回す。しかし完全に状況を理解する間もなく、時刻は11:30となった。

　そして色紙が、表を向く。

「奇跡」

『……安っぽ過ぎ。中学生のセンスかよ』

　結局、納得のいく元号ではなかった。

　こんな元号と生きていくなんて、憂鬱としか言いようがない。俺はテレビのリモコンを手に取り、電源を切っ

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「新元号を発表します」

　時刻は11:29。

　テレビの中で、色紙を裏側に掲げる男が言った。

『……』

　まさか。

　まさか『新元号に対して文句を言えば、時間を戻せる』のか？ そしてその度に元号を、変えられるのか？

『……おいおい、マジかよ』

　……すごい力を手に入れた。最強の力を手に入れた。

　これで納得のいく元号を、ずっとリセマラ出来る訳だ。すごい。手から炎を出すとか時を止めるとか、そんな力よりよっぽどすごい。

『……よし、来いよ』

　さあ来い、もっと良い元号よ、来いや！

　そして11:30になると同時、男は色紙の表を掲げる。

「平成」

『これまでと同じじゃねーか』

　そんな事ある？ 好評だったから固定するって、ファミレスの期間限定メニューが固定化されるのとは違うんだから。次！ 次！

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「新元号を発表します」

　時刻は11:29。

　テレビの中で、色紙を裏側に掲げる男が言った。

『……ちゃんとしたの頼むぞ』

「平成ツー」

『いや数字入れんな』

　平成2の元年、どう考えても『平成21年』になるよね？

　ゲームの続編じゃないんだから、ナンバリングタイトルみたいにすんな。

『クソゲーじゃねーか』

　値引かれ方が売れないゲームのそれ。次！ 次！

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「新元号を発表します」

　時刻は11:29。

　テレビの中で、色紙を裏側に掲げる男が言った。

『今度は全く新しい元号にしろよ……』

『文字化けしてんな！』

　印刷した時点で誰か気づけよ。担当者の眼球にHTMLでも入ってんのか。次！

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「新元号を発表します」

　時刻は11:29。

　テレビの中で、色紙を裏側に掲げる男が言った。

『次はちゃんと、文字で頼むぞ』

　間違っても化けて欲しくない。バグった国なんてお断りだ。さあ、来い。

『読めない！』

　何語？ ねぇ？ これ書けないよね？

　次！ リセット！

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「新元号を発表します」

　時刻は11:29。

『漢字の元号を出せよ……頼むぞ……』

『キラキラさせんな』

　ほおぷ元年。世界中の笑い物だろ。特にアメリカから

　リセット！

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「新元号を発表します」

　時刻は11:29。

『日本の元号だぞ……普通に日本語使えば良いんだよ』

『字面最悪かよ』

　CERO:Dのホラーゲームか。キモい虫とか潰さなきゃいけないやつか。

『神ゲーなのかよ』

　でも蟲蝕元年はやだよ。次！

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「新元号は明文です」

　時刻は11:29。

　テレビの中で、色紙を裏側に掲げる男が言った。

『いや言っちゃったな！』

　明文なのかよ。11:29なのにバラしちゃったよ！ 次！ 次！

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「新元号を発表します」

『キモい笑い方すんな』

　次！ 次！

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「新元号を発表します」

『どこに書いてんだよ！』

　顔に新元号書くな。

『……えっ？』

　……顔に。えっ？ 新元号？

　どうなってんの？ えっ？ えっ？

『えっ？』

　えっ？ えっ？

　えっ？

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『……』

　時刻は7:30。

　スマートフォンから響く目覚ましの音で、俺はいつも通りの時間に目を覚ました。

『……』

　窓から注ぐ日差しに目を細めながら、俺はスマホを操作し目覚まし音を止める。

　今日は4月1日。

　今日の11:30に、新元号が発表される。

『……なるほどね』

　エイプリルフールに見る夢としては、なかなか上出来じゃないか。