第3話-チルドレン-
最近胃痛が激しいです。
監獄の鉄扉を抜けると、大人二人が横に並べる幅くらいしかない狭い通路で、壁に目を向けてみると、大きな石板で形成され床は監獄と違いつるつるした石のパネルが敷き詰められている。
そして、天井に取り付けられた裸電球が今にも消えそうなくらい弱々しく光っていて、薄暗く不気味である。
──何か出てきそうで怖い……
私は震える手で前を歩くノートンの服をそっと掴むと、彼は一瞬振り返り怯える私に優しく声をかけてくれた。
「大丈夫?」
「うん……ちょっと怖いだけ」
天井を再び見上げると、大小混じった剥き出しの配管がいくつもの張り巡らされ、その中央には四角く大きなダクトがあり一定の間隔で通気口がついていた。
──この長いダクトって何処までつながってるんだろう。
素足で歩いている事もありペタペタという足音が通路に響き、足の裏からひんやりとした床の冷たさが感じられ体が徐々に冷えていく。
兵士に気が付かれないよう、ノートンとの間隔を詰め囁くように小声で話しかけた。
「ノートンあの兵士の持ってる黒いの何だろう?」
「あぁ……銃のことだね。魔術発展国であるレーベン大国には無い物だから知らなくても無理はないよ」
「じゅう?」
「エスカルト軍が独自に開発した武器だよ。簡単に説明すると、小さい鉄の弾を高速で発射する武器で、訓練すれば誰でも扱える利点があるんだ」
ノートンと暫く話をしながら歩いていると、横幅が先程と比べ八倍くらい広い通路に出た。
天井には一定間隔に並ぶ通気口があり間には埋め込み型の照明が力強く光っている。
「どこ見ても白一色で眩しいくらいだね」
「確かに眩しいくらいだね。それになんか段々と天井が高くなってる気がするよ」
確かにノートンの言う通りと徐々に天井が高くなり、昭明の眩しさも和らいできた。
そして、大きく広い空間へと出ると、目の前に高さ十メートルくらいはあろうか、見るからに重く頑丈に出来た黒い巨大な扉が行く手を阻んでいた。
「いくら何でも扉でかすぎじゃない? こんな大きな扉どうやって開けるんだろうね」
「僕もそう思うよ……」
先頭に立つロイスが扉の右側にある装置に手をかざすと、扉の内部で鍵が外れる音がしてゆっくりと扉が後退していく。
ロイスは十二人の子供を全員部屋内に入れると、サージェの部屋の外に待機させ部屋を閉めさせた。
「暫くした後にリアベルという看守がここに来るが、粗相の無いようにな」
──私は誰かが連れ出してくれるなんて甘い希望は抱かないし、何が何でもここから出ないと……でも村のみんなやお父さんやお母さんも捕まってたらどうしよう。
そんな事を一人で考えているとノートンが隣に腰掛け提案を持ちかけてきた。
「いい機会だからみんなと話したら?」
「それもそうね……これから一緒に生活するし」
部屋の中央に子供たちを集め円を描くように並び、ガディナが取り仕切り一人ずつ簡単な自己紹介をしてもらい何となく名前と顔は把握できた。
ガディナの正面に位置する黒い瞳を持ち黒い前髪で片目を隠した少年が、突拍子もない質問を投げかけてきた。その顔は小悪魔の如く小生意気で意地悪そうな顔で、私は少し嫌な予感を感じる。
・名前︰ホセ
・能力︰物体を直進させ続ける能力
・魔術︰地属性初級魔術
「姉ちゃんは見た感じあまり役にたちそうにないけど何か戦う手段とかあるの?」
──初対面なのに随分と失礼な……
「私はね……魔術に関しては使い方が分からないから使えないけど、普通の人よりは身体能力や治癒能力が高いくらいかな」
・名前︰ガディナ
・能力︰空間圧縮
・魔術︰使用不可
「へぇ……空間圧縮能力って聞いたこと無いけど使えんの?」
──痛いとこついてくるわね……使いどころがあんまないし、普段絶対使わないから私もあんまり知らないとは言えない……。
「……危ないからあんまり使ってないけど、攻撃に使うとなるとたぶんかなり実用的だと思うよ」
──使ったことないけどね
ガディナは頬をひきつらせ作り笑いを浮かべるが、嘘混じりな言葉を言うのは少々心苦しい。
「ふんっ……俺の力のがすげえかっこいいし、魔術と組あわらせれば姉ちゃんより強いもんね」
ホセが不服そうな顔でそっぽを向くように顔を横へ向ける。
「そ……そうだね……きっとホセのが強いよ」
ガディナが頬をつらせて笑ってる様子を見て不快に思ったのか、ホセの右隣に位置する栗色のおかっぱ頭を少女が、唐突にホセのの頭をひっぱたいた。
「ふーん……痛ぇな何すんだよ!」
「見下したように言っちゃだめだよ。」
・名前︰マリ
・能力︰超酸
・魔術︰水属性初級魔術
ホセの頭をひっぱたいたマリはあどけない笑顔とぱっちりとした目が印象的で、柔らかそうな頬を綻ばせ私に笑ってみせる。
そんなマリにホセが殴りかかろうとした瞬間、ホセの左隣りにいた少年が機敏に反応し背後からヘッドロックをする形でホセを取り押さえた。
「だめだよ暴力は……」
「離せ! この……」
横で取り抑えられているホセを尻目に全く動揺する素振りも見せず、マリは会話を続けている。
「お姉ちゃん気にしないで、ホセはこんな子だけど根は良い子なの」
「二人は知り合いなの?」
「うん……近所というかホセは私と同じマイセル村出身で家が隣同時なの」
「知り合いがいると少しは心強いかもね。それで……マーテルそろそろホセを放しあげたら? ホセ泡吹いてるよ」
「ありゃりゃ。腕が濡れちゃう……」
・名前︰マーテル
・魔術︰風属性初級魔術
・能力︰音波増幅
──絞め過ぎたじゃなくて、腕が濡れる方を気にするのね……この子結構ズレてる。
マーテルは腕についた唾液を服で拭うと、甘く溶けそうな茶色い瞳で腕を再び凝視し始めた。そして顰めた顔はすぐに眠そうな表情へと変わり呆然と宙を眺めている。
淡い短髪の髪の毛は一本一本うねっていて、まるで眠たそうに寝ている様に見えた。
マリの右隣で青髪の少女が控えめに笑っている。快晴の空を思わせる青い髪はショートヘアで前髪が鼻のあたりまで延び綺麗に切りそろえられている。
綺麗な髪色と相反してあまり人と話すことに慣れてない様にも見える。
・名前︰デリータ
・魔術︰火属性初級魔術
・能力︰分子振動
ガディナ以外は初級程度の魔術を使うことができるが魔術を使うことはできない。
なぜなら人里離れた小さな村だったので学校と言うものがなく、教育課程である一般基礎魔術を全く勉強していないからだ。
レーベン王国は魔術の先進国と呼ばれているが魔術を使えない人々も多いのだ。
「そういえばノートンも魔術使えるの?」
隣にあぐらをかいて暇そうにしているノートンに聞いてみる。
私は他の子供と同じ初級魔術を使えると返答が返ってくると思っていた。しかし答えは違う。
「闇属性魔術で中級くらいかな」
・名前:ノートン
・魔術:中級闇属性魔術
・能力:精神干渉
ノートンは中級までの魔術を使えると言っているが、私には初級と中級の違いが全くわからない。
するとマリが喫驚した表情を浮かべ、ノートンの前までくると座り両手を取った。
「よく違いがわからないんだけど凄いのかな……」
「凄いよ! どうすれば中級魔術が使えるようになるの?」
マリは嬉しそうに質問攻めするが、逆にノートンは面倒くさそうな顔をしながらもマリに説明をしている。
──話を聞いててもちんぷんかんぷんだけど、なんとなく凄いのかな。
その時だ。
小さな虫の羽音くらい小さな叫び声が微かに聞こえた。ガディナは目をつぶると、その微かな音が何処から聞こえているか神経を集中させ探す。
マリと話していたノートンはガディナの様子に疑問を抱き感じ話しかけようとしたが、マリの質問攻めは海のように果てしなく続く。
音はどうやら天井の通気口からしているようだ。
ガディナは獣耳を使ってより詳細に音を分析をすると、何と音の正体は人間の悲痛な叫び声声だったのだ。
──叫び声? 外で一体なにが起こっているの? それに叫び声とは違う音も混じっている。
音を例えるなら唸るような息遣いの荒い獣の唸り声だ。それから発砲音が何度か聞こえた思ったら急に静かになり何も聞こえなくった。
──音からするとこの部屋からそう遠くないところなのかな……一体外に何か起きているんだろう。
「ガディナそんな険しい顔してどうしたの?」
ノートンはやっとマリの質問責めから介抱されガディナに話しことができたが、その顔は能力を使った時より疲れているように見えた。
「微かにだけど叫び声が通気口から聞こえてくるの」
「叫び声? 僕には聞こえないけど……そうかガディナは獣人だったっけ。ガディナの耳で微かにしか聞こえないとなるとまず常人には聞こえないね」
「人の叫び声だけじゃなく爆発音みたいな音とか何かの唸り声も混じってたの……ってどうしたのノートン?」
すると途端にノートンは俯き、顔から血の気が引いている。明らかにガディナの言葉を聞いて動揺している様子だった。
「いや……なんでもないよ」
ノートンが顔をあげると同時に、爆発音が鳴り部屋全体が大きく横に揺れ私は足をすくわれ転倒した。そして部屋の照明が落ちるとすぐに部屋の照明は赤く暗い明りと切り替わった。
少し緩やかにやってこうかな。
絶賛書き直し中です。次話からミニ劇場はじまるよー(゜∀゜)