王へと
ターラーのもとへ一人の男が仕官してきた。
名をケーマといい、名の通った男でもあった。
いままで数多の国家に仕えてきてその手腕でいくつもの戦に勝ってきた。
兵を手足のように動かす手腕も見事なのだが、彼の最も恐ろしい所はその謀略の才能だった。
彼の手腕を間近で見た今までの主君達は、最初、彼を頼もしく思い。そして次にだんだんと恐怖していった。
このまま使い続ければいずれ自分の地位すら脅かすかも知れない。
今忠誠を誓っているが、その忠誠が無くなれば、そんな恐怖に狩られた者達がした行動は二つ。
軽いものは追放で済まし、重いのは刺客を送って殺そうとした。
ケーマもそのあたりは敏感で主家を捨て、逃げ出して今日まで命を繋いできたのである。
いくつもの家を渡り歩いていれば彼の有能さは知れ渡るが、誰もが彼を使いたがらなかった。
だが、ケーマと会ったターラーは、ケーマを一目で気に入り自らの軍師として傍におくのだった。
ターラーの父親が倒れてからずっと寝込んでいた。
体調が回復傾向になっていた所での二人の討ち死にに、気落ちしたのか一気に病が悪化した。
後継者争いで今の勢力は二つ。
一つは領主として見事な手腕を見せるターラー。ただ、母親の身分が低い事から王都に近い貴族達からの印象は良くない。
侵攻の失敗による敵の逆侵攻を辺境伯を纏め上げて国境を守り退かせた事で戦争の才も認められる事となりそれ以外の貴族達からの評判は高い。
もう一つの勢力はターラーの弟であるログの一派である。
王都周辺と王都にいる貴族の指示層を持ち、母親の家柄も申し分ない。
ただ、実力は未知数で、王都周辺の貴族でも中立を宣言する貴族も多かった。
隣国との戦いが終わってから半年の年月が経った時、ターラーの領地に一報が入る。
王の病死である。
家臣達を集めた死の間際の遺言では、後継者をターラーに指名した。
だが、死後葬儀が終わり。ターラーが一旦領地に帰った時。宰相のロンデが出した遺言状はログであり。ターラーには死を賜る事を宣言した。
死の間際の遺言を多くの貴族が聞いた為、多くの貴族がこの遺言状に反発しターラーの元へ走ったのである。
ケーマに唆されて偽の遺言状を掴まされたロンデとログの一派は兵を集めターラーとの一戦の準備を始める。
ターラーも負けじと兵を集める。この国は後継者争いの内戦が始まるのだった。
ターラーとログとの戦いは、大方の予想通り膠着状態になった。
数の上ではログが有利で質の部分ではターラーのほうが有利であった。
互いに決め手にかけて睨みあっている状態で日付だけが過ぎていく。
だが、互いに指を咥えて見ていただけではない。
「ターラー様、この紙に書かれた者達が私達に味方してくれるとの事です」
「おお、こんなに……。だが、どこも小さな貴族ばかり」
「ええ、彼らは戦力として期待していません。地図を、彼らの領地と街道の配置です」
ケーマはポンポンと大きな地図に駒を置いてゆく。
「ここが彼らの領地です。そして、彼らが裏切った事によってこの道とこの道が使えなくなりました」
ケーマは指揮棒を射しながらターラーに説明する。
「我々はターラー様の領地から食料を送っております。距離も近くモーリーくんとイーグくんのお陰で満足に食べる事が出来ます。だけど、彼らは王都や自らの領地から食料を送ってしかも距離も長い」
ケーマはバチンと指揮棒を畳むと不敵な笑みを浮かべる。
「そして、彼らの兵の多さは半農の農兵だけでなく。過剰徴兵された農民達。彼らの士気は簡単に崩れます」
そう言ってターラーとケーマの密談は終わった。
ケーマが物見台に近づいて上にいる兵士に話しかけた。
「君君」
「え? あ! ケーマ様」
「いや、目線は向こうに、一つ教えて欲しい。向こう側の陣営の食料を作る煙の数はどうなってる?」
「食料の煙ですか? いつもと変わらないかと」
「そうか、わかった。それをしっかりと見てくれ、煙の数だけじゃなく煙の量もしっかりな」
「は」
次の日
「どうですか?」
「昨日と変わりません」
次の日
「どうですか?」
「昨日と変わりません」
次の日
「どうですか?」
「昨日より数は変わりませんが煙の量が少ない気がします」
「そうですか」
この報告を聞いてケーマはターラーの元に走った。
「ターラー様、明後日に大攻勢をかけます」
「うお! いきなり! 明後日か?」
「はい、あれから十家こちらに寝返らせて小街道を封鎖し大街道しか使えなくさせました。それによって起きた燃料不足と食料不足で相手は食料を減らし始めました。明後日を越えれば、さすがに向こうも攻めて来ます。ですが、明後日なら」
「わかった。将軍を集めろ。先鋒は」
「それであればサキ将軍がいいかと思います」
「んふ、お前のサキちゃ……将軍好きも変わらないな。あれは先生の嫁さんだぞ」
「いえいえ、そういったものはございませんよ」
「ははは、そうして置こう。さぁ、将軍を集めろ」
ターラーは将軍や協力してくれる貴族達を集め作戦会議を始めた。
二日後
「先鋒の誉れを受けたのは我等だ。皆食事を取って気力体力共に充分だな」
「「「おー」」」
「では出陣」
サキの掛け声と共に先鋒隊が走り出しログ軍へと襲い掛かる。
「馬鹿な。おいロンデ! 敵は腰抜けばかりじゃなかったのか?」
「そのはずです。一部の部隊が突出しただけだと思います。腰抜けの中にも命知らずはいますから」
「とりあえず迎撃だ」
ログはケーマの流した噂でターラー軍はログ軍の数の多さに恐がって夜も眠れず震えているという噂を信じてしまった。
それを信じさせる為にケーマはログ側近の貴族を買収した。
ログは迎撃を行うが届く食料の少なさと恐れをなして攻撃してこないと油断して消費する食料の数を減らしたのもまずかった。
腹いっぱい食べた兵と食料を抑えられた兵の違いなど圧倒的だった。
そして、半農の農兵と騎士ならば問題なかったが、無理矢理徴兵された農民は戦える状態じゃなかった。
簡単に崩されてログとロンデは撤退する。だが、撤退する途中で恩賞に目がくらんだ付近の農民によって討たれるのだった。
王城に入り戴冠の儀式を行いターラーが王へとなるのだった。
跡継ぎ争いによって葬儀は行われたが、埋葬されてなかった父親の死体にはハエが集り蛆が沸いていたのだった。
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