ターラーの正体
一人の男がバッシの私塾を訪ねてきた。
「ターラー様? ターラー様はここですか?」
私塾の入り口で大声を出した後私塾の中へ入って来た。
敵対しようとして入ってくる者に対して反発する結界をかけてあるので、入ってくるのは、敵対の意志が無いか、バッシ以上の魔法使いかである。
「ああ、やはりここにおられましたか」
「げっ! ナダー」
男の顔を見た瞬間ターラーは引きつった顔をして後ずさりをする。
「どちら様でしょうか?」
バッシがナダーと呼ばれた男に挨拶をするとナダーも丁寧に挨拶を返した。
「ああ、貴方が賢者様でしたか」
ナダーの言葉にバッシは無表情で返す。
「いやはや、勉強を抜け出してどこを行っているかと思いきやこんな所で、ですが、さすがでございます。ターラー様の最近の数学や歴史の成績が上がっておられるのです。私が何度も教えても出来なかった事、見た所私塾でございますね。そこで教えられている賢者殿が優秀なのでしょう」
そう言ってナダーはバッシを褒め称える。
バッシの見た目は二十代前半でナダーの年齢は四十を超える。だが、この世界には刻死病といわれる奇病がある。
見た目だけで年齢を推し量るのは狭量の者がする行為である。
「もしかしてターラー君の保護者の方でしょうか?」
「保護者……。うーん。違います。私は教育係兼護衛みたいなものです。さ、帰りましょうターラー王子!」
ナダーの言葉に塾の空気が一瞬止まる。
バッシもこの国の事を調べてはいるが、ターラーという王子の事は知らなかった。
「これはこれは王子だったとは、大変失礼した」
バッシは最低限の礼をナダーに返した。これは知らなかったから許してよ。という礼儀作法だ。
ナダーも気にしないで欲しいという風に挨拶を返す。
「もう、なんで言っちゃうんだよナダーもう、ここに来れなくなるじゃないか!」
「王子、あなたは、いずれあなたは、この国に起つのですよ」
「それはないだろ。兄が二人もいるし、侯爵様の妹が産んだ弟もいる。俺はその下。だから、関係ない」
「そうは言っても、ご兄弟が王になれば重臣としてこの国を動かす立場になります」
ナダーがターラーを宥める様に言う。この会話もすでに一度や二度ではないのだろうとバッシは予測した。
「わかってる。うんわかってる」
ターラーが納得したような形でナダーの腕を取った
ナダーとターラーが話し合っている間、バッシは自室に戻り三冊の本を持って帰って来た。
「先生、お世話になりました」
バッシが戻ってくるのを確認するとターラーがバッシに向かって挨拶をする。そのターラーに対しバッシは無言で近づき三冊の本を手渡した。
「これは、君の家のだろう。選別だ持って行きなさい」
ターラーは手渡された本の表紙を見て驚いた顔をした。
「先生これって……」
「翻訳してくれって頼んだのは君だろう。さぁ、これで沢山勉強をするんだよ」
「はい、先生」
「賢者殿ありがとうございます」
そう言って二人は帰って行きターラーは二度とこの場所に現れる事は無かった。
七年の月日が流れた。
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