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~不老不死の業~  作者: 名はない
戦乱の二人
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軍師の本懐

 後継者争いに勝ち王となったターラーは自らの譜代を集め要職につけた。

ナダーを筆頭宰相とし、その下にモーリーを付ける。

モーリーがより経験を積んだらモーリーを宰相にさせる事をナダーに了承させた。

財務もイーグが司り、筆頭将軍をサンドとした。

全員が二十代になったばかりの者達。

新進気鋭の若者達だが、領地経営の基礎はすでに出来ている。

あとは、それの規模が大きくなりより多くの人を使う術を経験する為に老人達に補佐をさせる構想である。

仕事に慣れる事、国を落ち着かせる事、代替わりの不安定な時期を狙って他国が軍を進めたりしないようににらみを利かせたりもしなくてはならない。

そうやって一年があっという間に過ぎてしまう。

内乱の後、一年の立て直しの緊縮を行えば民達に鬱憤が貯まっていった。

その鬱憤を外に向けさせる為にターラーは出兵を決断する。

攻め入る大義名分は昨年の隣国の戦における兄二人の弔い合戦である。

モーリーが準備をして、イーグが資金を集める。

そしてターラーは、ケーマを呼んぶのだった。




 ターラーとケーマは盤面に向かい合って座っていた。


「もう一度確認いたします。今回の戦い、大義名分として兄の弔い合戦としていますが、滅ぼすまで戦うという事でいいんですか?」


「ああ、そのつもりだイーグのお陰で軍資金もたっぷりある」


「わかりました。敵国にはオーダ将軍という名将がいます。ですが、彼だけです。彼以外は凡夫かそれ以下しかいない。王など無能としか言い様がない男です」


ケーマの言葉にターラーは噴出した。


「手厳しい事だ。油断しないようにな」


「はい、もちろんでございます。では第一手」


ケーマが盤面に二つの駒を置いた。


「敵国のデュー砦とサッグ砦を同時期に攻撃いたします。そして、敵も奪い返しに来るでしょう。領地との関係でデュー砦にはオーダ将軍、サッグ砦にはボーン将軍が来るでしょう」


ケーマが一つの駒を手元に戻す。


「そしてサッグ砦を守らずに相手に奪還させます」


「待て、デュー砦はこちら側からの攻撃には鉄壁だが、奪い返しやすいように向こう側からの攻撃には無防備に近いと聞くぞ!」


「ええ、ですからあの二人を向かわせました。あの二人に無理なら誰にも無理でしょう」


ケーマとターラーはデュー砦のほうを向くのだった。


 サッグ砦


「命令だ。速やかに撤退する。みな足を止めるな。相手に気づかせるなよ」


「わかっておりますフォッグ将軍」


 デュー砦


「敵の陣営に爆発する魔力を散布した。火矢を放て」


一斉に放たれた火矢が地面に刺さると何も無い空間から爆発が起こる。

砦の城門に詰めていた兵士達が大やけどを負いながら倒れ伏す。


「ぐっ、くそ、なんだあの魔力は、一旦撤退する」


サンドの軍勢は敵の撤退に大きく沸いた。



「師匠、ホントにあの魔法を私に教えて良かったのでしょうか?」


「いいさ、あの魔法はもうすでに百五十年前に私の一族が通り過ぎた道さ」


「そうですか」


「だが、あれは一歩制御を間違えたら自分や周りの者を傷つける。お前なら制御できると思って教えたんだ。他の者に教えても構わないが、絶対に扱えると思った相手にしか使用を許可しては駄目だぞ」


「はい」


サンドの爆発魔法。サンドは後に三十人を越える弟子を育てるが、僅か三人にしか教えず使用を許可したのは一人だけだったという。

この魔法を参考にし、サンドの玄孫弟子が魔法と薬草学、化学を研究し、火薬を作り出すのだった。


 もう一枚、ケーマは駒を盤面に置く。


「次の一手、すでに忍ばせておいた間者に噂を流させました。それがじわじわと効いてくるでしょう」


 仕事が終わって酒を楽しんでいる男達が他愛も無い事を話している。


「なぁ、あの噂知ってるか?」


「どの噂だ? ここの看板娘のキューちゃんが俺に惚れているってやつか?」


「んなわけないだろ! がっはっはっは」


「どぅわっはっはっは。んで?」


「なんでもさ。オーダ将軍がデュー砦を落せない理由が、オーダ将軍が裏切って向こうの軍隊を引き入れる為に戦うふりをしているって話だぜ」


「ええ! まじか?」


「だっておかしいだろ昨年あんな風に圧勝したオーダ将軍があのデュー砦を落せないなんて。それにオーダ将軍が討ったのは今度王になった奴の政敵だった兄二人だったんだぜ、兄二人がいたらターラーの奴は絶対に王に成れなかったんだぜ。新しいターラー王も感謝しているはずだぜ」


「そう言われればそうだな」


「それにさ、もう一つの噂でさ。ボーン将軍様いるだろ?」


「うぐうぐうぐ。んで?」


「奪ったサッグ砦を見事な手腕で奪い返したのを聞いて新しいターラー王はボーン将軍が怖いらしいぜ」


「おお! 確かに。ははは新しい王は臆病だな。いや、ボーン将軍がすごいのか。おう、もっと呑むぞ。呑め呑め」


「ああ」


夜は深けていくのだった。


 王宮の間に文官の一人が王に近寄り書状を渡す。


「王よ。このような噂が街で広まっております」


王はその報告書を読んでわなわなと震えて破り捨てた。


「オーダ将軍を呼び寄せよ。かわりにボーン将軍を大将としてデュー砦を奪い返すのじゃ」


王の怒号に周りの者達はすぐさま動き出すのだった。


 互いに盤面を見つめながら世間話をしていると一人の文官がケーマに書類を渡した。

それを読んでケーマは声を殺した笑い声を上げる。


「ターラー様、やりました。オーダ将軍は将軍の任を解かれ、自宅謹慎を命じられました。後任はボーン将軍だそうです。さぁ、最後の仕上げです」


ケーマは王の駒で敵の王の駒を蹴り倒し盤面に叩き付けた。


「ターラー様自ら決着をつけるのです」


ケーマのその言葉にターラーも笑って立ち上がるのだった。

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