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Rubber SCrap  作者: オッコー勝森
1章 "Summoned"
10/29

S.10「Search②」

 この世界は、誰かが作りあげた、ふざけたゲームだ。

 しかしだからこそ、必ず脱出のための答えが用意されている、はず。


 とはいえ、目先で考えなければならないことは、この世界で問われているパズルの全貌、そしてその解答、ではない。



 食糧問題だ。



「はあー・・・雑草でも食おうかな・・・」


 足元の雑草をブチブチと引き抜き、じっと眺める山西くん。

 彼を含めて全員、半日以上何も口に入れていない。


「ま、待って、山西君。調理器具もないのにさすがに危険だと思うよ」


 疲れ切った顔だが、慌てた様子で諫言する茜さんを見て、「・・・冗談だ」と引き抜いた雑草を投げ捨てた。

 それを拾って、食料に成り得るか、目を皿のようにして探ってみる。


「ね〜、岡吉くん。真剣な顔もすごいいいけど、神照(かむてる)さんが言った通り、食べるのは無理だと思う〜」

「食おうとは思ってはいない。食えたらいいなとは思っている」


 止める白百合に対し、腹減る俺は思っていることを素直に答えた。


 ・・・ダメだ。

 繊維質過ぎる。

 どんな菌がいるかも分からない。


 日本の豊かな食生活に慣れきった高校生が食べても、下痢や嘔吐に苛まれ、脱水症状でより問題を悪化させるだけだろう。


 首を横に振りながら、手の雑草を放る。


「ふわぁー・・・福山◯治演じるガ◯レオっぽさがあるわー・・・」


 (かたわら)にいた其連(そのつれ)が、熱く息を吐きながらポワンポワンした視線を向けてくる。


 今のどこに物理学者要素があったのか。

 せいぜい、資金が底をついたフィールドワーク研究者くらいにしか見えないと思うが。


「う・・・」


 その時、真後ろから女の子の声が聞こえた。

 振り返り、半ボケの目を開けている、先ほどまで気絶していた少女の顔を確認する。


「目が覚めた・・・」



「あああぁぁぁあああああああぁぁああぁ!! ・・・????」



 突然、錯乱したかのように金切り声を上げ、見開いた目で眼球をギョロギョロと動かし。

 予想していた光景と違ったのか、困惑した表情に切り替わった。


「あの化け物は!? みんなは!?? 克哉くんは?? 克哉くんは?????」


 戸惑ったように、壊れたように仲間を探す、哀れな少女。

 全員惨殺されたという真実を伝えようか迷っていると、彼女は「あひ、あひひひひひ」と、狂ったように笑い出し。


「あ、そうか、みんな、死んだのか。死んだのね。死んじゃったのね。克哉くんとも、もう絶対、二度と、永遠に会えないんだ」


 笑いを噛み殺すように言う少女の姿には、最早取り返しのつかないほど・・・、ヒビが入っているように見えた。


「落ち着け」


 自分には何度も言った四文字を、彼女にも使ってみる。

 それ以外に出来ることは、残念ながら思いつかない。

 無論、これで本当に冷静になれたら、カウンセラーという職業はいらない。


「あひ・・・・・・・・・・・・、ねえ、あんたでしょ、そこの変な髪型の」



 一つ、萎むような笑い声を上げて。



 数瞬の沈黙ののち、少女は俺をギロリと睨み、ガッと胸ぐらを掴んできた。


「!?」

「私を助けたのって、あんたなんでしょ・・・っ!!」


 ごっ!


 ぶん殴られた。

 完全に不意打ちだったので、少しよろめいた。


 追い打ちをかけようとする少女を、田鴨が羽交い締めにする。


「やめなさいよっ! 普通そこはありがとうの一言でもあるもんでしょっ! 殴るなんて言語道断よっ!?」

「うるさいうるさい! 私は死にたかった! 克哉くんと一緒に死にたかった! そしたら、こんなに辛い思いをする必要もなかったのに! 助けなんて、いらなかったんだ!」


 助けはいらなかった。

 その言葉に、心が大きく傷ついた。


 加えて、心に如何ともしがたい悔しさを覚える。


「死んだら・・・死んだら、元も子もないんだぞ!? 仲間たち・・・克哉くんの分まで、君は生きるべきだ!!」


 カッとなりながら、少女に向かって叫ぶ。

 右に伸びる、長い髪が大きく揺れた。

 こんなに感情的になって言葉を発するのは、久しぶりかもしれない。


 対して彼女は、血が出るほどに唇を噛んで、・・・唾混じりの血液を、俺に向かって噴きかけた。


「な、何する・・・・・・」





「生きれるか、バアアァッァァァカ!!」





 ・・・・・・え?


 驚きのあまり、出かけた文句が引っ込んだ。



 俺には、この罵倒の意味が分からなかった。



「あんたの偽善を、私に押し付けるんじゃない! 私にとっての善は、あのまま見殺しにしてくれることだった! いや、ここでいい! ここで、私を殺してよ!」


 泣き喚く少女を前に、ただ、呆然と立ち尽くすことしか出来ない。


 彼女の要望通り、殺してあげる、なんてことは無理だ。

 それこそ真の偽善であると、俺は信じて疑わない。


 だからと言って。

 ・・・要望に応えられないからと言って、少女を正気に戻すための方策を、別に持っているわけでもなく。


 無力な俺に出来ることは、黙って項垂れる、くらいしかない。


 ・・・あの時した選択は、間違っていたのか?




「あ、黒い化け物だ・・・♪」




 悩む心が頭を支配した時、少女は昏い目を瞬かせ、凄絶な笑みを浮かべた。

 背筋が、ゾクッとする。


 彼女にだろうか。それとも、黒い巨体にだろうか。


 分からない。

 分からないが。



 気づかなかった。

 気づけなかった。


 こんな得体の知れない気配を放つ、禍々しい「何か」に。


 今の俺、なんて余裕がないのだろう。

 彼女が言わなければ、俺は、皆はどうなっていただろうか。



 後ろを見ると、空に浮く黒い巨体と目が合う。


 ・・・悩んでる暇などないということか。


 観察する。

 今まで遭遇した二体とも、形は異なっていた。


 今回のは、スリムな女形の怪人が、和服を着ているような格好だった。


「ああ、殺して、私を殺してぇ」


 田鴨の拘束をぐんっと力ずくで振り解き、巨体に向かって少女は突進する。


「ちょっ・・・」


 と止めようとする田鴨、それに茜さんや志崎さんだったが、巨体に恐怖しているのか、体は動いていない。


 そちらの方が好都合だ。

 下手に動かれても、足手まといにしかならない。


 巨体は少女に向かって、鋭く尖った棒を射出した。


 それを受け入れようとより速度を増す少女を尻目に、俺は棒を叩き落とす。


 黒い巨体程度の敵に「(はずみ)」以上の<弾鬼術>は不要。

 距離をコンマ一秒の間に詰め、殴る。


 細身な巨体はそれだけでへし折れ、真っ二つになった上半身と下半身は地面に激突、動かなくなった。


 「おーっ!」と歓声を上げる四バカに、安堵する寺田くん、山西くん、茜さんに志崎さん。

 苦々しげな顔の松岡くん。



 他方、少女は。




「あ・・・・・・なんで・・・」




 絶望した顔で、俺と黒い巨体の残骸を交互に見て。


「せっかく、死ねると思ったのに・・・・・・何でダァ!!???」


 憎悪の籠った強烈な目つきで、俺をまたしても睨んできた。


「目の前で、助けられる人間に死なれるのは、目覚めが悪いからだ」


 低い声で、淡々と返す。


「・・・この・・・・・・っ! どこまでも自分の都合を・・・」


 感謝など絶対にしない少女だが、今は仕方がない。

 客観的に自分を見つめられるような精神状態になれば、生きていることにありがたみを感じるようになるだろう。


 そう信じよう。

 ポジティブだ、ポジティブシンキング。


 と、せっかく前向きに考えたのに。


 現実は残酷で。



「・・・・・・あれ?」



 少女の着る青い制服、その腹部の部分が、黒紫色に濡れ始めた。


 薄気味悪いその染みは、徐々に。徐々に。


 ゆっくりと、広がっていく。


 何が起こって、いるのだろうか。

 少女は、自分の服をめくり上げた。


 目を見開く。



 傷など一切付いていないのに、大量の血が、腹から滲み出ていた。



「あひ、あーひゃっひゃっひゃ! あははははははぁ!!」


 腹部を皮切りに、全身から血が噴き出し始め。

 そんな自分の体を見て、哄笑する少女。


 笑いながら、体に力が入らなくなったのか、地面にドタッと倒れ伏す。

 駆け寄って肩を抱こうとしたら、パシッと手で跳ね除けられた。


 その力はとても弱々しかったが、明確な拒絶の意思を感じ取ったからか、実際よりも強いものに思えた。


「あーおかしっ! あーおかしいっ! たまんない!」


 ・・・何が!

 何がおかしい!!???


「待て! 待てよ!? くそ、なんでだ!???」


 助けたはずの人間が、また死ぬ。

 畜生!

 何故だクソッタレがっ?!?


「クソ、クソがぁ!!」


 靴がめり込むほど強く地面を踏む俺の足からは、実際ほどの反作用を、感じない。


 あまりのやり切れなさに、黒い穴の開く天を仰いだ。


「無駄だったねえ! 無駄だったねえ! 私は昔っから、あんたみたいな正義を押し付ける人間が、嫌いだったからぁ」


 見下すような目。

 嘲笑。


 俺の存在を根本から否定された気になり、苛立ちがフツフツと募る。


「何を間違えた! 俺は君の、何を間違えたって言うんだ!?」


 問うた。

 助けられる人間を助けようとして、何が悪い!


 人付き合いが苦手でも、その信念だけは、守らねばならないと。

 俺はそう思って生きてきた。


 だから問うた。



 それは正しいことじゃないのか?


 万人共通の(ことわり)ではないのか?



「そういうところ」


 ニタニタ笑いを貼り付けて、最期、に。


「ああ、あんたの端正な正義ヅラが歪むのが、滑稽、滑稽よ! これが見れたことに関してだけは、克哉くんよりちょっと長生きして良かったと思いました。まる。ああ、克哉くん・・・・・・」


 そう鳥肌が立つようなことを言い残して、名前も知らない少女は、自らの血に沈んでいった。

 Serious様、乱舞。

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