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第2話-灰色の監獄-

  ガディナは背筋に寒気がして飛び起きるように目覚ます。


 辺りを見回すと、灰色のブロックでできた壁に鉄格子で塞がれた出入り口、部屋の中は薄暗く灰色だらけなせいか肌寒く感じた。

 着ている衣服に違和感を感じ目線を移すと、木の葉が枯れたような色の薄く丈の短いワンピースを着ている。



──いつの間に服を……やけに下がスースーすると思ったら下着をはいてない……しかもまで脱がされてる。

 



 鉄格子の先には通路があり、松明が等間隔で並んでいて弱々しい火が灯り不気味に辺りを照らしている。


 通路の両側には私がいる部屋と同じように鉄格子で塞がれた部屋がいくつもあり、ここが監獄だということが容易に理解できた。


 牢の中には年端も行かない子供入れられ、蹲る子や呆然と牢の外を見ている子が殆どである。



 ──さっきまでお母さんの膝で寝ていたと思ったのに……ここへ来る前の記憶が思い出せない。



 私は不安と恐怖で暫く状況が理解できず俯いていると、右側の壁からコツコツと小さいノックするような音が聞こる。

 不思議に思った私は音のした所へ近づいて確かめてみた。


 音は徐々にずれていきそれに合わせて私も音を追って移動していく。

 恐らく部屋の配置から考えてみると隣に誰か居て、きっとその相手は私を部屋の奥側に誘導したいのだろう。


 丁度部屋の角まで来ると今度は下へと移動し一番下まで来るとノック音は止まった。

 すると、部屋の角に丁度手が入る位の隙間があいているのを見つける。



──もしかして……ノックした相手はこの隙間に誘導したかったのかな?


 床に体を伏してその隙間を覗いてみると、向こう側に少年の姿が見えた。


 年齢は十二か十三歳くらいだろうか、少しおっとりとした顔つきに茶色い瞳こちらを覗き愛らしい表情を浮かべ頬んでいる。

 そして、あちこち飛び跳ねた癖っ毛が特徴的で幼さを引き立てている。



──かっ……かわいい!



 思わず少年の可愛らしさに見惚れていると、少年は薄い唇を開き話しかけてきた。



「はじめまして、僕はノートン。案外目覚めるのが早かったみたいだね。君の名前は?」


「私はガディナ……」 


「まだ困惑していると思うけど、ここがどこだか知りたい?」



──いきなり訳の分からない所で目が覚めたら誰でも知りたいに決まってる。というか何か知ってるのかな?



「うん……できたら教えて欲しい……かも」


「簡単に説明するとだね、ここはエスカルト帝国首都イスタンブルの中央にある軍の研究所だよ。」


「エスカルト軍の研究所!?」


 私はノートンの言葉に素っ頓狂な声を上げ聞き返した。


 それもその筈、エスカルト帝国とレーベン王国は停戦中だが、またいつ戦争が再開されるか分からない。それに敵陣の真っ只中で、立場上捕虜という扱いになるので下手な事を起こせば当然殺される。



「そうだよ。主に兵器を開発する為の施設なんだけど、僕らみたいな子供や村人などを密かにさらってはここで実験してるんだ」



──ノートンの話しが本当なら私がなんらかの方法で気づかれないように拉致された……ってあれ?

 


「何でそんなこと知ってるの?」



 私の言葉にノートンは陽気な笑顔を浮かべ隙間から手を差し伸べてきた。



「目を閉じて僕の手を握ぎって」


「手を握ればいいの?」


 いまいちノートンの意図は汲み取れないが、愛らしい容姿に惹かれ手を握ぎりたいというのがガディナの本音である。


 それに何か凄いことが起きるかもしれないという期待感も混ざり、私はそっと差し出された手を握った。



 すると手からほのかに体温の温もりを感じ、体が風に舞い上げられた花びらのように浮遊する感覚がする。

 そして一瞬手に高電圧の電気が流れるようなチクッとする痛みが走り、私は咄嗟に手を離してしまった。


 ノートンに身にも私と同じ現象が起きたのか、吃驚した表情を浮かべると手を離し引っ込めた。

 


「そんな……」



 ノートンは呟くように一言だけ言うと、深刻な表情を浮かべ押し黙ってしまう。


「ノートン大丈夫? どうかしたの?」


 私は心配になり言葉をかけるが、ハッとした顔でノートンはまた笑顔を作ると「何でもない」と答えた。


「ところでさっき私に何かしたの?」


「僕のもつ精神干渉能力を使うと記憶にアクセスできて過去の記憶を覗けるんだよ。」


 少しだけノートンは自身のもつ能力についてい話してくれた。

 精神干渉は大きく分けてニ種類の系統に別れる。

 ・記憶へのアクセス

 ・精神へのアクセス


 希少な能力だけにコントロールが難しく、かなりハイリスクで様々な制約があるとノートンは説明する。

 

「能力は自身の生命エネルギーを使うってことわ分かるけど、どれくらい……ノートン顔真っ青だけど大丈夫?」


「大丈夫。今の質問の答えはもうわかったね」


 ノートンは血の気が引き顔が青白くなっている。使用直後は変化が無かったように思えたがどうやら時間差で生命エネルギーが持っていかれるらしい。


 と、その時だ。


 監獄の鉄扉が鈍く気持ちの悪い音を上げ開かれる。金属の擦れる鈍い音に全身の毛が逆立つような感覚を覚える不快な音だ。


 コツコツと足音が聞えるとガディナは急いで部屋の中央へ行き、今起きたかのような顔で牢外を見ている。そして足音はガディナの牢までくると、止まり目の前に三十代後半くらいの男の立っていた。


 ワインレッド色の軍服を着た大柄な看守が部下らしき兵士二人を引き連れ、私のいる牢の前に現れた。

 


「お前が新入りか……なかなか可愛いじゃないか。実に俺好みだ」

 


 細く鋭い眼光は薄気味悪さを象徴し、運動不足なのか腹が前に突き出ており、典型的な肥満体型としか言えない。

 黒い髪はテカるほど整髪料を塗りたくられ、櫛で丁寧に後ろへ流す、いわゆるオールバックヘアである。



──気持ち悪い……もしこの世界にブサイク変態一武闘会がったら間違いなく上位にランクインするくらいの醜悪さね。


「おい、ロイスとサージェお前ら二人でガキ共を新しい部屋に移送しておけ。俺はちょっと呼び出しがあったから行ってくる」


 大柄な看守は心底面倒くささいと言う顔つきをすると、二人の兵士はつま先を揃え大柄な看守へ向けて敬礼をした。


「はっ! 自分達が責任を持って移送させていただきます。」


 鋭い顎に刈り揃えられた芝のような顎髭を蓄え、三十代半ばくらいのロイスがハキハキとした口調で言う。


 二人の兵士は大柄な看守が監獄から出て行くまで敬礼したまま微動だにしないが、私がもしロイスだったら無防備に歩く大柄な看守に後から飛び蹴りをかましているだろう。


 ガディナはそんな光景をただ呆然と眺めていたが、大柄な看守が監獄から出ていくと途端にヒソヒソと話始める。



「ブリトニーのやつまた俺らに仕事を押し付けてどっか行っちまったな」


 不満が爆発したのか、サージェはタレ目がちな目を釣りあげると右手を握りしめその手は震えている。


「気持ちは分かるけどあいつは俺達の上官だしさ、何かあったらきっと父親であるサイモン大佐がでてくるだろ。だから落ち着けって。」



 ──ブリトニーってあの大柄な看守だよね……見た目も変だけど名前もおかしい。



 私は堪らす視線を横に向けると思わず、口から笑いが一瞬だけ吹き出してしまったが、咄嗟に片手で口を抑えた。


──何とか耐えしのぐ事が出来た……おそらくバレてないはず……



 反らした視線を前向きに戻すと二人の兵士は私をガン見しており、ロイスと目が合うがすぐに二人の兵士は視線を戻し話を再開する。


 よく見るともう一人のサージェという男は痩せ型で、髪は短い黒髪だがところどころ白髪が混じっており、ストレスが溜まってこうなったんだろうなと勝手な考察をした。



「そういやさ、近々生物兵器が完成するって聞いたんだけど本当だと思うか?」


 ロイスがそう言うとサージェは既に知っていたようえな顔つきで話を補足する。


「いや正確にはH409実験の方はほぼ完成しているんだ。ただもう片方のK108実験は芳しくないみたいだよ」


「K108実験? 聞いたこと無いんだが詳しく教え……」


 サージェが狐につままれた顔つきでロイスに問い詰めようとしたが、彼はポケットで振動する『何か』を取り出し確認するとまたポケットにしまった。


「ロイス移送を開始するぞ」


「おっ……おう、そうだな」


 一人づつ牢の鍵を開けて出すと一列に整列させ、その光景はさながら囚人となった気分だ。


 しかし妙な違和感を感じる。


 何故なら牢から出され整列させられた子供達は無論丸腰だが、看守達も手に何か武器を持つ訳でもなく丸腰なのだ。 



──今行動を起こすのは得策じゃない。仮に二人の兵士を倒したところで脱出できるわけない。


 ガディナは牢から出され言われるがまま整列すると大きくため息を漏らす。



 私は列の中盤辺りに並んでおり、ノートンはすぐ目の前にいた。


 やはり隙間から見た時と全身を見るのではだいぶイメージが違う。

 髪の毛は藻が絡まるような癖っ毛で、私よりも身長が高い。私は143センチくらいだからたぶん150センチ付近ではないだろうか。


 他の子供達の表情や仕草をみると、年相応の反応を示しているのに対して、ノートンは異様な程に落ち着いていて、それが少し不気味であり不自然である。



 列の先頭には先導するロイスと列の末端にはサージェが付き、二人の兵士は腰に携えた革のホルスターから四角く黒く先端の細い物を抜いた。

 

 細い先端の先には穴が開いており、四角い物を握るように持っている。そして人差し指は小さなレバーらしき物に触れていた。

 


──もしかすると、レバーを引くと細い先端から何か出てくるのかな。弩に近い形状だけど小さすぎるし弦もついてない。



 ぼんやりとだが、兵士の持つ得体の知れない物は恐らく武器だと何故かわからないが確信を持てた。



──何でだろう私には分かる。今戦えば確実に全滅する。でも何で……初めて見る物なのに……まるで見たことがあるような……



 思い出そうとすればする程に、私の頭は岩に挟まれた様に締め付けられるような痛みに襲われる。




「今から移送を始める全員列を乱さないように付いてこい。」



 ロイスが力強い声で言うと、監獄の錆びた鉄扉を開放され目の前に細い通路が現れた。



──今は大人しく従うしかない……



 こうして私は訳がわからないまま監獄で目を覚まし、いきなり移送される事となったのだ。

 





一応R15指定にしてるけどグロくはないよね……

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