父親~外伝~
後方に上がった狼煙を見てそこにいる者達は大きく安堵した。
「王様は無事に逃げれたみたいだな」
その部隊の隊長は部下達の中心に座って大きく息を吐いた。
「ああ、しっかり逃げてくれないと俺達殿部隊が頑張ったかいがないぜ」
「そうだそうだ」
そこにいる者達は全員がボロボロで怪我をしていない者は一人もいなかった。
「だが、後は俺達が逃げるだけだぜ、相手も王様が逃げ切った事を知ったからあんまり強く攻めて来ないだろう」
「ああ」
「だな」
「よし、じゃあ、おいお前とお前とお前とお前等とお前等とお前だな」
隊長が周りにいた九人を指差した。
「俺達十人が最後に目の前のやつらに当たる。だから、おい副官! ふくかーん!」
「はいはい、ちゃんと名前で呼んで下さい」
副官と呼ばれた若者が隊長の前に歩み出た。
「おまえ、残りを連れて先に本国へ帰れ」
「え!」
「俺達は最後の奇襲を行って来る」
「ちょ、ちょっと待ってください。十人って目の前にはまだ二千人近い敵がいるんですよ!」
「あ!? そんなん、一人につき二百人殺しゃあいいだけじゃないか、簡単だろ野郎共」
「ああ」
「当然だ」
選ばれた九人は満面の笑みを浮かべて武器を掲げる。
「ちょっと待ってくださいよ。じゃ、じゃあ俺も奇襲に参加します。部隊の指揮はサース殿に任せて」
そう副官が言っている途中に隊長は副官をぶん殴った。
「馬鹿野郎、戦いは終わったんだ。これからは俺達大人の遊ぶ時間なんだよ。三十にもなってない餓鬼が参加していいわけないだろう」
ぶん殴られて伏せた副官が隊長を睨むが何も言わずに兵士を纏め上げるのだった。
深夜。
隊長と副官が焚き火の前で互いに見張りをしていた。
「隊長……」
「ははは、ああ、戦いが終わったらサキに会えるなぁ。久しぶりだし。また槍の稽古をしてやらなくては」
その声は必死に明るさを出している声だった。
副官は悲しい気持ちを押し殺して明るく振舞った。
「娘さんですか?」
「ああ、自慢の娘だ。将来は美人になるぞぉ、それに槍の才能だって俺よりもある」
いつもは鬼のように厳しい隊長の娘馬鹿な部分を見て、副官はなんだかうれしい気分になった。
翌日の奇襲で敵は混乱し足を止めた。だが、奇襲をした十人は全員討ち死にし、残った百人隊の生存者五十人は無事に本国に帰ることが出来るのだった。
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