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Rubber SCrap  作者: オッコー勝森
2章 "Minotaur"
20/29

M.4「Might④」


/勇者が必要なのです/


 自称「世界の管理者」な彼女の口からそんな言葉が出ると、松岡くん、寺田くん、山西くんの三名が体を強張らせる。


/しかし単純に、勇者たるに必須な能力・スキルを召喚した者に与えてしまえば、適応出来ずにその者はすぐに死んでしまう。ある程度は、『勇者の器』が出来上がってないといけない。よって、召喚された勇者候補たちには、三つの(・・・)試練を受けていただき、強くなる・・・レベルを、上げて欲しいのです/


「つまり、あの空に黒い穴が開く世界は、一つ目の試練だったと」

/ええ、そうですね/

「二つ目、三つ目の試練が行われる場所は、もちろんここじゃない(・・・・・・)んだな」

/・・・はい、そうです/


 「だとよ、寺田くん」と彼に顔を向ければ、忌々しげに睨みつけてきた。


「そんなことより、今はその勇者について・・・」

「待ってくださいませんか、寺井・・・えー寺木君。聞きたいことがありますの。レベルを上げて欲しいとのことですが、その・・・一つ目の試練では、少なくとも(わたくし)のレベルは全く上がりませんでしたわ」


 四バカ同様人の名前を間違える志崎さんが、画面の女性に質問を出す。

 そういえば、俺のステータスとやらはどうなっているのだろうか。

 完全に忘れていた。

 後で確認しよう。


/え・・・、あの試練を、レベルアップなしで通過するというのは・・・? ステータスの存在に気づいているのはいいのですが・・・/

「主様。どうやらこの者たちは、根本的な方(・・・・・)の攻略法で、あのステージをクリアなされたようです」


 何故か困惑する画面の女性に対し、老執事が進言する。


/・・・・・・なんと。道理で、難易度の割に脱落者が少ないと。あの(・・)攻略法が可能な者がいるとは、頼もしいことです。因みに、誰が?/

「俺だ」

「わ、私が証人です!」


 手を上げて名乗り出れば、茜さんも追随する。


 少し意外だ。

 この様子だと、自称「世界の管理者」さんは、試練の様子を覗き見てもいなければ、こちらのステータスとやらも確認出来ないらしい。

 あの悪趣味なゲームを、誰かが見て笑っているのだと苛ついていたのだが。


 彼女の言うことを完全に信用しているわけじゃないが、勇者の試練なら、あれくらいはしなければならない、のか?


「ダァァァ! どうだっていいだろ! そんなこと! 俺に、勇者の情報について、聞かせろ!」


 ドン! と机を叩きながら、寺田くんが叫ぶ。


「じ、自己中じゃ」

「自己中です!?」

「自己中!」


 驚きと嫌悪が混じったような顔をしながら、身を寄せ合って寺田くんを責める、三つ子。

 さっきから発言パターンが一緒だ。


 そういう芸風なのだろうか。


/具体的に、どういう情報を?/

「あ、えーとそうだな・・・。勇者になったら、どれくらい強くなれるんだ?」

「よっ、寺田、粋な質問!」


 山西くんも知りたいことだったらしく、寺田くんを囃し立てる。

 なんだか松岡くんもそわそわしているような。


/そうですね・・・。本人の適性によって、また条件によっても変わると思いますが。少なくとも、アメリカの陸海軍の全戦力を、単騎で捻り潰せるようにはなるはずです/


 へぇ、そりゃすごい。


 という感想しか出てこない。

 何故なら、アメリカ軍と戦ったことがなく、いまいち実感が湧かないからだ。


 地球を攻めてきた宇宙人の軍隊となら、中三の時分、親父とともに戦わされたが。

 そのせいで二週間シオンたんと会えなかったのだ。


 怒りの拳を、教養なく下品な(差別とかじゃなくて本当にそうだった)侵略者どもに味わわせてやったのが懐かしい。


「それくらいの戦力で、魔神とやらには、勝てるのか?」


 頬を紅潮させて興奮しているお三方の代わりに、画面の女性に尋ねた。


/・・・恐らく、努力次第では/

「随分と曖昧な答えだな。嬉しくない答えをごまかしてるのか、あるいは相手の情報を知らないのか」


 肩を竦めて言ってみれば、/魔神の情報が少ないのです/との返答。


「そうか、なら一先ずそういうことにしておこう」


 今聞いたここは、勇者を召喚するという行動の上で、非常に重要なポイントとなるはずだ。

 なぜなら、勇者を召喚しても魔神を倒せなければ意味がないから。

 勇者にしても、倒せないのに召喚されても、死にに行くだけじゃないか?


 俺の今の問いを有耶無耶に答えるというのは、おかしいし、少し誠意が足りない。


 ・・・まさか勇者を、魔神の情報を得るための当て馬にするつもりなのでは?

 という考えが、頭を過る。


「はいはい! 次は俺だ! 勇者になればモテますか!??」


 下らないことを聞く山西くん。

 毒素を抜かれた気分になった。

 ・・・今疑っても意味ないか、と少し頭を冷やす。


 はあ、それにしても山西君。



 リアルでモテても意味ないだろ。



/それも努力次第です/


 ま、そりゃそうかという回答。


「はいはい! 次私! 勇者になれば岡吉和にモテますか!??」


 本当に下らないことを聞く田鴨。


 他四バカと、何故か茜さんが椅子から身を乗り出した。


/それも努力次第です/


 無難な回答だな。


 そこで、メイドさんたちがまた部屋に入ってきて、皆の前に|veloute de poireaux《長ネギのスープ》を配膳した。


 俺と、反省したらしい志崎さん以外の皆は真っ先に手を伸ばし、瞬く間に吸い尽くす。

 苦笑いしかない。


 そういやフランス料理っぽいのにパンが用意されていないのは、こういうのを防ぐためなのだろうか。


/勇者に関する質問は以上ですか? なんなら、勇者に関するもの以外でも構いません/


「お、いいのか? なら食べながらで失礼するが、第二の試練はいつ始まる? あと、残り二つの試練の内容は?」

/第二の試練は、この食事を終えたあと、皆様に休息を取ってもらってから挑んでいただきます。皆様を試練のステージへ転移させるために、私も少し休まなければなりませんので。残り二つの試練の内容については・・・すみませんが、私には分からないのです/

「? どうしてだ?」


 と聞くところによると、そもそもこの試練は画面の女性が用意したものではなく、召喚勇者養成のための機関として、「神祖」と呼ばれる存在が作り出したものらしい。


 試験の内容は、あらかじめ用意された多数のステージからランダムに三つ選ばれ、召喚者側で決めることは出来ないようだ。


「なるほどな。じゃあ、ファーストステージでは何も知らない状態で召喚され、生き残った者だけがこの部屋に招待。その後にセカンド・サードステージに挑戦というのも決まった流れなのか?」

/はい。この部屋に直接、人の子を召喚する術はありませんので/


 はぁ、単にそれだけで前情報皆無という鬼畜仕様に。


「そうか。あとは・・・ステージが複数あるという話だったが、それら全部に何か共通する点とかないのか? ないならないで構わない」

/そうですね・・・。一つ私が知っているのは、2000年前、試練作成当時にあった人間の神話をモチーフにしたんだとか。もちろん、地球の、だけではありませんが/


 まあ、空に黒い大穴が開いてて、その下を巨体が歩いてるなんて神話は、聞いたことないしな。


「ありがとう。参考にさせてもらう」

/いいえ。本当は、もっと流せる情報があればいいんですけどね。勇者候補者が全滅して困るのは私と、管理している世界なので/


「はは、違いない。最後の確認なんだが、あなたの要望は、

・魔神に襲撃され、現在囚われているので、助けてほしい

・そのためには勇者が必要。ただし、勇者の力を与えるためには、ある程度『勇者の器』を育てる必要がある

・俺たち勇者候補者には、三つの試練を乗り越えるとともに、レベルを上げて強くなってほしい

というところでいいか?」

/はい/


 画面の女性は、素直に頷いた。


「あ、あともう一つ。仮に勇者になれたとして、魔神の問題を解決することが出来れば、俺たちは元の世界に戻れるのか?」

/はい、お望みとあらば/


 こっちには、断言か。


「よし、俺からは以上だ。他はなにかないか? 『世界の管理者』さん、顔色が段々悪くなってきているから、そろそろ時間なんだと思うぞ」


 どうやら魔神に体を蝕まれているでなくとも、弱っているのは本当らしく、気分は悪そうだ。

 結構無理して会話しているようにも見える。

 志崎さんが、「確かに、良く良く見れば・・・」と呟いた。


「し、紳士じゃ」

「紳士なのです!?」

「紳士!」


「お心遣い、痛み入ります」


 老紳士が、俺に向かって頭を下げる。

 当然の気遣いをしているだけなのに、なんだかこそばゆい気持ちだ。


「え、ええと、いいかな・・・」


 茜さんが、恐る恐る手を挙げた。


/どうぞ/

「岡吉君なら、こんな試練とか受けなくても、勇者の力に適応出来るんじゃないかな・・・」


 ん? そうなのかな?

 自分の力については、あまり考えていなかったな。


/・・・あのステージをあの(・・)攻略法で突破出来るというならば、確実に可能じゃないでしょうかね。ただ、・・・ゲホッ・・・、古よりの規定がありまして。試練の合格者でないと、勇者の力を授けることは違反になってしまうのですよ/


 回答中、画面の女性は嫌な咳をした。

 喉を傷つけていそうだ。


「あ、そ、そうなんですね。私からの質問はもういいので、早く休んでください!」

/あ、ありが・・・ゲホ、ゲホッ!?/


 血の混じる咳。

 大丈夫なのかと思った矢先には、目が充血して一気に真っ赤になり、そして血の涙を流し始めた。


「!?? すみません、皆さん! 謁見はこれまでということで・・・」


 視線の先の大画面が、ふっと消える。



 この時、すでに画面の女性に関して見覚え云々というところを、俺は忘れてしまっていた。



 後味の悪い終わり方に皆唖然としていると、部屋の中にまた、メイドさんが料理を携えて入ってくる。


 彼女らの一人にコースの手順を確認してみると、今はpoissons(魚料理)、これからはsorbet(ソルベ)viandes(肉料理)dessert(デザート)の順に出てくるんだとか。


 胃もたれしそうだなと思いつつ、他の皆と同様、黙々とタラのムニエルを口に運ぶ。

 いや、俺と志崎さん以外は早食いしているが。



 おい三つ子、そんなに食い急いでたら、三人仲良く喉に詰まるぞ?


 とか考えていたら、喉を同時に詰まらせたのは四バカだった。




 きっと、日頃の行いが悪かったんだろう。

 岡吉テメェ、全然コミュ障じゃねえじゃねえか!

 流暢に喋りやがって、ムカつく野郎だ・・・

 しかもいっちょまえにフランス語なんか使いやがって・・・!


 Serious様、早くこんな奴やっちまってください!

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