SS.夏宵
今年の冬はいつまでも寒いです(。´Д⊂)
夏が恋しいです。そんなわけで夏小説です。
入道雲の輪郭が金色に輝き、日が沈んだばかりの山の稜線は夕焼けに染まり、ゆっくりと群青色を深くしていく空で、一番星がささやかに存在を主張していた。
――パン! パパン! パン!
花火の炸裂音が宵空に連続して響き、祭りの開始を告げる。
ふうっと一つため息をつき、俺は額に浮かんだ汗を腕で拭った。なんとか間に合った。
木工用ボンドと工作用ナイフを手に立ち上がって大きく伸びをする俺の目の前には、今しがた完成したばかりの金魚すくいの看板。
叔父がテキ屋をやっている関係で、縁日があると手伝いに駆り出されるのはいつものことだ。
プラスチック製の正方形のプールにはすでに水が張られ、ちょうど叔父が酸素詰めされた袋から金魚を放流しているところだった。
ヒブナに和金、出目金に琉金、コメットにオランダシシガシラ、それと今回の目玉商品のピンポンパール。
500円玉サイズの当歳の金魚たちが水の中を心地よさそうに泳ぎ回る。
金魚すくいの準備をしながら周りを見れば、他の屋台も一斉にお好み焼きやたこ焼きを焼き始め、旨そうな煙と匂いが辺りに立ち込め始めていた。
その匂いに釣られるように祭り客が屋台に群がり始める。
この、祭りが始まる瞬間が一番好きだ。この一種現実離れした楽しい時間を演出することこそがテキ屋にとって最も充実したひと時かもしれない。
ぽんぽんと肩を叩かれて振り向くと、長い髪を綺麗に結い上げ、桔梗柄の浴衣に下駄履きの見馴れぬ姿のクラスメイトの少女。
不覚にも胸が高鳴る。
「よっ。やってるね」
「お、おう。一人か?」
「一緒に来たい相手がいないわけじゃないけど、そいつは今日は金魚を売るのに忙しいみたい」
そう言いながら艶っぽく笑う。
「浴衣、初お披露目なんだけど、似合う?」
Fin.