決着
黒い禍々しい魔力が渦巻くナオヤの周りとピンク色の魔力が渦巻くサキの周り。
「へえ、すごい魔力だ。これで武器が互角って事だな」
「ええ、これで本気を出せる」
ジリジリと間合いを詰めながら互いに笑みを溢している。
『まさか相手が魔武器使ってくるとはねぇ。しかも見た事ない奴だ。魔力の感じだと相性もいいみたい』
「へぇ」
『今まで武器の差で互角かちょっと有利ぐらいだった。武器がほぼ互角になったら負けるかもよ。怖気づいた?』
「まさか! 俄然やる気になった!」
『それでこそ私が選んだ子よ!』
魔槍タナカからあふれ出す魔力がさらに多くなる。
風が吹いていないのに魔力が起こす圧で周りの兵士達が一歩後ろに下がる。
互いの武器が出す魔力が前に出て混ざり合う。
その瞬間両者共に武器を力強く持って前に走り出した。
晩年のチサは魔力で軽くして持っていたが、サキにそんな技術は無い。
先が尖り槍状になった錫杖をサキは突き出し、ナオヤは魔槍を突き出す。
魔武器と魔武器がぶつかり魔力と金属が擦れる音が戦場に響く。
サキは、今まで武器が壊れないように引いていたのをしない。
一合、二合、三合と戦場に武器と武器がぶつかり合う音が響いて周りの戦場を止めていった。
今この場で戦っているのは二人だけ、有名な武人同士の一騎討ちに戦場が注目していた。
二人の戦いは、次第にサキのほうがおしていった。
武器の差がほとんど無くなりサキの一撃でナオヤがバランスを崩し、巨馬から崩れ落ちた。
「くっ、痛ったい」
立ち上がれない状態のナオヤにサキは錫杖を向ける。
その事で大きくターラー軍の士気が上がり敵国の軍の士気が下がる。
兵士の一人がナオヤを縄にかけて他の兵士達が戦いを再開する。
サキは油断せずに一旦下がりバッシを見つける。
馬から降りてバッシに寄りかかる。
「はぁ、疲れたぁ」
目の前で戦闘が行われているが、終始ターラー軍が押していて、あの激しい一騎討ちの後の彼女が休む事を咎めるのはいなかった。
「敵のナオヤです。彼女は傭兵なので、身代金等々はサキ将軍と交渉してください」
捕らえた捕虜の生殺与奪は本来、国、つまりこの場でいえばターラーにある。
重要な人物、たとえば、騎士、貴族、将軍などは国の預かりになるが、傭兵は殆どが捕らえた者達に権利を譲渡するのが普通である。
戦いが終わってナオヤに関してはサキの預かりとなった。
わりとこれ以上敵対しないように殺す事の案が出たらしいが、ケーマが反対し、ターラーがそれに乗った感じだ。
「じゃあ、これが全財産なのね。じゃあ、七日分のあなたの食費、馬の飼葉代を見積もってこれだけ残せばいいかしら?」
「充分すぎる。もっと取ってもいいんだぞ?」
「いえ、こちらとしても充分よ。しかし、けっこう溜め込んでいたのね」
「私は強いからな。最強を目指して戦場を駆けてたらこうなった。使う金なんて私の食費とオグルの食費と鎧の修繕費だけだからな」
「そう、わかったわ。じゃあ、このお金と私達に敵対しないという条件であなたは解放」
「うぅ、わかったよ。でも、木槍同士でいいからまた戦おうぜ勝ち逃げは許さねえぜ」
ナオヤの言葉にサキは苦笑いして首を振る。
サキに拒否されたナオヤはがっかりした顔で落ち込み、出された麺とスープの残りを一気に飲み干した。
「ええ! 戦おうぜ戦おうぜ私はもっと強くなってお前に勝つぜ」
「いやいや、元気なお嬢さんだ」
バッシが二人の会話を笑いながら見ている。
「ああ、私は最強になる。今勝てなくても勝てるように努力してやがて勝てばいい」
純粋でキラキラとした目でそう語るナオヤをバッシは好ましく思った。
『それでこそ、私が選んだ子だわ』
「なかなかいい使い手を見つけたね」
『ええ、そうでしょそうでしょ……ってなんで私の言葉がわかるのよ』
「魔力で干渉すれば簡単だぞ」
バッシはそう笑って魔槍タナカを持ち上げる。
『いーやー犯されるぅぅぅぅ』
「人聞きの悪い事を言うな!」
バッシは魔槍タナカの柄の部分をパシリと叩く。
今度はバッシと魔槍タナカの会話を聞いていたナオヤが笑いサキがキョトンとするのだった。
戦いが終わりナオヤを解放することとなった。
「さて、一応保険を取らせて貰う」
そう言ってバッシはナオヤの胸をギュムッと掴んだ。
バッシは、サキの後ろから炎が上がるような圧力を感じたが、無視し、魔力を流した。
「あっ……」
その魔力に反応してナオヤの頬が赤くなって指を噛む。
「は、ふぅ、何、あのでっかいので満足できないの?」
バッシが胸から手を放した瞬間ナオヤは、サキに、にやけ顔を向けながらバッシに問いた。
「いや、今魔力を心臓に流し込んだ。これで約束を破ってターラーの敵の軍に傭兵として参加したら魔力が破裂して心臓を壊すようにした」
バッシの言葉ににやけていたナオヤの顔が一瞬で青くなった。
「わ、わかってらぁ」
ナオヤは何度も自分の胸をペタペタと触って自分の胸に異変が無いか確認した。
「まぁ、いいや、俺はまた強くなって再挑戦するからな。覚悟しておけ」
「はい」
「それと、参考までに聞きたい。私とこの子の実力差は見える。私が特訓すればまだ届く位置にいる。でもあなたは見えない。私とあなたの実力差はどれくらいなんだ?」
真面目な顔に戻りナオヤはバッシに聞いた。
「そうだな……」
バッシは聞かれた事に真面目に応えようと何かたとえを考える。
「君の糧食として食べた汁麺あるだろう」
「ああ、あのお湯を入れて三クナミ(約三分)待てば出来るやつな」
技術者モモフーとヤマゴエ将軍が考案した新技術の糧食である。
「お湯を入れて完成するまでに君を千八十回殺せるほどかな」
バッシの言葉にナオヤは複雑な表情をした。自分の腕を信じているナオヤに対して自分の足元にも及ばないと言われたのである。
『妥当な見解ね。どうする? 最強とは彼よりも強くなる事よ』
魔槍タナカの言葉でナオヤは歯を食いしばり笑顔を見せる。
「ばかね。諦めるわけないじゃない」
『それでこそ私が選んだ子ね』
そう言ってナオヤは巨馬に跨り去っていった。
サキとバッシは部隊をまとめ隣国に攻め入る準備を始めた。
その国はターラー達に瞬く間に蹂躙され併合されるのだった。
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