結婚
バッシとチサの二人の結婚式は盛大に行われ……。なかった。
チサにとって三度目の結婚。世間体もある。
チサはバッシが望めば盛大にやるつもりだったが、バッシはチサが望んでいない事を理解していた。
二人の結婚は社の前で、チサとユーイの父親、ユーイ、タカコの三人だけが見守る中行われた。
「俺はチサと一緒に幸せの時も辛い時も一緒にいる事を誓う」
バッシの宣言で見守っていた三人が拍手を贈る。
集会場での結婚の契約は交わし、社の前でも結婚を誓った。
これで完全に二人は夫婦になったのだ。
チサは荷物をまとめ、いつも山から下りるときに使っている手押し車に乗った。
バッシが取っ手に手を置いている。
「んじゃあ、前回も言ったが、もう帰ってくるなよ」
「わかってるわよ」
父親と娘の会話だが、二度の出戻りの為に言葉も冷たかった。
バッシが手押し車を押して山の中の家へと向かっていくのだった。
バッシの家に着いた時、すでにチサはヘロヘロであった。
山道でもあったし、でこぼことした道を魔法で強化された体で全速力で走ったのである。
壊れやすい物は魔法で対衝撃の魔法をかけて運ぶが、バッシはチサにその魔法をかけなかった。
激しい揺れによってチサは何度も吐きそうになったが、嫁いだ初日から吐く事はチサの矜持が許さなかった。
バッシの家に着いてみればチサはその異様さに驚いた。
「涼しい」
「うん、最近蒸すからね。この魔道具で部屋の温度を過ごしやすい状態にしてるんだ」
「これは?」
チサはキッチンの隅にある大きめの箱を指差した。
「これは冬の寒さを魔石に溜めさせておいて中を冷やしておく魔道具だよ。ほら、こうやって涼しくしておくと野菜や果物が腐り難いんだよ」
バッシが箱の扉を開けるとひんやりとした空気が箱の中から漏れ出した。
「へー」
これはユーイが北国に放蕩旅行していた頃、冬の雪を地下に貯めて置いて夏に野菜の保管庫にしている文化を教えて貰ってバッシが作ったものだ。
他にもここの井戸水は一度沸かさないと飲めないのだが、それを浄水して給水してくれる蛇口や、その水を人肌より少し暖かい温度や沸騰した温度で出してくれる蛇口などの間道具も揃っていた。
「バッシ君凄いね。これ全部バッシ君が作ったの?」
「うん、ユーイの旅の記録からヒントを得てね」
「そっか、ああ、だから、実家に大量の温泉を溜めておく湯船と排水装置があったのか、あれ、バッシ君の作でしょ?」
「そうだよ、ここにもあるし」
そう言ってバッシは風呂場へチサを招待する。
「あ、うちよりも広い」
「う、うん、あの、結婚するからさ、作り直したんだ。いつか一緒に入れるかと思って」
「……馬鹿」
二人の間に不思議な沈黙が流れた。夕食後の入浴は互いに遠慮し別々に入るのだった。
夜も深くなり、互いに入浴し、寝室に入った。
チサの寝巻きは薄く透けていて男性を誘うような格好だ。
この地方の新婚初夜は女性から男性を誘うのがマナーである。
あまり起伏の無い体だが、女性らしい柔らかさはみて取れる。
「バッシ君、ううん、あなた、お願いします」
その言葉と共にバッシに寄りかかった。バッシはそのままチサを抱きしめるのだった。
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