最強と呼ばれる傭兵
大陸において最強と呼ばれた傭兵がいた。
その傭兵は禍々しい黒い魔力を纏った槍を担ぎ戦場を巨馬で渡り歩く。
今日も戦いの匂いを感じ一人と一頭と一本は戦場をかけるのだった。
「ギャー! ナオヤだ! ナオヤが現れたぞぉ!」
「その名で私を呼ぶなぁ!」
『くひひ、ナオヤって男の名前だもんね。暴れなさい暴れなさい』
「うるちゃい」
逃げ惑う雑兵達を追いながら大女のナオヤが槍を振るう。
槍の刃に纏う魔力が雑兵たちの鎧や兜をゼリーのように抵抗無く切り裂く。
その武勇に味方は鼓舞され敵は慄く。
「待て、これ以上好き勝手にさせるわけぶぎゃらっぽ」
死を振りまいて突撃するナオヤを止めようと前に立った武人も決して弱くはなかった。
だが、ナオヤと魔槍の前では他の雑兵と同じ様に屠られる存在だった。
「ブシュ様が殺られた。かないっこねぇ」
「逃げろ。俺はまだ死にたくねぇ」
名の通った武人であった男が討たれた事で部隊は崩壊し、ナオヤの後ろからついて来た兵達に追われ、討たれていくのだった。
ターラーが隣国を滅ぼし併合した事で民衆も内乱時、敵だった貴族や、中立だった貴族もターラーの事を認め忠誠を誓った。
ターラーの国は近隣国の中では大国である。内乱によって疲弊したのを口実にまずは内政に力をいれたのだ。
乱世の時代ではあるが、ターラーの外交手腕で近隣の国はさらに外の国との戦いを余儀なくされ、ターラーの国は一時的な平和状態になった。
国力の回復という政策もモーリー、イーグの活躍で四年間で内乱前より豊かになった。
ターラーの国が豊かになればそれを奪おうとする国が出てくるのは自明の理である。
だが、ターラーは遠くの国との親交を結んで周りにある国が一斉に襲い掛かってくる事が無いように仕向けていた。
一つの国が隣国との戦いを終えた時、疲弊した自国と豊かに富むターラーの国を見て奪おうと考えたのだ。
戦いの後の戦い。民は疲れていたが、勝てば大きく豊かになる。そう言い聞かせてなんとか一万の軍勢を集めた。
それを迎撃し、さらに追撃を食らわす。その戦略でターラーは自らを総大将とし、サンド、サキ、シュゾー、フォック、ヤマゴエ、守将の宿将として名高いイワヲなどを引きつれ五万の軍勢を繰り出すのだった。
戦争は敵国の侵入から始まって平原での戦いとなった。
平原を埋め尽くす両軍は数の差も練度の差も圧倒的にターラーの方が上だった。
ターラー軍の圧倒的圧力に敵国の兵士達も気後れしていた。
「突撃! 突撃ぃぃぃ」
ターラーが様子見として敵の出方を見ていると相手方は考え無しの突撃をしてきた。
最初は防御を固め敵の突撃を受け止める案であったが、ターラー達の防御陣は簡単に突破された。
いや、先頭を走っていた大女の槍の一振りが大盾を真っ二つに切り裂き、その穴にその大女が突入したのだ。
「ナオヤだぁぁぁぁ」
「その名で呼ぶなぁぁぁ」
禍々しい槍を振り回してターラーの軍を屠るナオヤを仕留めようと囲むが彼女の武勇の前に成す術もない状態であった。
そしてその開いた穴を埋めようとしても後続の農兵が割り込んできたのである。
その農兵の強さは大した事がなかったが、次々に押し寄せる農兵に崩れないようにするのが必死だった。
「そこの大女、貴様ナオヤだな。貴様を討って手柄にさせて貰う」
「ふん! 貴様のような雑魚! 最強を目指す私には虫同然よ」
ナオヤと呼ばれ事で額に青筋を立て互いに馬を走らせ槍と剣を合わせる。
一合合わせただけで男の剣は半ばから折れて砕ける。
その隙を見逃さずナオヤは追撃を行いその男の喉に槍が突き刺さった。
男が馬から崩れ落ちた事で周りの兵士達に動揺が走った。
だが、その動揺が広がる前に一騎の女が駆け寄ってくる。
「次は私の番よ」
「ほう、同じ女か来い」
サキの槍とナオヤの槍がぶつかり合い。そのまま馬が駆けて離れた。
「壊れないとは……。良い武器なのか? いや、上手いんだな」
ナオヤは自分の一撃で倒れなかった人物が久しぶりに現れた事に笑みを浮かべ馬を反す。
「久々の餌だぜ、私の最強への道の糧となってくれよぉ」
「なにこいつ」
槍から禍々しい魔力がさらにあふれ出した事にサキは体中から冷や汗が出た。
「すげぇぞ、あのナオヤとサキ将軍の一騎討ちだ」
「馬も体もナオヤの方がでかいぞ。本当に女なのか?」
「胸の部分を見てみろ確かに女だ。サキ将軍の国宝には到底及ばないがな」
「あ、本当だ、しかし、サキ将軍の国宝は見事だな」
「うるせぇ」「うるさい」
ナオヤとサキはほぼ同時に周りに大声を上げて黙らせた。
「しっかし、本当にでっけえな。そんなんでよく槍が振るえるな」
「好きで大きくなったわけじゃ……。いや、好きでおっきくなったわね。あの人、大好きだから」
互いに間合いを少しづつ詰めながら雑談ともいえる言葉の応酬を始める。
だが、サキの惚気にナオヤはイラッとして馬を走らせる。
ナオヤが駆け寄って槍を突き出したのを完璧なタイミングで返す形で槍を突き出す。
ナオヤも挑発された事に気づき攻撃を止め槍を受け止める事に集中する。
ナオヤは、サキの槍を受け止めそれを払い、大振りでサキへと叩き付けた。
サキもそんな大振りに当たるわけでもなくかわして槍を突き出す。
二合、三合、四合と一騎討ちで槍が合わさっていく。
だが、サキがいくら上手くいなしても武器の違いは明らかだった。
サキの槍がみしみしと軋み最後には槍の刃が中心から真っ二つに折れてしまったのだ。
ナオヤはその隙を見逃さない。怒涛の突きをサキに食らわそうとするが、サキも体をずらし交わす。
だが、槍の一撃が馬に当たると馬が暴れ、そのまま血を噴出して倒れこんだのだ。
サキは間一髪馬から飛び降りて難を逃れたが、駆け寄ったナオヤの一撃がサキを襲う。
サキの体に槍が刺さったかと思った瞬間えもいわれぬ気持ち悪い音が響く。
「大丈夫サキちゃん?」
サキの胸の前で槍の先は止められ、バッシに素手で握られていた。
その異様な光景にナオヤは恐怖し、槍を引くが槍はビクともしなかった。
『この人魔術師だよ』
ナオヤとバッシにしか聞こえない声が響く。
「もう暗くなるから帰ってもらえないかな?」
バッシが、そう言うと苦虫を噛み潰したような顔でナオヤが頷いた。
バッシが、槍から手を放すと、ナオヤは、そのまま来た道を引き返していくのだった。
「バッシ様、あの、その」
「サキちゃん、そうだね。いったん陣営に帰ろう。詳しい話をそこでしよう」
日も落ちかけて一日の戦いが終わった事を互いの陣地の太鼓やドラが教えてくれた。
サキは戦いに負けた事への悔しさを感じて陣営に戻るのだった。
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