二人の想い
バッシはチサの杖に謝るように抱きしめた。
「すまない。もう乗り越えたと言ったのに」
『それとは別の案件でしょ。私に依存しているか、協力を求めているかなんてまるわかりなんですからね』
「勝てないなチサさんには……」
『ふふふ、いいのよ。そんなことよりもこんな世間話してて、急いでいるように感じるけど』
「そうだった。ちょっと力を貸してほしいんだ」
『ええ、いいわよ』
チサは自分の死後、バッシを残していく事に不安を持っていた。
不老不死の魔法は自分には出来ない、共に歩く事が出来ないと。そして、バッシは自分がいないととても脆い人物であると。
四十五歳の時、神武寺のお家騒動を知り三代目の研究を見つけ出し学んだ。
彼女に才能は無い。三十年以上かけて杖に魔法式を書き込み自分の肉体が死んだら魂がこの杖に宿るように作ったのだ。
彼女の死後、錫杖に対し泣くばかりだったバッシに語りかけ真実を語った。
バッシはチサの魂が宿る錫杖に依存するようになった。
そんな日々が十年近くなったあたりでチサが叱り。バッシはチサの死を受け入れ、徐々にチサの錫杖に依存しなくなったのだった。
バッシはチサの錫杖を寝室の枕元に飾り必要最低限の挨拶だけをかわすだけとなった。
バッシがチサの錫杖を手に取りその魔力を感じる。
錫杖を持って扉をくぐり大陸に移り空を飛んでサキの元へ戻る。
『おお! 速い速い。懐かしいわね。昔一緒に旅行した事あったわね』
「そうだね。あの時と違って今は戦乱の世なんだけどね」
『そっか』
「うん」
夜空に浮かび上がる一人と一本は久しぶりの会話を楽しんでいた。
会話には今の恋人であるサキの事もチサに話す。
『ふーん、そっか、サキちゃんね。しっかりとバッシ君を支えてくれる人が出来たんだ』
「ごめんチサさん」
『いいの、だって、私は死んだの。死者がいつまでも生きているバッシ君を縛るのは良くないんだから』
大陸に移ってからの十五年の月日を高速で移動しながら話し合うのだった。
翌日の戦い。サキの言ったとおり部下に大量の槍を用意させ地面に突き刺しナオヤと対峙した。
「ふん、考えたな。だが」
互いの馬が離れた所でナオヤは地面に突き刺さっている槍を攻撃して折る。
「何本か折らしてもらう」
折れた槍を投げ捨てて新しい槍を地面から抜いたサキが舌打ちをする。
すでに五本の槍が折られて地面に立っている槍も数本折られている状態だ。
一騎討ちをしている二人の周りは盛り上がっているが、サキがジリ貧なのは変わらなかった。
「サキちゃん。これを使いなさい」
サキの横から何かが投げ込まれた。
右手でその何かを掴むとそれが錫杖だというのがわかった。
錫杖の先の金属がしゃりんと鳴った。
錫杖を握った瞬間。サキは見知らぬ空間にいた。真っ暗だが、心が暖かくなる感覚をサキは感じた。
サキは、わけがわからずキョロキョロと見回す。すると、いつの間にか目の前に小柄な少女がいた。
サキには誰かわからなかったが、敵意が無い事はわかった。
スッとサキの懐に入ってその少女はサキに抱きついた。
『私はチサっていうの。あなたがサキちゃんね』
チサに言われたサキは混乱したが、すぐに思考を戻す。チサとはバッシから聞いていた前の奥さんの名前であった。
「あなたがチサさん?」
『そう、バッシ君の前の奥さん。あなたが今の奥さんなんでしょ?』
「奥さんだなんて、一緒にいられるだけで幸せですから」
『あら、あの人ったら、まだ告白してなかったの! もう、後で叱っとかなきゃ』
チサのかわいらしい少女のような怒りにサキは苦笑いした。
「それでチサさん……その……」
サキが何か言おうとした所でまたチサがサキを抱きしめた。
『お願いしますね。あの人はとっても弱い人、だからあなたが支えてあげてね』
チサの感情を込めた願いにサキはチサを抱き返す。
「はい、私はまだまだですけど、精一杯支えます」
『サキちゃんがまだまだだったら私なんて、なんなのこの大きさ』
サキの言葉に満足したチサだったが、それはそれ、これはこれと自分の頭の上に乗るサキの国宝を掴むのだった。
サキはハッと目が覚める。
数分の暗い場所での出来事、だが、現実では一瞬も経っていなかった。
左手に持った槍を捨てて錫杖を両手で握る。
体中に力が漲る感覚に満たされる。
『ねえ、サキちゃん』
「はい」
『バッシくんの事どう想ってる?』
「愛してます」
『どれくらい?』
「全てを捨てても添い遂げたいほど」
『わかった。力を貸してあげる』
魔杖チサ。共鳴する想いは『バッシへの愛』
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