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Rubber SCrap  作者: オッコー勝森
1章 "Summoned"
15/29

S.15「Solution③」

8/12 神照茜のステータスを修正。


[The Viewpoint of 神照(かむてる)茜]


 夢を見た。


 一面の暗い海。

 底の見えない水の上。


 顔だけ出しながら、もう死ぬと分かっていながら、それでも陸地を目指し、泳ぎ続ける。


 しかし、体力のない自分の動きは、どんどん悪くなるばかり。


 仲間は皆、自分を置いて泳ぎ去って行った。

 足が攣り。

 溺れる。


 ああ、もう息が出来ない。


 そう、すべてを諦めかけた時。



 天上から、光る糸が落ちてきた。


 私は仲間のことなど厭わず、迷わずそれを取った。














 さて、今。


 激しい振動と、フワフワしたものがペチペチ当たる感触とによって、意識が徐々に覚醒していく。


「う・・・ん・・・う?」


 目を開けると、そこには逞しい男の胸板があった。


「!??」


 そのあまりの驚きに、意識を失う前に受けた気がする、何かとてつもないショックが瞬時に上書きされる。


 因みに、ペチペチ当たっていたのは、四節に縛られた、男の長い髪だった。


「? あ、起こしてしまったか・・・?」


 上から、低く澄んだ男性の声が聞こえる。


「!? ふぇ、岡吉君!?」


 甲高い声が、喉から湧いて出る。


 ど、どどどどうして!?


 顔がすごく熱くなった。

 きっと真っ赤に染まっているだろう。

 それが恥ずかしい、すっごい恥ずかしい!


「な、なんで、岡吉君に、抱き上げられてるのかな、私・・・」


 おろおろと、彼の顔をチラチラ上目遣いで見ながら、尋ねてみる。


「えっ、あっ、えーと、それは、別に犯罪的なことをしようとしたわけではなくてさ・・・」


 すると、私以上におろおろとしながら、岡吉君は返してきた。


 警察が聞けば「語るに落ちてるな・・・」と呟きそうなことを。



 ふ、ふふっ・・・と、私は思わず笑ってしまう。


 景色が猛然と変わっていくこの場には似合わない、呑気な笑い。


 だけどさ、彼が縦横無尽に飛び回ってることなんて、何故か気にならないから、仕方ない。



 この人って、見た目に似合わず、ぜーんぜん異性慣れしていない。



「何か、おかしいか・・・?」


 自信のなさそうな声音が、また上から届いた。


「・・・うーんとね、うん、おかしいよ。岡吉君、あなた自体が」

「なっ・・・」


 愕然としたような返事。


 彼の動きが、一瞬遅くなった気がした。


 抱きかかえられている中で、意識を失う前のことを、段々と、そして鮮明に思い出してゆく。



 この世界に飛ばされた時の憂苦。


 黒い化け物に追いかけられた時の絶望。


 お姉ちゃんが死んでしまった時の激情。


 面識のない少女の、死に様への恐怖。



 短い時間に体験したものは、すべてがすべて、平和な日本しか知らない私には相当応えるものだった。


 意識を失う前は、いつ発狂して、自傷行為に及んでもおかしくない精神状態だったかもしれない。


 でも、めげそうになる黒い感情以上に、もっと、もっと、強く光り輝く、甘く切ない思いもまた、あった。



 朧げに、自らの見た夢を、思い出す。


 あれって、私の心象風景だったのかもしれない。



「おかしいおかしい、岡吉君。なぜならあなたは」



 私って意外と恋愛には強かなのかもしれない。


 そう思った。

 でも違った。


 私は弱い、何もかも。


 日本という平和な場所で、しかも毎日お姉ちゃんに守られて安穏と過ごしていた私は、死ぬほど弱い。



 でも私は、この黒い大穴の開いた残酷な世界で、まだ死んでいない。


 黒い感情の濁流に揉まれても、私の心は、まだ死んでいないのだ。


 これは、私が不相応な強さを手にした、証。



「死ぬほど弱い私を、こんなにも強くしてくれたんだもん」



 胸の中の、救世主様、いや、未来の旦那(・・・・・)様に対する、とてつもなく熱い思い。


 今はまだ、ここまでにして。


 滾らせて。



「・・・そうか」


 旦那様は、そう、ぶっきらぼうに答えた。

 ・・・もうちょっと、何かあってもいいんじゃないの?


 少しムッとしたが、同時に、彼の体が全身傷だらけであることに気づいた。


「え・・・。岡吉君の体、傷だらけだよ! 大丈夫なの!?」

「! ・・・このくらい、平気だ」


 見える範囲を体温の様子で診察(・・・・・・・・)すると、確かに致命傷となりうるものはないが、細かく散りばめられた擦り傷や、打撲による内出血は見るに堪えない。


「そ、そういえばさっきから動き回ってるけど、何してるの?」

「黒いヤツらの対処だ」

「へ、ぇ?」


 少し考え、それはおかしいことに気づく。


 今まで旦那様は、あの恐ろしい黒い化け物を、信じられないことに一撃で処してきた。


 つまり、彼にとってはその程度の敵のはず。

 が、現在の彼は相当数の傷を負っている。


「さっきまでより、強い敵?」

「・・・違う。強さは現れた巨体皆、同程度だと思う」

「なら、なぜ岡吉君はそこまでの傷を?」


 聞いた途端、彼は黙りこくった。

 答えたくないのか、どうなのか。


 分からない。

 だから、口を開くのを待つ。


「・・・俺は、馬鹿だった。三度重ねるまで、気づかなかった」


 やがて、旦那様の口がポツリと言葉を紡ぐ。

 真剣になって、耳を傾けた。



「黒い巨体を倒せば、俺たちの内の誰かが死ぬ」



 全身に、衝撃が走る。

 死んだお姉ちゃんの生気のない顔が、記憶に突き刺さった。


 まさか、だとしたら。


「すまない。君のお姉さんは、俺が殺したも同然だ」


 顔を見なくても、声だけで分かる。

 旦那様は、心底後悔していた。


 ズキリ。

 心が痛む。


 彼があの黒い化け物を殺していなければ、お姉ちゃんはまだ、生きていた。


「俺があの黒い化け物を、殺していなければ・・・」


 彼の悲しみがこちらに伝播し、自分の抱く悲しみとの相乗効果で、しばらく沈黙したくなった。


 だけど、もしこのまま、私が何も言わなければ、彼はどうなってしまうだろう?


 一生、たとえ間接的にでも、神照(かむてる)詩織を殺したことについて、後悔し続けるのだろうか。




 それはダメ、旦那様。

 あなたには近い未来、私のことだけを考えてもらうんだもん。




 ・・・ごめんね、神照詩織(お姉ちゃん)


 私に、「将来のいい奥様(ヒロイン)」を、演じさせて。



「それは、結果論、だよ?」



 旦那様の大きな瞳が、私を捉えた。



「大体、あの黒い巨体を岡吉君が壊してくれなかったら、私多分、死んでたよ?」



 彼は、相変わらず動いて黒い巨体を牽制し回っているけど、その真剣な瞳は、私だけを映していた。


 真摯で一途そうな、瞳だった。




「だからね、ありがと」




 上空から女性的なフォルムをした黒い化け物が、棍棒を持って襲い掛かってきた。


 チラチラと見える戦闘シーンで、一番攻撃回数が多い個体、だと思う。


 旦那様が足を蹴り上げる風圧だけで、自動車並みの巨体が、お空に舞い上がる。


 すっごいかっこいい。

 ホンットに、ストーカーが出るのも分かる。


 神照(かむてる)茜、齢十七にして鼻血が吹き出そうになる感覚を初めて味わった。


「あれ・・・? 棍棒・・・?」


 少し引っかかるものを覚えた私は、思い当たるものがあって、ふと自分のステータスを確認してみた。



名前/Name: 神照 茜/Akane Kamuteru

性別/Sexuality: 女/Female

レベル/Level: 1

体力/Hit Point: 7(12)

マジックポイント/Magic Point: 50(50)

攻撃/Power: 4

防御/Protect: 6

魔力/Magic Power: 20

魔力防御/Magic Protect: 36

速さ/Speed: 4

スキル/Skill: 「棒術/Technic of Rod」初級/Elementary Level

      「察知:温度/Inference of Temperature」

特殊スキル/Special Skill: 「異言語/Utility of Another Language」

            「恋する乙女/Maiden within Love」



 一つ増えた特殊スキルに余計な御世話と思いながらも、ただのスキルの方に注目した。



 「棒術」初級。



「ねえ、岡吉君」

「何だ?」


 やっぱりぶっきらぼうな返事だけど、これはこれで味がある。

 じゃなくて。


「私ね、スキルに『棒術』というのが、あるんだけど・・・」


 と、少し自信なさげに、進言してみた。

 あの棍棒を持った黒い化け物は、私と関わりがあるかもしれない。


 でも、ただの勘だから。

 見当違いだったら、ごめんなさい。


「・・・!!!」


 しかし、弱気な私とは裏腹に、旦那様の眼は電撃が走ったかのように、カッと見開いた。


 左の化け物、右の化け物、そして黒い穴のぽっかり空いた、上を見る。




「・・・そうか、そういうことだったのか」




 (もや)(かすみ)もすべてが晴れた、お空の太陽みたいな表情。


 まるで、切り取られた太陽の代わりの、偽りの光で照らされるこの世界に、本物の光をもたらすかのような。


 |希望の笑顔《Shining Divine》だった。


 惚れ直す。

 また、旦那様こそ神照(かむてる)の名にふさわしいと、私はほくそ笑む。


「これで繋がった。ありがとう、茜さん」


 ・・・ふぃ?

 脈絡なく急に名前を呼ばれ、心臓が跳ね上がった。


 みょ、苗字で呼ぶんじゃないんだ・・・。

 名前で呼んじゃうんだ・・・。


 ふ、ふ〜ん。

 し、静まれ〜、私の心臓。


 静まれ〜〜・・・。



「やっぱり君は、シオンたんに似てるよ」



 ピシリと、体が凍りついた。


 彼は、オタクなのだ。

 なんのキャラかは分からない。

 けどなんかのキャラだろう。


 困惑した表情を全く隠せないまま、私は思った。






 その一言は、余計だと。

 本作の第一ヒロイン、神照茜さん視点は一旦ここで終わり。

 次回は一章の最終話です。


 因みに四バカはヒロイン(笑)枠です。

 どうしてこうなったのか。

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