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Rubber SCrap  作者: オッコー勝森
2章 "Minotaur"
17/29

M.1「Might①」

 第二章、スタートです!


“You Get the Qualification of the Next!”



 は?



「いてぇ!?」


 予期せぬ魔法陣に吸い込まれたのち、すぐさま地面に叩きつけられた。


 当然着地態勢にはまだ入っておらず、ケツを思いっきり強打したのち、後頭部も打ち付ける。

 極め付けとして、最後、顔に何か重いものがどん! とのしかかった。


 悪魔の連撃コンボでも喰らった気分である。


 ぐへっと、情けない声を出してしまった。


「くそぉ、優しくない・・・ん?」


 手をワキワキ動かしてみる。

 両手に抱き上げていたはずの茜さんが、いない。


 目を開ければ、真っ暗。

 顔に圧力を与えるのは、何かの布に辛うじて包まれる、妙にしっとりと生温かい何か。



 まるで、人肌みたいな・・・。



「・・・」


 血の気が、サァッと引いた。


 ゆっくりと顔面騎乗する何かを除けて、頭を闇から脱出させてみれば。



 顔を埋めていたのは、茜さんのスカートの中だった、ということに気がついてしまいました。


 ・・・ピンクだった。


「違う! わざとじゃない! これは罠だ! 俺を陥れようとする誰かがいたんだああああ!」


 立ち上がり、後退りながら、俺は冤罪を叫んだ。

 端から見れば、往生際悪く自分の無罪を主張する犯人のようにしか見えない。


 俺は、自分の冤罪を主張するのに向いていないのかもしれない。


「・・・?」


 しかし、茜さんから返事は来ない。

 どういうことだと顔を覗きみれば、彼女はまたもや気絶していた。


 座ったままの姿勢で、白目を剥き、ポカンと開いた口からヨダレを垂らして。

 失礼だが、吹き出しそうになった。


「この子、絶対に写真に撮られたくないような顔晒しながら、本日二回目の気絶してる・・・」


 かわいそう。

 合掌。


「さて、ここはどこだ・・・」


 周囲をクルリと見回せば、天井からシャンデリアが掛けられた、大きな洋風の部屋。

 豪華だが煌びやか過ぎない、趣味の良いインテリアが、壁付近に所々飾られている。


 反対側には、扉が一つ、あるのが見えた。

 そして、部屋の真ん中には、二十ほどの椅子に囲まれた、白いテーブルクロスの掛かる、長机。

 テーブルクロスには汚れの一片もなく、清潔に保たれていることが良く分かる。


 もちろん、一般庶民な俺には見たことも聞いたこともないような場所で、元の世界に帰れてないかな、という淡い期待は潰える。


 まあ、”the Next”とか書いていたしな。


 そして、部屋に二つある入り口の、もう一つの前であるここには、四バカと、茜さんグループ、それに見知らぬ少女が三人寝そべっていた。


 四バカたちはこの部屋に連れてこられる前から倒れていたから、まだ意識を取り戻していないのだろうな、と考えられるが。


 この三人は、一体誰だろう?


 あの黒い穴のステージには、俺たちの他にも人がいたのだろうか?


「ああ、そういえば・・・」


 俺のせいで、結局全滅してしまったグループの存在を、思い出す。

 追加して、血まみれで死んでいった少女の哄笑も。




 ブンブン頭を振った。


 忘れよう、あのことは。




 ・・・もしかしたら、俺が黒い穴をぶっ壊すまでの時間には巨体に襲われずに済み、助かった子達がいたのかもしれない。


 だとしたら、ステージクリアの喜びも増す。


 ところで、ここは入り口前ということで、目の前には部屋に入るためのドアがあり、シックでかっこいい感じのドアノブも、着いていた。


「・・・このドア、開くのか?」


 もしかしたらこの状況から、逃げる手段があるかも。


 僅かな希望を抱きながら、ドアノブに手を伸ばし、がちゃりと回してみる。


「お」


 ギィ〜と、ドアは静かに開いた。

 出来た隙間から、繋がる場所はどこかと、首だけ出して覗いてみる。


 しかし。


「ん?」


 目に映るは、視点の変わった、同じ部屋。

 部屋の反対側には、開いた扉の隙間に顔を突っ込む間男の、見覚えのあり過ぎる胴体と下半身があった。


「やっほー、俺の胴体と下半身」


 怖くなってきたので、慌てて顔を引き戻す。



 ・・・分離してないよな?



「!? 誰だ!??」


 突然、部屋に別の存在の気配が現れるのを察知し、戦闘態勢に入りながら周囲を見回す。


 黒い穴の世界に来てから、感覚が段々と鋭敏になっていっている気がする。

 いや、それを言うなら、修行時代の感覚を取り戻してきた、かもしれない。


 部屋に飾られる調度品の一つ、時計の横に、何やら奇妙な気配がした。



 姿は見えない。


 が、何か、いる。



 敵かどうかは不明だが、いつ襲われても対処出来るように、透明な気配の主に注意を集めた。


「・・・驚きましたな。まさか地球人が転位陣を通って意識を保つどころか、私の存在に気が付かれるとは」


 すると、時計付近の景色が歪み、執事服を着込んだ一人の老人が現れたではないか。

 気になることを言っているが・・・、真っ先に口を突いた言葉は。

 

「・・・只者じゃないな。おじいさん、何者だ?」


 ビシバシと感じる強者の風格に、尋ねずにはいられない。


「そういう貴殿こそ。あのステージの突破者がこんなにいるとは驚きですが、貴殿を見てすべて納得いたしました。早めに気づけば犠牲者の最も少なくて済む、あの攻略法も可能だと、ね」


 ・・・あの攻略法、()


「別の攻略法もあった、のか?」

「ええ。貴殿のように地球人として規格外の力がなくとも何とか可能な、所謂正規の攻略法がね。ですが安心してください。為す力があるのであれば、あなたの攻略法が最良のものであることは、この私が(・・・・)保証しましょう」


「! おい、おじいさん。あんたが、このイカれたゲームの主催者なのか?」


 だとしたら、許すわけには行かない。


 茜さんのお姉さんを筆頭に、すでに多くの犠牲者が出ているのを、この目で見ている。

 しかも、まだ別グループが存在して、俺の知らぬ間に巨体に襲われて死んだ可能性も、ゼロではない。


 大仰な舞台装置を用意して、面白半分に人命を弄んだゲームの作り手には、必ず相応しい責任を取ってもらう。


「いいえ、違います。私はただの、案内人。ゲームを用意したのは私の主ですが、貴殿が思うほどには、このゲームは貴殿方にとって悪いものではありません」


「なんだと・・・」


 どこが、悪いものじゃない、だ。

 死んだ者は生き返らないし、残された者の心には永遠の傷が残る。


 これが悪いものでなければ、地獄にだってL◯◯K JT◯の観光ツアーが組まれるわ。


「一ステージ目に行った数々の非礼については、心から謝ります。ですが、こちらにも覆せない事情があるのです。それに就きましては、皆様の意識が回復なさったときに、我が主からの説明がございますので、しばしお待ちを・・・」

「今、主とやらを出せないのか?」


 鋭い目を向けながら、老執事に質問する。


 気持ちが、抑えられそうにない。

 出るなら早く出てきやがれ、ゲームの主催者。



 覆せない事情とやらが納得出来ないものならば、弾き飛ばしてやる。



「・・・凄まじい気迫でございますな。こちらとしても、お気持ちはよく理解出来るつもりです。ただ、我が主が皆様と顔を合わせられるのは、覆せない事情(・・・・・・)により、一月に一回ほど。我々も、慎重に慎重を期したいのです」


 しおらしく頭を下げる老執事に対し、募るのは苛立ちだった。

 しかし、彼の表情から、困ったことがあるのは本当に見え。


「・・・分かった。待つことにする」

「ありがたき幸せ」


 となると、皆が起きるまで、俺は悶々としながら無聊を慰めねばなるまい。


 が、じっとしていると、今日一日に起こった嫌なことばかりが思い起こされ、心がどんどん重くなっていく。


 腹が減っているのもあり、そうした心の動きに対抗出来るほどの元気が湧かない。


 皆起きたらという話だったが、いつ起きるのかはまるで不明という、オープンエンドなフォワードガイダンスにも、腹が立つ。


 カリカリガリガリと心を削っていく悪い虫を消し去るために、ポケットの中の「シオンたん」ラバーストラップを、ぐっと握った。

 オープンエンドとは、終わりが決まっていないという意味。

 ここでは、岡吉の待ち時間の終わりが、という感じで使われています。

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