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Rubber SCrap  作者: オッコー勝森
1章 "Summoned"
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S.8「Start④」

 歪みかけた精神を、優しく(ほぐ)すための自己紹介。

 茜さんグループは全員終わり、次は俺たちの番だ。


 自己紹介童貞の俺は、心臓をバクバク鳴らし、自分の番が来るのを戦々恐々と待つ。


 ああ、自分が言い出したことなのに、情けない。


「それじゃ最初に、私からいくわね・・・」


 時間はあっという間に過ぎ、四バカが自己紹介し終わって、とうとう俺の番。


 やるしかないのか。

 ああシオンたん、俺に力を分けてくれ!


「ああ、ええと・・・。俺の名前は、岡吉和。得意科目は数学で・・・」


 つい、自信なさげに、ボソボソとしたスタートを切ってしまう。

 やはり、自己紹介は初心者に牙を向くのか。

 初心者というか、コミュ障にか。


「ええ〜、得意科目は『全部』でしょ〜」


 が、始めた途端、茜さんに対して志崎さんが茶々を入れたのと同じように、白百合が介入してきた。

 呆然としながら、彼女の一見柔和そうな顔を眺めた。


「そうアル! 私、和くんのテストの点数、小一の頃からずっとチェックしてるが。90点未満取ってるの、殆ど見たことないアルよ!」


 そして堂々と為される、(ハン)のストーキング宣言。

 まじか、俺のテストの点数、常にこいつにチェックされてるのか・・・。


 まあ、中学校は違う所行ったし、さすがにその頃のものはチェックされてないと思うが。


「一度だけ88を見たのが、中二の二学期期末に行われた保健体育のテストだったアル」


 ばっちりチェックされてるよ。

 茜さんグループは皆、ドン引きしていた。


「え!? 保健体育の点が一番悪かったの? そんなの私が、いつでも実習させ・・・」

「先進むぞ」


 ギロッと睨むと、田鴨は頬を赤く上気させながら、「はい・・・❤」と答えて黙った。


「・・・ふぅ」


 疲れて溜息を吐いた所で、いつの間にか心から緊張がなくなっていることに気づく。



 はっ、となった。

 もしかして四バカは、ガチガチな俺をフォローしようと・・・。



 不覚にも感動しかけた。


 しかし。


「どうやって和ゥのデータ集めたん? 特に中学」

「フフフ、それはアルなぁ、夜間、見回りの先生の巡回ルートを徹底的に調べ上げ、タイミングを見計らって職員室に忍び込み・・・」


 横目で見る四バカは、(ハン)がどうやって俺の中学の頃のテストデータにアクセスしたか、という犯罪談義で非常に盛り上がっていた。



 あ、違うわ。


 絶対フォローの意図はないわ。



 すっぱりと四バカの存在を頭から抹消し、自己紹介を再開する。


「さっきも言った通り、アニ研に入ろうとして追い出されたから、俺は帰宅部だった。身体能力は低くないし、別に運動部に入っても良かったんだが・・・」


 ここからが、この自己紹介をやろうと思ったもう一つの意味。

 一つはもちろん、アイス・ブレイキングをすることで皆に心の余裕を持たせることだった。


「実は俺、家の都合で放課後が埋まっていててな・・・」


 しかしそれは、彼らの感情機能を破壊する精神不安の、根本的な解決にはなっていない。


 二ステップ目が、必要なのだ。


 皆が情緒不安定になった、そもそもの要因は何か。

 何度か考えたが、纏めれば、

・目が覚めたら、全く見知らぬ、空に黒穴のポッカリ空いた意味不明な世界だった

・勝てそうもない、黒い体の敵がいる

・人が突然死んだ

の三点が、帰巣願望や生存本能を過度に刺激し、心をおかしな方へ向かわせていることだろう。


「家の都合といっても、ぬるいものではないんだ。去年までずっとやってたんだが、非常に苦労させられたよ」


 一つ目と三つ目の解決策は、それぞれ「帰還方法を見つける」と「突然死なない環境を保証する」だが、これらは現時点では不可能である。


 しかし二つ目の「勝てそうもない」を、「対処可能な」、にすることは可能だ。


 恐らく皆、薄々は俺があの黒い巨体に対処出来ることは知っていることだろう。

 が、証拠不十分で半信半疑な状態でもある。


 そこで、黒い巨体を屠れるだけの力を示し、なぜそんな力を備えているのかを、皆で共有する。

 もちろんすべてを見せることは出来ないし、話すことも出来ない。



 俺は本気を出せば、半径百メートル以内くらいのものは、楽々消滅させることが出来る。



 なんて見せたら危ないし、言っても誰も信じないだろう。


 ところどころで嘘も交えるつもりだ。

 さすがに、恐怖の対象が俺に替わるのはごめんだ。


「この、家の都合ってものが、俺があの黒い巨体をぶっ潰せた理由だ」


 皆、ザワリ・・・と大きく反応する。


「いいか? 信じてもらえないかもしれないが、俺が今から話すことは、妄想でもホラでもない。全部を鵜呑みにする必要はないが、まったくの嘘ではないことを頭の片隅に置いて、まあ楽に聞いてくれ」


 こう前置くと、女性陣と山西くんが、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 もう少し軽く聞いてほしいが、まあいい。


「俺の家には、門外不出な相伝の業、<弾鬼術>というのが、代々受け継がれている」


 松岡くんと寺田くんが、眉唾なことでも聞いたかのような表情になった。


「結構歴史があってな。記録を遡れば、江戸時代の正保・・・1644~1647まで続いた年号だが・・・にまで到達するらしい。始まってから、ポツポツ起きる内乱や陰謀なんかの裏で暗躍して、明治維新の頃に最も動きが活発化したんだとか。日清・日露戦争だとか、二つの世界大戦だとかには協力しなかったらしいが、今でも、<弾鬼術>は日本の闇世界で密かに活躍している。俺の親父も、な」


 松岡くんと寺田くんは、心の古傷を抑え出した。


 一方白百合は、「あ、なるほど〜」と合点のいった顔をして、ポンと手を叩いた。


「だから一日の一定時間、仕掛けた部屋のカメラに、岡吉くんがまるっきり映らない時間があったんだね〜」


 ステータス「『盗撮』中級者」が、なんか言ってるぞ。

 こいつはもうダメだ。

 元の世界に帰れたら、警察に突き出そう。


 そういや俺のステータスとやらを確認していなかったが、今は置いておく。


「話を戻そう。例に漏れず、俺も継承のための訓練を、幼い時からずっと受け続けてきた。(しんど)かったし、何度も逃げ出そうと思ったが、なんとかやりきった」


 松岡くんと寺田くんは、遂に古傷の痛みが限界に達したのか、ピクピク震えながら倒れ伏している。


 正直ムカつくが、厨二と誤解されても仕方のない話ばかりなのは、自覚している。

 黒歴史の思い出に敗北したと思われる二人を、四バカは責めるように睨みつけていたが、俺への点数稼ぎというのは明らかだ。


 気の抜けるようなやり取りの後だが、少なくとも一部は本当のことを言っていると見られるよう、デモンストレーションはせねばなるまい。


「その修行の成果を、実演してみせてしんぜよう」


 全身の筋肉を意識して、「(はずみ)」と一言。


 本当は、「修行の成果」というには「(はずみ)」は基礎の基礎過ぎるのだが、逆に言えば最も疎かにしてはならない部分でもある。


 大跳躍して、百メートルくらい上昇した。

 眼下には、豆粒のような田鴨たちと、視界に収まりきらない大平原。


「それにしても、やはり不思議な空だな・・・」


 晴れた青空をくり抜いたかのような穴が、この高さでは一段と大きくなったように見える。

 吸い込まれそうな錯覚に、ブルッと身を震わせた。


「・・・ん?」



 最高点に到達し、落下をちょうど始めた頃に、穴に妙な違和感を抱いた。


 ほんの一瞬だったが、不自然に歪曲した形状不明な像が、闇の中でユラリと揺れたような気がしたのだ。




 パズルの、一番始めに当てはまるピースを見つけ出した。




 何かが、繋がり始めた・・・?


 この世界は、ひょっとして・・・!



 そんな抽象的なことを考えている間に、俺は地面にトン、と着地していた。

 自己紹介を飛ばされる四バカ。

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