業
チサの必死の努力の末、不老不死の魔法を習得……出来なかった。
二百五十年研究を続けてきて歴代最高の天才と呼ばれた八代目よりも才能のあるバッシですら数年の歳月を経て習得した大魔法である。
魔法とは才能の世界。
才能の無いチサに習得するのは最初から無理な話であった。
だが、たゆまない努力の結果、殆ど才能の無い状態から一国の宮廷魔術師のトップほどの実力を手に入れる事が出来たのだった。
日が経つにつれて分かれていく見た目。
バッシは、子供は作れなくても時に異常に性欲が高まる時期があった。四十五歳まで相手をしていたチサだが、加齢を理由にチサの提案でその日だけ山を降りて娼館へ行く。
そうやって夫婦は穏やかな生活をしていた。
「今日は歩いて大丈夫なのかい?」
「ええ、今日は調子が良いみたい」
チサは皺くちゃになった顔に満面の笑みを浮かべてバッシの隣に立った。
結婚してから五十年の節目の日に二人は寄り添いあって外に出て、晴天の中暖かい日を浴びていた。
杖代わりにしている錫杖の上部の金属がチャリンと鳴る。この錫杖があるから魔力で体を動かす事が出来た。
変わらないバッシと山の風景にチサは安堵し、軽く周りを散策する。
日に日に体が重くなるそう感じるチサの心配はバッシだった。
だけど自分にはどうする事も出来ない。
そう思ってジッと自分の錫杖を見た。
「間に合ったかな?」
溜息を吐いてぼつりと呟くのをバッシは気づかなかった。
さらに月日が巡ってチサもベッドから起き上がる事が出来なくなった。
自分の死を感じ、ベッドで甲斐甲斐しく自分の世話をするバッシに対して必死に手を伸ばし頭を撫でた。
チサは想う。
出会ったときは、弟の友達だった。小さい体が段々と大きくなって簡単に自分を追い抜いていった。
くやしくもあったけどその成長はただただ嬉しかった。
見た目は結婚した時と変わらない。若々しい自分の夫を愛おしく思う。
若い見た目なのだから自分以外の女を作っても文句は無かった。
だけど、あなたは自分を愛し続けてくれた。こんなに嬉しいことはないわね。
自分の体から力と魂が抜けていくのがわかった。
「あなた、私は幸せ……でした……よ」
自分の言いたい事を言い切ってチサの瞳はゆっくりと閉じられた。
享年80
愛する妻の死にバッシは数日間泣き続け、彼女を埋葬した後も数年山から降りる事はなかったのだった。
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