S.14「Solution②」
8/12 神照茜のステータス修正。
温度に敏感設定の反映を忘れておりました・・・。
[The Viewpoint of 神照茜]
気づいたのは、救世主様のストーカーっぽい四人の少女のうち、「ズーちゃん」と呼ばれていた女の子だった。
あんなにかっこいい人だもん、ストーカーくらいいてもおかしくない。
山西くんに教えてもらったステータスに載っていたらしい、スキル「盗撮」とやらで過去に想いを馳せている四人組を見ながら、そんな気持ちを抱いた。
全員可愛らしい顔をしているが、女子としては終わっている。
いくら幼い頃からのご近所さんだと言っても、正直敵じゃない。
やはり、問題はお姉ちゃんだ。
さっきは諦めかけたけど、どうしても救世主様への熱い想いは消えてくれそうにない。
最悪、お姉ちゃんの次でいいから、私も側にいさせてほしいと、心が妥協しかけているのだ。
・・・ところで、お姉ちゃんはどこに行ったんだろう?
考えながら、自分のステータスに目を向けてみる。
名前/Name: 神照 茜/Akane Kamuteru
性別/Sexuality: 女/Female
レベル/Level: 1
体力/Hit Point: 10(12)
マジックポイント/Magic Point: 50(50)
攻撃/Power: 4
防御/Protect: 6
魔力/Magic Power: 20
魔力防御/Magic Protect: 36
速さ/Speed: 4
スキル/Skill: 「棒術/Technic of Rod」初級/Elementary Level
「察知:温度/Inference of Temperature」
特殊スキル/Special Skill: 「異言語/Utility of Another Language」
英語・日本語双方に対応している、親切設計。
ESSに所属していた私では、英語の方が分かりやすかったりする。
「あ、スキルに棒術がある・・・」
懐かしいな。
中学校の途中まで近くの武道場でやってたんだ。
ずっと下手クソって言われ続けてたけど。
道場近くの風景を思い出し・・・友達とくだらない話をして笑い合った帰り道が、頭にフラッシュバックする。
帰りたい・・・。
泣きそうになるのを堪え、頬をペチンと叩いた。
ダメだ、そんな気持ちでいちゃ。
杏奈さんたちも不安にさせる気か。
ドゴォンウウウゥゥゥゥ!!
大きな音がした。
「きゃっ」と、身を竦める。
「? 大きな音が・・・、あれ、アル? 和くんは・・・」
似非中国人みたいな話し方をする女の子が、音に反応して盗撮談義をやめ、救世主様を探し出した。
「ありゃ、茜さんのお姉ちゃん、とやら? そんなとこで座り込んでどうしたアル・・・ぅ、うわあああああ!??」
・・・え!?
お姉ちゃんが見つかったの?
しかも、なんで悲鳴を上げて・・・・・・。
「い、いやあああああああああああああっっっっっっあああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!???」
絶叫。
膝から、崩れ落ちた。
今までで一番大きな悲鳴を上げた。
何故って?
大好きなお姉ちゃんが、死んでいたから。
混乱する。
錯乱する。
頭がぐっちゃぐちゃにかき乱される。
「お姉ちゃん、何で、何でよ!!???」
問いながら、目から滂沱の如く涙を流して、お姉ちゃんの体に縋り付いた。
しかし、何も返してくれない。
力ない瞼の下に覗く神照詩織の瞳は、何も物語らず、私が揺らす体に合わせて、ふるふる上下するだけ。
死んでいる。
明らかに、否定する材料なく!
そこからしばらくは、何も覚えていない。
松岡君・寺田君が、何やら四人のストーカーたちと言い争っている。
それくらいしか分からなかった。
終わりがこうも突然だと、最後の最後でお姉ちゃんに反意を抱いてしまったことの、後悔すら湧かない。
なーんにも考えられない。
杏奈さんも、いつの間にか横で泣いていた。
私と体を、くっつけて。
それだけが、唯一の救いだった。
十五分くらい経った頃だろうか。
なんとか涙を堪えられるようになったその頃、救世主様が、帰ってきた。
松岡君が、お姉ちゃんを殺した犯人として、彼を責め立て始める。
・・・それは、違う気がする。
実際彼も否定し、四人のストーカーたちも弁護する。
盛大に泣いた後の回らない頭のまま、彼らをぼーっと眺めていたら、寺田君が恐怖で顔を歪めて。
無意識に考えないようにしていた疑問を、これでもかというくらい大きな声で叫び出したのだ。
「なんで、理沙さんが死んだって言うんだよぉ!」
冷水を全身にぶちまけられたような心地がした。
そうだ、お姉ちゃんが突然死んだのだ。
他の人が突然死なないなんて、何故言える?
「俺、俺も死んじまうのかなぁ」
いやだ、いやだいやだ。
「帰りたい、帰りたい・・・」
死ぬのなんていやだ、何の覚悟も出来てないのに。
帰りたい、そうだ帰りたいよ。
異世界とか、ステータスとかどうでもいいよ。
おうちに帰りたい。
せっかく止まった涙も、再び流れ出した。
「あ、あああああ・・・っ」
慟哭する。
お父さんお母さん迎えに来て、と幼児退行する。
体力を使うだけで、何も解決しやしないのに。
ずっとそうやってうじうじうじうじ。
悩み、精魂が尽きかけ、真っ白になった頭に、パン、パンと綺麗な打ち手の音が鳴る。
視界に色が返ってきた。
音の方を見ると、そこには救世主様。
錯覚かもしれないけど。
あなたはどうしてそう輝いて見えるの?
ああ、また、あなたは。
私を救ってくれるのですか?
「俺たちは、まだ、自己紹介をやってなかったな?」
じこ、しょうかい?
何、ソレ・・・ああ、自己紹介。
「これからは、アイスブレイキングの時間だ」
恐れ多くも、私は怪訝な顔をしながら、え、今ですか? と思ってしまった。
が、彼の提案した自己紹介は確かに、やる意味はあった。
人と会話をして、心が均された気がした。
面白い話に笑って、心が明るくなった気がした。
救世主様の強さの一端を見ることが出来、心に余裕が生まれた気がした。
あと、彼がその・・・所謂オタクだったのは驚いたけど、別に私も漫画やアニメは嫌いではないので、否定する気は全くない。
ただ、二次元にしか興味がないのは問題があると思う。
きっとこの四人のストーカーどもが近くにいたせいで、女性に失望でもしたんじゃないかな。
心の片隅で、岡吉和を私に惚れさせてやる、と密かに決意した。
さっき死んだお姉ちゃんを見て、酷く動揺したばかりのくせに。
私って意外と恋愛には強かなのかもしれない。
神照詩織という庇護者がいなくなって、生まれて初めて気づいた。
松岡くんの言い出した、有体に言って無意味な散策が終わってからしばらく経ち、お腹を空かせてひもじい想いをしていた。
そりゃそうだよ。
目覚めてから追いかけられたり、号泣したりで、今日一日体力を使いっぱなしだったんだから。
「ステータスオープン」
小声で言い、自分のHit Pointを確認すると、6(12)になっていた。多分最大Hit Pointが12で、そのうち半分も減ったということ。
0になったらどうなるのだろうか。
死ぬのだろうか。
ブルリと震え、「もう見ないようにしよう」と呟き、ステータスをクローズする。
隣、雑草すら食糧に見え出したらしい山西君の姿。
「ま、待って、山西君。調理器具もないのにさすがに危険だと思うよ」
一応注意するが、そのことで私は、差し迫った現状の危機を認識する。
救世主様がいる今、食糧問題は黒い化け物以上の脅威だ。
ここで颯爽と対策案を出せたら、救世主様の覚えも良くなると思うんだけど。
考えても考えても、あいにくそんな案は出てこない。
「あああぁぁぁあああああああぁぁああぁ!! ・・・????」
急な金切り声に、おっかなびっくり体を縮めた。
「あの化け物は!? みんなは!?? 克哉くんは?? 克哉くんは?????」
・・・救世主様が助けたという、少女。
半日間一緒にいて感じたことだが、彼は、誰にでも優しい。
優しくするのは私だけにして欲しいと思うのは、恋する乙女のワガママなのかな。
しかしこの女、救世主様の優しさを無下にして、助かりたくなどなかったと勝手なことを喚き散らし、それどころか彼を殴ったのだ。
ゆ、許さない!
怒りの感情を礼儀知らずな少女にぶつけようとしたら、ストーカーの一人、田鴨って子に先を越された。
私の言いたいことそのものを叫んでいたので、言うことがなくなってしまい、おずおずと後ろに押し下がる。
「あ、黒い化け物だ・・・♪」
そんな声が聞こえても、前方にある人の壁で、低身長な私にはあまり実感が湧かず。
すぐに救世主様に倒されたようだ。
問題は、その後。
「ああ、あんたの端正な正義ヅラが歪むのが、滑稽、滑稽よ! これが見れたことに関してだけは、克哉くんよりちょっと長生きして良かったと思いました。まる。ああ、克哉くん・・・・・・」
救世主様への害意をひたすら叫びながら、全身から血をドロドロ流して死んでいく少女を直に見て。
あ、私も。
こんな死に方すルカモナンd・・・。
死の恐怖と帰宅願望が怒涛の勢いで再燃し、脳の処理が追いつかず、私は気絶してしまった。
四バカは女として終わっているようだ。
(※注 あくまで神照茜個人の意見です)