誘い込み
バッシ達の部隊の役目は少数精鋭による敵将への奇襲ではなく陽動だった。
敵も自分達の将を討たれた事による混乱で指揮をする者がおず、ただ彼らを追うだけだった。
バッシと命知らず達は時に止まって戦い。時に一目散に逃げる。
誰もが疲れ知らずで、戦い続けられて、走り続けられたのはバッシの魔法のおかげだった。
「大将! 相変わらずその魔法で作った剣はすげぇな。敵さんの盾も鎧も一刀両断じゃねえか」
「魔力を高密度にすればこれくらいは簡単に出来るよ」
「おお、怖、魔法使いとは剣で戦いたくねえな」
まとまりの無い敵部隊との乱戦であってもバッシの部隊の者達には雑談をしながら戦う余裕があった。
本来戦争での魔法使いの役割とは、大魔法による攻城やそれをレジストする為の守城、敵の大部隊に対しての広範囲魔法による攻撃とそれに対するレジストであった。
それ故に魔法使いは近づかれると弱いというのが常識だった。
だが、それはあくまでも一般的な魔法使いというカテゴリである。
バッシや彼が教えた弟子達は広範囲魔法や攻城、守城魔法以外にもきちんと魔法による付与や自己強化の魔法を習得していた。
別の場所では、サンドの広範囲魔法が敵の魔法使いのレジストを打ち破って数十の兵を殺し、数百の兵士を負傷させ、サンド自ら先頭に立ち、自分の鎧と武器を強化して部下と共に突撃し勇名を馳せていた。
「さて、みんな、用意はいいかい?」
バッシが周りにいる者達に聞くと五十人ほどが目を光らせて頷いた。
十回を越える突撃と迎撃で十五人が死んで十人が重傷、二十七人が軽傷で重傷者軽傷者はターラーの陣に返していた。
敵も新たに指揮官を起てて壊走状態から回復させたが、理知的な判断が出来ず、半分に減ったバッシの部隊を盲目的に執拗に追っていた。
バッシ達が両側を崖に囲まれた渓谷に入り込んで一万の部隊がそれを追っている。
渓谷の先が崖崩れを起こしていてバッシ達は袋小路に追い詰められた。相手はそう思った。
バッシの部隊の者達は慌てたりしない。バッシに事前にこの場所の事を知らされていたからだ。
バッシの魔法で四十二人が空に浮かび上がって崖の上にまで逃げる。
何人かの魔法使いが指揮官の命令で追うことを命じられて浮かび上がるが、彼らには三人や四人浮かせるのが精一杯であった。
そして、崖の上には隠れていた三千のターラーの部隊が待ち構えていた。
無防備に浮かんでいた魔法使いと兵士は、上から撃ち下ろされる矢によって落とされるのだった。
敵の指揮官が罠だと気づいた時にはもう遅かった。
ターラーの軍勢が渓谷の入り口に岩雪崩を起こさせ入り口を封鎖した。
渓谷の上にいる兵士達が油や枯れ草を投げ入れ火を落す。
渓谷の下にいる敵兵士達にとっては地獄の光景が広がっていく。
全てが燃え、逃げる場所が無い。魔法使いが逃げようと空に上っても矢によって撃ち落とされる。
降伏を願おうにも上にいる者達に聞こえず、聞こえたとしても助ける事も出来ない状態であった。
バッシが少しだけ魔法をかけると何人かが浮かび上がる。
彼らを矢が襲うが、矢は、彼らに当たる直前に何かの障壁で矢が弾かれる。
十人ほどの少年が兵士の前に降りてきた。
「武器を捨てろ」
彼らに向かって兵士が叫ぶと少年達は慌てて武器を捨てて大人しくなった。
兵士達は少年達を拘束した。
「先生どうしたのですか?」
「いや、見た感じ十にも満たない少年で、戦っていたというより世話係として従軍していただけと見たんだ。あの幼さで殺すのはしのびないと思ったんだ」
「そうですね。わかりました。戦いが終わったら彼らは敵国に帰させましょう」
ターラーはバッシの行動に何も言わずにその場から離れ、バッシが救った少年達を捕虜として扱うように命じるのだった。
その日の戦いで敵国は一万三千の軍勢を失った。
敗走したのではなく完全に消滅してしまった。
ターラーは軍勢を進め敵本隊を挟撃する形で襲う。
敵もこれには戦い続ける事が不可能となり撤退する事となった。
この戦いの一番の武功はターラーとなり褒美として王族の一人として領地を得る事となるのだった。
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