修行~外伝~
ナオヤは馬をのんびりと走らせていた。
「さて、強くなる修行をどこでしようか」
『それなら良い所があるわ』
「ほんと?」
『うん』
「じゃあ、そこへ行こうか」
ナオヤは馬の速度を上げて走らせるのだった。
ナオヤは馬から降りて山道を登る。
「ここが神武寺?」
『そ、ここにタカハシがいるはずだし、武を極めようとする者達が集まってるだろうからいい修行場になると思うわ』
ナオヤと馬が山道を登っていると、大門が見えてきた。
大門の前にいる男がナオヤに気づくと一応の格好で武器を構えた。
「なにかこの神武寺に用ですか?」
『私、魔槍タナカを持つ者が来たと伝えてくれと言って』
「これ、魔槍タナカを持つ私が訪ねてきた。そう僧正さんに言ってくれればわかるはずよ」
「少々お待ち下さい」
ナオヤが魔槍タナカを前に出してそう言うと武器を構えた男が大門の中へ入っていった。
男が中に入っていったしばらく時間が経った。
ナオヤはイライラしながら門番の男の到着を待った。
だが、門番の男はまったく出てこない。
大門の前で待っているナオヤの事を中からチラチラと見て笑っている者もいる。その事がナオヤをさらにイラつかせた。
大門の先にある建物からさっきの門番の男が出てきた。
「僧正様は知らないとお帰り下さい」
その言葉にナオヤは完全にぶちりと来てしまった。
一応魔槍タナカに過去の事を聞いて神武寺と魔槍タナカの因縁も知っていた。
『ありえないわね。私の名前を出して門前払いするなんて、まぁ、上に話を持っていってないのでしょうね』
「どうしよっか? 馬鹿にされて私キレそうなんだけど?」
『いいわよ。強攻突破しちゃいなさい』
「ああ。いくぜぇ」
魔槍タナカから黒い魔力があふれ出すが、今回は魔力が刃を覆って打撃武器となった。
最初の一撃に門番の男は反応できずにあっけなく吹き飛ばされた。
『あれは、顔面の骨が軽くいったわね』
タナカもナオヤも自分たちを止める為に防衛に出る奴らを殺すつもりは無かった。
中庭にいた男達も侵入者に武器を持って対応したが、魔力を纏ったナオヤと魔槍の一撃に武器を折られ吹き飛ばされた。
流石に武の聖地だけあって手加減されたナオヤの攻撃では誰一人死ななかった。
ナオヤは正殿の扉を魔槍タナカで傷つけて蹴破った。
中に入っても多くの者達がナオヤを止めようと、殺しても構わない一撃を放つ。
だが、ナオヤは簡単にいなし、弾き、吹き飛ばす。
『たしか、私とタカハシはここをまっすぐ行った所に収められてたから、百年経っても変わってなかったらそっちだよ』
「そっか。わかった」
ナオヤは正面にいた小僧を思いっきり蹴飛ばしてさらに中へ進んでいくのだった。
一人の若い男が大広間の中心で座り瞑想していた。
「うるさいですね。私の瞑想中だというのに」
その男は、瞑想をやめて目を開ける。
去年、先代の僧正が死に、神武寺の次の僧正を決める大会で見事勝ち上がり僅か二十歳で僧正となったイオリは誰かいないかと扉を開けた。
部屋に誰も入れないように扉の前に立たせていた者もいない事にイオリは不審に思った。
そう考えていると扉の前を任せた男が走ってきた。
「大変です。真っ黒い魔力を纏った槍を持った大女がこちらに向かってます」
「強いのですか?」
「はい、ものすごく強いです」
『ああ、真っ黒い魔力を纏った槍か、魔槍タナカだな』
イオリだけが広間の奥に飾ってある神武寺の宝剣に目を向ける。
「魔槍タナカ? それがあなたと対になっている魔武器ですか?」
『そうだ。いつか帰ってくるかと思ったが、ついに来たか』
イオリは軽やかな歩方で奥まで行き魔剣タカハシを掴んみ、また扉へと戻る。
「その女性をここへ連れて来て下さい。さ、早く」
「は、はい」
イオリは剣を持って魔剣の白い魔力を溢れさせる。
「もしかして、僕と互角の人物かも知れない。楽しみだ」
『お前、本当に、俺だけじゃなくてタナカにも認められてただろうな』
魔剣タカハシの呆れた声がイオリだけに聞こえるのだった。
散々暴れたナオヤはドアを蹴破って広場へ入った。
「ようこそ、神武寺正殿へ、なんの御用ですか?」
「別に、私は強くなりたいからここに修行に来たの。だけど、武の聖地と聞いてたけどこの程度だとは、期待外れね」
ナオヤは後から入って来たナオヤに打ちのめされた神武寺の弟子達を馬鹿にするように笑った。
「そのようですね。皆鍛え直しです」
ナオヤの言葉に怒りそうになった弟子たちをイオリが止める。
「ですが、神武寺を舐めないで下さいね。魔槍タナカの使い手さん」
「あなたが、魔剣タカハシの使い手ね。私の最強への道の肥やしになってね」
イオリが鞘からタカハシを抜いて、ナオヤは槍を構えだす。
『お久しぶり! 元気にしてた?』
『ああ、相変わらずだな。お前は』
ジリジリと間合いを二人は詰める。
「この魔槍タナカの事は知ってるのね?」
「ええ、もちろん」
「私、門前払いされたんだけど、あなたの意志?」
「いいえ、私の所まで話は来てませんよ。誰かが止めたのでしょう。魔槍タナカが来たと聞いたら門前払いなんてしませんよ。私への伝言を止めた人は後でオシオキです」
互いの白と黒の魔力が交じり合って空間が歪む。
互いの間合いが触れ合った瞬間二人の武器が触れ合って空気が揺れる。
互いの武器の耐久など考えずに互いに武器をぶつけあう。
ナオヤは、槍の長さと重さ生かした振り回しをおこない叩き付ける。
イオリはそれを軽々と避けて剣の先を撫でる様にナオヤの首へと向ける。
ナオヤはそれを跳ね上げ開いた胴へ石突をぶつけようと突き出す。
だが、それもイオリは飛ぶような歩方で交わして間合い取った。
「やるな」
「あなたもです。久々に血が沸きます」
「私もだ。いくぞ!」
二人の戦いは激しさを増していった。
ナオヤに打ちのめされた弟子達も次第に正殿の広場に集まって二人の戦いを興味深そうに見つめ自分の糧にしようとしていた。
弟子の一人が魔法撮影機(バッシ製)を奥から持ってきて二人の戦いを記録する。
二人の戦いはまさに互角で一進一退の戦いが続く。
三時間後
一人の男が神武寺にやってきた。
「あ、商人さん。お疲れ様です」
「は、はい、あの、正殿が大きく揺れて凄い音がしてるんですけど」
「気にしないでください。いつもの量より一人分多い食料とこれが欲しい嗜好品の票です」
「あの、いいんですか? まぁ、はい。えっと、これとこれとこれ、あの、砂糖はちょっと入荷できなかったんです」
「そうですか、残念ですね」
「申し訳ないです」
「いえ、戦乱が深くなってしまっては仕方ないですよ。では、また七日後お願いします」
「はい、ありがとうございました」
商人が帰った後、弟子の数人は二人の戦いを後ろ髪引かれながら見るのをやめて食事作りを開始した。
「みなさーんお食事出来ましたよー。挑戦者のナオヤさんもいかがですかー?」
「はぁはぁ、食事が出来たみたいです」
「そうね。少し休憩しましょう」
二人は武器を収め、用意された食事に手を付けた。
「ふー食った食った。少し食休みでいいよな?」
「はい、休憩も武技の鍛錬には必要な事です」
一時間後
寝てはいないが、横になって目を瞑っていたナオヤが目を開けて立ち上がる。
「さて、やるか」
「ええ、そうしましょう」
二人の戦いでまた正殿の広場が大きく揺れる。
弟子達は交代で掃除や食事の支度をしながら二人の戦いを見守るのだった。
ナオヤが神武寺に乗り込んでから二日後
「ずるずる。これ美味しいですね」
「だろ、モモフーという人が作った新しい戦場食みたい。記念に貰って帰って来たんだ」
「外も面白い物があるんですね」
「さ、食ったろ。一休みした再開だ」
「ええ」
ナオヤが神武寺に乗り込んでから七日後
「なぁ、はぁはぁ」
「はい? ふぅ」
「はぁはぁ、決着つかないから一旦やめにしないか?」
「いいですね。一旦やめにしましょう。私も少し寝たいです」
「いいな」
「皆さん、客人に布団の用意を……」
この言葉を最後に二人はその場で倒れて眠りだすのだった。
ナオヤが神武寺に乗り込んでから一月後
「おらっおらっおらっ」
「どうしました? 突きが乱れてますよ」
「うるさい! 私はもっともっと強くなるんだ」
「それ以上強くなってどうするんです?」
「上には上がいる。私達二人でも敵わない相手に勝つんだ」
「そうですか、では私も反撃しますよ」
「さっさと来なさい」
ナオヤが神武寺に乗り込んでから三月後
「ふん! ふん! ふん!」
「ふふふ、もっと激しく来なさい。あなたの剣はその程度なの!」
「言ったな!」
ナオヤが神武時に乗り込んでから一年後
「動いた。ねぇ動いたわ」
「本当かい? 聞かせて」
イオリとナオヤ、魔剣タカハシと魔槍タナカに認められ使い手となった二人であり。腕も互角だった。
互いに認め合い高めあい惹かれあった。
二人の仲を引き裂くような障害は何も無く二人は惹かれあうのに任せながら結ばれた。
その事によって二人はタナカとタカハシの使い手としての共鳴が無くなってしまった。
だが、二人は別に不幸とは思わなかった。今までの想いよりも大切な者が出来たから。
二人がいちゃつくのを魔剣タカハシと魔槍タナカは暖かく見守るのだった。
誤字、脱字があれば報告おねがいします。
感想をいただけるとうれしいです。
批判もどんとこいです。




