新たな始まり
二章の始まり始まり
チサの死から五十年。バッシはチサの死を乗り越えていた。
最初の一週間は何もする事が出来なかった。
食べなくても死なないが、食べないと力が出ない。ほとんど無気力で何もしないが、出来ないに変わっていった。
なんとか物を食べる事が出来るようになった時、チサの愛用していた錫杖が見えた。
彼はそれを抱きしめ泣き、チサとの思い出に浸る日々になった。
生きていく最低限の工芸をしてユーイ商会に売り食料を買って食べれば後はチサの錫杖を抱いて寝る。
そんな生活が十年続きやっと乗り越えられたと言っていいだろう。
それから四十年。
無為に過ごした日々を取り返すように、そして、チサとの思い出を思い出さないように魔法の研究に没頭した。
朝日が昇るのと共に起きて、チサの墓に挨拶し、仕事と研究を行い。寝る。たまに娼館へ行くが、それは体が欲するのだから仕方ない。
娼館の主とも知り合いになり。お気に入りの子を身請けしないかと聞かれたりもした。
だが、チサとの別れの辛さから毎回丁寧に断っていた。
山奥の大賢者として尊敬されて過ごしていたある日、ユーイの曾孫にあたる後継者の元に作った魔道具を卸し、新たな素材を受け取る時に事件は起きたのだった。
「大陸の紅玉が手に入らない?」
「はい、どうも、戦乱が深くなっていってしまいましてね。そこに目をつけた向こうの商会が紅玉を独占してしまったのですよ」
「うーん、今の研究には紅玉が必要なんだけどな」
「もうしわけないです。隣国の紅玉ならあるんですが……」
バッシは店主から受け取った紅玉を掌に乗せて魔力を流してみた。
「駄目だな。魔力の流れが悪い。やはり大陸産の紅玉でないと……」
「そうですか、申し訳ないです」
「いや、仕方ない気にしないでくれ……。でもこの研究は今ちょっとはまってるんだよなぁ……。あっ、そっか」
「どうしました?」
「いや、しばらく留守にする」
「ま、まさか! 大陸に行くつもりですか?」
「ああ、大陸は戦乱中でも向こうに支店はあるのだろう? それならそこに卸そう」
「そ、そうですか、はい、寂しくなります」
いつもの食料を買わずにバッシは簡単に荷物を纏め、家と墓に結界を張って大陸に出かけるのだった。
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