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Rubber SCrap  作者: オッコー勝森
1章 "Summoned"
12/29

S.12「Search④」

 今日一日で何度思えばいい。


 ふざけるんじゃねえ、と。


 九体の黒い巨体は、俺たちの周囲をフラフラと動きながら、無機質に、無感情に、しかし殺気を向けてくる。

 違う、殺害本能・・・殺傷プログラム?


「まずい・・・」


 とにかく、この状況はヤバ過ぎる。


「なんでこんなに集まってきやがった・・・」


 今まで三度(みたび)、襲撃は一体ずつだった。


 それが偶然だったというのだろうか。

 そもそも、黒い巨体がどうして俺たちの元に集まるのか、そのメカニズムが分かっていない。


 角ばったでっかい箱形の、妙にメカニックな黒い巨体が、小躍りするかのように前後左右小刻みに動いている。


 一体一体の強さがこれまでと同じというのなら、倒すの自体は難しくない。

 こいつらをぶち壊すのは簡単、なのだが。


「一体でも殺せば、誰かが死ぬ・・・」


 状況証拠しかないが、この推測は恐らく事実。

 気づいてしまったがゆえに、殺せない。


 皆が起きているのなら、奴らの攻撃を防御しながらでも逃げれるかもしれない。


「! 来る!」


 悪寒が走る。


 スリムな男形の黒い巨体が、右手の指先に腹の底から悍ましさを感じる歪みを生み、轟々と燃える火の球を作り出した。


 茜さんたちを襲った巨体の光る弾といい、魔法にしか見えない。


 そんなのリアルにあっちゃダメだろ。


 魔法を皮切りに、他八体も臨戦態勢に入り始めた。

 当たれば火傷じゃすまなさそうな火球が、俺の元に飛んでくる。


 避ければ、その射線は白百合を捉える。


「くそっ、呑気に寝そべりやがって・・・」


 気絶さえしてなきゃ、状況はまだ救いようはあるのに・・・っ!


 気絶してくれた方がいい、と考えていたさっきから180°転換した悪態をつきながら、迫る火球に向け手をピストルの形にした。


 <弾鬼術>、出番だ。




(パチン)




 ボンッ!!


 火球はシャボン玉のように割れ、辺りに火花を飛び散らした。


 煙の匂いが、俺の鼻腔を撫でる。


 その下を低い姿勢でズバッと通り抜け、跳躍の前準備として、足を踏み込んだ。


(はずみ)


 自らの声を置き去りに、最後方に浮いているスリムな男形の眼前へ。

 全身を弓のようにしならせながら、一撃を見舞うための姿勢を、完成させる。


「ぶっ壊すんじゃねえぞ、俺」


 掌を大きく広げ、鋭く腕を突き出しながらも、力を相手の全身に分散させて伝える、押し出しの技。

 掴んだ空圧を渾身の力でぶつけ、だが掌はふわりと押し当てる。


「ぶっ飛べ」


 スリムな黒い男形は大きく弧を描きながら空を()け、視界から消える。


 壊してない。

 遠ざけただけだ。


 きっとまた戻って来る。

 だが時間稼ぎにはなる。


 この調子で、残りも・・・っ!?


「ばっ!?」



 いつの間にか、黒い巨体が横にいた。



 角ばった箱形の奴だ。


 冷や汗を撒き散らし、かまされる大質量の突進を回避する。

 パワフルなエネルギーが横を通り過ぎるのを、正に肌で感じた。


「バカな、どうしてだ!? 動きはすべて把握していたぞ!??」


 苛立ちと焦燥が募り、つい喚いてしまう。


「!!??」


 横を通り過ぎる角ばった巨体から目を離さないままに、違う個体だが同形の奴が、俺の真後ろから迫っていることに気づく。


 こちらも全く、こんなに近くに寄られるまで意識に登ってこなかった。


 攻撃を、約・・・二メートル。

 その圏内に入られるまで察することが出来ない。


 魔法かよ?


 ホントに魔法ある世界なのかここは。


 いつもの俺なら喜んでいるところだが、今はそんな余裕はない。


「せめて、動くときに音でも出してくれたら・・・」


 普通、浮動するものでも、僅かに空気を切る音が出るもので、俺の耳はそれを捉えることが出来る。


 が、こいつらはマジで無音だ。

 音を奏でるときなど、破壊される時ぐらいじゃなかろうか。


 そこで、筋肉質な巨体が、気絶する寺田くんに対して拳を振るっているのが見えた。


「その存在感で、やらせると思うな」


 拳を掴み、巨体をグオンと放り投げる。


「っ、またかっ」


 二メートル圏内に入ってきた四角い巨体の突進を受け流すと・・・、その陰にもう一体同形のが隠れており。


 手加減しながら足で蹴って進行方向を反らす。


 しかし、さらに後ろからまた同じ箱形の個体。


 対処しようと動いた瞬間に、角ばった巨体が、前方二メートルに迫ると感知。


「くそ、厄介だ!」


 意識が箱形巨体に逸れる間に視界に入るは、女形の巨体が、茜さんに棍棒を振り下ろす光景。


 ただ単に避けるだけでは、箱形同士でぶつかり合い、ぶっ壊れてしまうかもしれない。



 意識を一段深みに沈め、全身の筋肉の微細な動きにまで集中した。

 絶対に、体にコントロール出来ない余地を、残すな。



 左手を前へ、右手を後ろへ。

 前方と後方の二体ともに、そっと手を当てる。

 両方とも進行方向から、くいっと右側にずらしてやる。


 互いにスレッスレで回避し合う形になるのを見届け、今にも棍棒がぶち当たりそうな茜さんの身柄を確保する。


 細身で小さい体をガッと抱きしめ、棍棒の生み出す風圧を感じながらゴロゴロと体をシフトした。


 少し安堵して、気が緩む。


 それがいけなかった。

 一メートル先に近づく箱形の巨体に気づいた時にはすでに遅い。


 避けきれず、茜さんは守ると丸めた背中に、突進がチップする。


 それだけで、全身に耐えきれない衝撃が走った。


 余波で無様に転がり、自分と茜さんの全身を土色に汚してしまう。


「ぐふ・・・」


 呻いた。

 ヤバい。

 難しすぎる。


 一般人はひねり殺せるほどの化け物九体を殺さず、気絶した少年少女を守り続ける。


 漫画などではよくあるシーン、かもしれないが。

 こんなにも難易度が高いのか。


(つぅ)・・・」


 背中を抑えながら、立ち上がる。

 障害などは起きてなさそうで、少し安心した。


 茜さんを地に置こうとしたら、ギュッと俺の学生服を掴んでおり。

 下ろすに下ろせない。出来るだけ邪魔にならないよう、利き手でない左で抱え込む。


 それから。


 デカいしゃもじのようなもので志崎さんに攻撃を測る巨体を先ほどのスリムな男形のようにぶっ飛ばした。

 山西くんの前で本を広げ、なにか変な動作をしている黒い巨体は、軽そうだったので手で持って放り投げる。

 さっき寺田くんを襲っていた奴や、戻ってきたスリムな男形も、同様の手法で対処は可能だ。


 だが。


「箱形が、面倒過ぎる・・・」


 二メートル圏内に入らないとその存在に気づけないというのもそうだが、数にして四もいて、しかも連携を取ってくるのだ。


 執拗に俺を狙ってくるのが不幸中の幸いで、もし俺ではなく、気絶する田鴨らが狙われたら終わりだ。


「負けはしない、負けはしないが・・・」


 このままじゃ、ジリ貧だ。

 この四体以外の巨体についても、追い払うのに地味に体力を使っているのだ。


「どうする、このままじゃ、このままじゃ・・・」


 手を振るい、足を踏ん張りながら考える。


 頭の右でたなびく、四つのゴムで留められた長髪に意識を向けた。



 一つゴムを解いて、封印を緩める(・・・・・・)か?



 いや、ダメだ。


 俺の殺傷能力が高まるだけ。

 体への負担も大きい、持久戦に向かない。


 ・・・肝心な時に役に立たないものだ。



 何か、他に。


 別の糸口はないか?



 しかし無能な俺は、特段何も思いつかない。


 人の知恵を知恵たらしめるはずの思考は、徒らに俺の焦りを助長するだけだった。

 岡吉少年がなんか、過去の黒歴史を疼かせそうなことを言い出しました。

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