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Rubber SCrap  作者: オッコー勝森
1章 "Summoned"
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S.2 "Summoned②"

 二話目。

 パチリ。

 ゴシゴシ。


 そう、いつもの通りに目を覚ますと。


 深淵の如き暗闇が、青い空にぽっかりと空いているという不思議な光景が視界に映り込んだ。


「空なのに、さらに空いている・・・」


 そんなしょうもないことを思わず呟いたのち。

 地に背中を付けて、寝転がる体を起こそうとしたものの。


 腹や腕、足の上に何か重いものが乗っかっており、思うように動けない。


「・・・?」


 首だけ浮かして胴体の様子を探れば、人間の女性が四人、自分の体に纏わりついていた。



 幼き頃は、一緒によく、楽しく遊んだものだ。



 不意にそう思ってしまうほどには、彼女らの顔には、在りし日の面影がよく残っていた。


 段々と意識が覚醒に向かううち、力強く握りっぱなしであった右手の中の何かに気づき、抱きつくユカちゃん・・・、其連(そのつれ)友香を起こさないよう、そっと右腕を引っこ抜いた。


 顔の前で、握っていたものを落とさぬよう注意して右手を開けば、「シオンたん」の神の如き笑顔が、俺に眩しき光を注ぐ。


 まるで、朝日。


「はぁ、素晴らしき哉・・・」


 このままうっとり眺めていたいが、リアルな人間四人分の体温が直に感じられる状況では、2D(幻想側)の耽美なる世界に集中して浸れない。


 気持ち良さそうな顔で眠る四人の少女に注意して、慎重に体を起き上がらせる。


 しかし、田鴨伊予だけ、俺の股間付近をヨダレで濡らし熟睡する白百合麻里にイラっとした拍子に、頭を地面にぶつけさせてしまった。


「しくった・・・」


 だが、ゴッという嫌な音がしたにもかかわらず、田鴨伊予に起きる気配はない。

 寧ろ、心地良さそうな顔をしたのち、スヤァッとより深い眠りに入った。


 途端、無理矢理記憶に蓋をしていた、意識を失う寸前のことを鮮明に思い出し、俺は頭を抱える。




 ・・・メスブタとして飼えって、どゆこと?




 漫画やラノベ、アニメでは頻繁に使用される言葉、「メスブタ」。


 無論、日常言語としての機能を持っているはずもなく、まず耳にはしない。


 いやそれどころか、昨今のジェンダー論争風潮では使えばしばかれそうなワードを、急に耳にしたのだ。


 ショックを受けるのが当たり前だろう。

 困惑するのが当たり前だろう。

 受け入れるはずないというのも、当たり前だと信じたい。


 親はこいつらにどういう教育を施していたのだと考えても、幼稚園児の頃何度も見た、彼女らのまともで優しそうなパパママ顔が浮かぶだけだった。


「・・・起きたらまた、迫ってくるのか?」


 天国に憧れる亡者のように、俺の体を這い上がってくる、四人の少女の悍ましい姿を思い出す。


 背筋がゾワリとした。

 ああいうのは二度とゴメンだ。



 シオンたんならいざ知ら・・・。




 ゴオッォォォォォッォン!!!!!




 地面に向かってヘディングを放つ。

 自分への戒めである。


「あ、危なかった・・・。シオンたんを穢れた妄想で貶めるところだった」


 正気に返った俺は、膝を崩して腕を上げ、「シオンたん」ラバーストラップを天に向かって掲げた。


「ああ、神よ、愚かなる私をお赦しください・・・」


 涙を流して、懺悔の言葉を語る。


「・・・ん?」


 そこで、いつもならシオンたんの後光の役目を果たしているはずのステージセット、もとい、太陽の不在に気づいた。


 先ほど、「空なのに、さらに空いている」と自分で言ったのに。


 大空で虚ろに空いた、真っ黒な暗闇の大穴は、真昼の空から太陽の権威を完全に切り取ったように見え。


「あれ、ここどこだ・・・?」


 全方位地平線が見える、真っ平らな原っぱの中心で、キョロキョロ周囲を見ながら、呟いた。


 というわけで漸く、真っ先にしなければならないはずの思考に、俺は辿り着いたのだった。









 さて、考えるべき議題に到達したとはいえ事態が先に進まない会議と同じように、「ここはどこだ」といくら考えても何ら生産的な答えを見つけられなかった俺は、もういいやとばかりに「シオンたん」ストラップを堪能することにした。


「ああ、やはり最適な視点の位置は、仰角33度付近・・・、いや俯角26度の方がいいか・・・?」


 そうやってシオンたん最適化問題を解いていると、人の叫び声が聞こえた気がした。


「・・・?」


 田鴨伊予たち四人はまだ、地面の上でだらしなく眠っている。


 耳はいい方だから、人恋しさによる幻聴、とは間違えない。

 案の定、聞こえる声は大きくなっていき、近づく人影も見えてきた。


「俺のように突然連れてこられた人たちか、あるいは住人か? 彼らならここはどこか知っているだろうか」


 彼らが俺に近づいてきているのは明らかなので、待つことにする。

 軌道を修正しだしたら、こっちが行けばいいだけだ。

 それで、有用な情報が聞けたらいい。


「ん?」


 しかし、待って一分と経たない間に、その集団のおかしさに気づいた。


 全力疾走する五、六人の後ろから、黒色の巨大な何かが迫っているように見える。



 あの黒いの、明らかに人間じゃない。



「追われているのか?」


 人の方の、息も絶え絶えな呼吸音が俺の耳に届いた。

 苦しそう。



 そう感じた次の瞬間には、嗚咽をもらす女の子の声が、走る音に紛れて聞こえてきた。




「『(はずみ)』」




 無意識のうちに、一言、そう呟き。



 しなる体のままに右足を踏み込み、跳躍すれば。


 音を置いてけぼりにして、体は目的の方向に進む。



 身を潰すような風圧。

 身を切るような気流。



 両親との修行でもう何度も体験し、慣れてしまったものである。


 最初の方は、あまりの痛みに気絶した。



 あっという間に逃げている連中とすれ違い、そして遠ざかり・・・。


 今、黒い巨体の真正面。



 想像よりもかなり大きい。


 目はいい方じゃないから、遠近で目測が狂ったのだろう。


 さらにこの巨体、浮いている。

 浮遊しながら、前進しているのだ。


 だからこいつの運動音が聞こえなかったのかと、俺は納得した。




 納得しながら、一発ぶん殴った。




 ドグォン! と、殴られた鉄塊のような鈍い音を響かせ、巨体は地に沈む。


 凹みが痛そうだ、と他人事のように思う。


「パビパパピポパ・・・、ピッ!」


 その凹みとともに出来たヒビから、ガラガラと崩れていく中、巨体は随分と古典的な故障音を鳴らし・・・、一際高い音を出したと思えば。


 口のような何かを開き、高密度なエネルギーの籠った、光の弾を噴出してきた。


 無駄な動きをして下手に体力を使いたくないため、ちょっと仰け反りながら、紙一重で避ける。


「あっ」


 それが甘かったというのか。

 今まで俺の目を守ってきた、「コミュニケーションフィルター」こと長い前髪が。



 光弾に掠って半分以上、ジュッと消失してしまった。



「ノオオオオオオオオオォォ!!???」


 絶望の叫びを上げ。


 叫び過ぎて痛む喉を無視し、現在進行形で崩れていく黒い巨体を、キッと睨む。


 ・・・許さん。

 許さん許さん許さぁん!


「分子化しろおおおおおぉぉぉぁぁぁぁああああああ!!!」


 という理系チック(?)なことを叫んで。


 すでにスプラッタと化している巨体を、塵になるまで粉砕した。

 自分と違うタイプ過ぎて、主人公の思考パターンをまだ把握しきれてないぞ・・・。


 読んでくださりありがとうございます。

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