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覇王の話  作者: そうけん
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第一話 プロローグ

 昔、魔王と呼ばれる魔族の(おさ)がいた。彼は大変優秀で、魔族たちを引き連れて人間の住む土地を荒らしまわった。人間たちは抗う事が出来ずにただ奪われ、殺され、蹂躙されるしかなかった。

 しかし、そんな地獄に1人の若者が現れる。彼は勇者と呼ばれ、人々の先頭に立ち、魔族を殺し、魔族を潰し、魔族を蹴散らした。勇者の活躍により、魔王は討たれた。人間たちの勝利である。

 人間は、打ち負かした魔族を家畜以下に扱い、糞の様な食事、過酷な労働、耐え難い陵辱を与えた。当然の結果である。だが、勇者は同じ人間たちの行いに嘆き悲しみ、意義を唱えた。すぐに人間たちは勇者を捕らえた。

「勇者は、頭がおかしくなった」

その言葉に、万を軽く越す人間たちは頷いた。

「極刑では駄目だ。地獄の様な攻め苦を!永遠に続く苦痛を!」

皆は歓声を上げ、勇者の公開拷問を嬉々として眺めた。勇者の悲鳴はワインに良く合い、皆の大切な娯楽となった。

 だが、そんな勇者に運命の出会いが訪れる。右腕は無くなり、満足に立ち上がることも出来ず、体中に傷が刻まれ、微かに開く左目だけが頼みの綱の勇者。その日も、冷たい独房で明日の拷問に脅える姿は、魔王を討ち取った輝かしい姿の一縷(いちる)もなかった。

「フ、無様だな勇者よ」

そんな声を掛けられた。小汚い布を纏い、首輪をした魔族の奴隷が勇者への食事を差し出しながら、そう言った。

「わ、私は・・・、アナタを・・・何処かで・・・」

勇者は、その魔族を見たことがあった。

「すべて、お前のせいだ」

「私の・・・?」

勇者は思い出した。彼女は魔王のすぐ傍にいた少女だと。あの時は、幼かったが今は見違えるほど大きく成長していた。

「アナタは・・・魔王の・・・?」

「そうだ!お前が殺した魔王の娘だ!」

奴隷の魔族は、這いずり近寄った勇者を牢屋越しに掴むと、怒声を浴びせた。

「お前のせいで、私は!・・・知っているか、お前の食っているこの貧相な食事より、私たち魔族が食っている物の方が酷いのだぞ?私がどれ程の屈辱を今まで受けてきたかっ!」

「すまない・・・」

「・・・っ、クソ!これがあの勇者なのか?父上を殺した勇者なのか・・・」

翌日、公開拷問のために勇者を連れ出しにきた兵士は、ものけの空となった牢屋を見て腰を抜かした。もちろん、勇者を取り逃がしたその兵士が、皆の余興のために死んだのは言うまでもない。

 数年後、ある秘境の田舎村に人間と魔族の珍しい夫婦が仲むつまじく暮らしていた。人間の男は片腕がなく目も不自由だが、それを感じさせない力強さで畑を耕した。魔族の女は優れた知識で村人に薬を作り、まるで魔法の様な事しては村人たちの病を治した。そんな2人の間には1人の息子がいた。


「その子供が、後の『建国王』と言われる男だった・・・です」

「へぇー」

豪華なドレスを身に纏った少女『イザギリ』はそう言って本を閉じた。

「今日はここまでです。私はこの後、学習院に言って勉強しなければなりません」

「ええ!ここで?これからでしょ!?」

「エリカ、こう見えても私は忙しいんですよ?」

「やだやだ!」

立ち上がるイザギリに、小洒落たドレスを着た小さなエリカは抱きついて暴れた。

「続きが読みたいなら、自分で読んでください」

「文字読めないんだよ!」

「な、王女として恥ずかしくないんですかエリカは?」

「別に文字が読めなくても、誰かが読んでくれるもん!」

イザギリとエリカがじゃれ合っていると、大きなドアをノックする音がした。

「どうぞ」

「失礼します姫様。そろそろエリカ様とのお遊びの時間は終わりにして、学習院へ」

「わ、わかってます」

「やだやだやだ!」

侍女は豪勢な部屋に入ると、イザギリに抱きついて暴れているエリカの姿が目に入った。侍女は素早くエリカを抱きかかえる。

「エリカ様、はしたないですよ?」

「そうですエリカ、あなたも『建国王』の血を引く者なら、もう少しおしとやかにするのです」

「ええ!さっきの『建国王』って、あたしと何か関係あるの!?」

「あるも何も、私たちの祖先です。エリカがこんなにお馬鹿だとは思いませんでした」

「姫様、私がエリカ様のお相手をしていますので。お急ぎください、学習院の先生がお待ちになっておりますので」

「ああ、そうでした。エリカ、夜にでも続きを読んであげますから、大人しく待っててください」

「ええ~」

イザギリは侍女にエリカを任せると学習院へと足早に向かった。


 イザギリが学習院に行くと、貴族の学友たちが暇そうに机に突っ伏しており、教師は天井を暇そうに見つめていた。

「申し訳ありません!皆さん、遅れてしまって」

イザギリは教室へ入ると、頭を下げながら謝罪した。学友も教師もハッとしてイザギリを見つめた。

「あ、いやいや全然待っておりませんよ!」

教師は両腕を物凄く早く左右に動かして言った。

「そうですよ姫様!」

「むしろ我々も今着た所ですから!」

「そうですそうです!」

学友たちも物凄く頭を立てに振りながら言った。

「そ、そうですか・・・」

イザギリは何とも居心地の悪い顔をしながらそう言って、空いている席に向かって歩いた。と、貴族の男子が、隣の女子を蹴飛ばして席を空けた。

「ささ、姫様、こちらの席にお座りください」

蹴飛ばされた女子は、その男子を投げ飛ばす。

「姫様、いまこちらの席が空きました。どうぞぉ~」

女子は男子がいた席をイザギリに勧めた。それを見て、他の学友たちも隣人を倒そうと動き出す。

「あ、いえ、後ろの空いている席に座りますので・・・」

「なんと!」

「なぜに!」

学友たちは驚いて一斉に立ち上がった。

「え・・・。いや、元々空いている席に私が座るのが、争い事が起こらないと思うので」

「なんという!」

「予め、空いた席のとなりに座るのが正解だったか!」

イザギリが苦笑いしながら、一番後ろの席に座る。それを見て教師が授業を始めた。


 七王国。元は1つの王国であった。『建国王』と言われる人が作った国。その国を息子である『内政王』と言われる王が七つに分けた。内政王の子供たちが七つの国の王となり、その後、七つの王族が脈々と後を継いでいった。そして今日の七王国へと発展して行った。

 西の『ニッスウィ』は政治と娯楽の中心地。

 北の『キーター』は工業と技術の最新地。

 東の『ヒンガシ』は軍事に明るく国防の要。

 南の『ミ・ナミィ』は宗教と魔術に重きを置く神霊地。

 この4国が七王国でも上位国として大きな権力を持っていた。

 第一王国ニッスウィ。西にある七王国の中枢にして、政を司るその国には偉大なる西王、そして息子で長兄イザツチと、その下に娘のイザギリがいた。兄のイザツチは眉目秀麗にして文武両刀であり、ニッスウィ国民たちからも大変愛されたいた。西王の名を継ぐのは兄のイザツチであると誰もが思っていた。もちろん妹のイザギリも優秀な兄を慕っており、兄が西王となると考えていた。

 だが、ある事件が起こる。

 『建国物語』と言われる七王国の者なら誰もが知っている物語。

 建国王の痛快な活躍を簡略化した話は、よく親が子供の寝る前に読み聞かせた。

 大人たちは親である勇者と魔王の娘のラブロマンスに胸を痛めた。

 学者たちは内政王の繊細な行政を、学問として研究していた。

 その総ての国民に愛される建国物語には、1つの共通点があった。魔王の娘には背中に、建国王には左胸に、内政王には右肩に。光り輝く紋章があったのだ。

 西王が病に倒れた時、妹イザギリの左手の甲に光り輝く紋章が浮かび上がる。それは忌まわしい魔王の証であり、建国王の力の証であり、内政王の知の証であり、絶対的な王の証であった。

 西王の後を継ぐのは妹のイザギリ。ニッスウィ国民はおろか、他の六王国もイザギリの西王継承に喜びの声を上げた。そして、兄であるイザツチの心が壊れた瞬間だった。

 イザツチは、ケチの付け様の無い優秀な人間だった。弱きを助け、貴族にも民にも平等に接し、王族及び貴族主導の政治に優秀で身分の低い民間人も関わらせるべきだと訴えていた。そして、自分が西王となった暁には、王の上に法を作ると妹のイザギリに語っていた。

『建国王、内政王に次ぐ、新たなる名王の誕生』

そうイザツチは言われていた。現西王も妹イザギリに紋章が出る前は、イザツチこそ王に相応しいと考えていた。だが、紋章は絶対であった。

「なぜ紋章に拘る!あんなもの・・・あんなものただの飾りではないか!優秀な者が上に立つべきだ!古き風習なんぞに拘るなっ!」

革新的な兄イザツチが、つい言ってしまった言葉。彼の地位が落ちるには十分な失言であった。イザツチは精神の病として軟禁される。隔離された空間でイザツチの精神は(いびつ)に曲がっていく。


 数年後。国民たちが、内政王以来の紋章を受け継ぐ者として、イザギリに羨望の眼差しを送っている中、イザギリの死が七王国の総ての民に知らせられた。まだ12歳という若さだった。もう立ち上がる事もできない西王は、娘の死に絶望しながら息を引き取った。

 誰が西王となるのか。ニッスウィ国民たちが慌てふためく中、1人の男が現れた。それは、軟禁状態だったはずの兄イザツチであった。


 第五王国『イナァカ』。獣人たちの楽園であり、自然豊かで農業が盛んなその国に、後に覇王と恐れられる人間の少年がいた。彼の名前は幸太郎。

 幸太郎は森の中で新聞を読んでいた。第一王国の西王が、王の上に法を作ると宣言した記事を欠伸をしながら読んでいた。

「憲法ねぇ。せっかく何をやっても許される王様なのに、もったいねぇ~」

幸太郎は自分が王様だったら何をするか妄想した。美女を侍らせ、美味い物を食べながら、酒を死ぬほど飲む生活。

「たまんねぇ~。よし、王様になろう!」

幸太郎が森の中で、そんなくだらない事を考えていると、どこからとも無く大きな熊が歩いてきた。服を着た二足歩行の熊は、辺りを見渡しながら森の開けた場所へと歩いて行った。そこは木が無く、太陽の光が花や草に降り注ぐ広場だった。熊は辺りをキョロキョロと見渡し、誰もいない事を確認すると服を脱ぎ、気持ちよさそうに寝転がった。

「やっぱ、全裸の日光浴は最高だベヤ~」

そんな光景を幸太郎は隠れて見ていた。

「ぷっ、(ごん)()のおっさん、また裸で寝てやがる!」

幸太郎は、熊の権太が寝るのを隠れて待った。権太がイビキをかき始めると、幸太郎はゆっくりと近寄り、権太の服を持ち去った。

「はっはっは!権太のおっさん、起きたらめっちゃ焦るだろうな。全裸で村に帰らなきゃならねからな。村で出迎えて、からかってやらないとな!」


 幸太郎は大きな服を抱えながら森の中を走った。幸太郎が権太の服を捨てようと森の外れにある湖まで行くと、誰かが倒れていた。

「何だアイツ?」

幸太郎はそう言いながら、権太の服を泉に投げ捨てた。幸太郎は倒れている誰かに近寄る。灰色の外套(がいとう)を着て、顔をフードで覆い、うつ伏せに倒れていた。

「もしもーし?」

幸太郎が倒れている人を軽く蹴り、そう言ったが反応はなかった。

「死んでんのか?どれどれ」

幸太郎がフードを取り、仰向けにする。倒れていたのは少女であった。幸太郎は金目の物は無いか少女の体を探る。少女は何も持っておらず、左手の手首から先が無く、包帯が巻いてあった。あと、息もまだあった。

「なんも持ってねぇ・・・しかもまだ生きてるのか。どうすっかなぁ、死んでたら湖にでも投げ捨てたんだけどな」

幸太郎は腕を組んで考え込む。そして妙案を閃く。

「よし!俺様の奴隷にしよう!」

幸太郎は満面の笑みでそう言って、少女を担ぐと我が家へと急いだ。


 人一人を担ぎ、なんとか村の外れにある自宅に幸太郎は辿り着いた。辺りは日が沈みかけ、朱色の空にカラスが飛んでいた。

「や、やっと、辿り着いた!クソ、重すぎるぞコイツ!死ぬほどコキ使ってやるんだからな!」

幸太郎が自宅のドアを開ける。と、綺麗な直線を描く正拳突きが飛んできた。

「おぐっ!?」

幸太郎は背負っていた少女と共に地面に倒れた。

「こーたろう~、お帰りぃ・・・」

そう言いながら体格の良い老人が、目をギラ付かせながら出迎えてくれた。

「ジジイ!なにしやがる!」

「お前、また権太さんの服を盗んだだろ?泣いてたんだぞ!全裸で!」

「あ、忘れてた。クソっ、見たかった!」

「このたわけがっ!」

「ぐぇっ!」

ジジイは幸太郎の脳天に拳を振り下ろした。と、ジジイは少女に気付く。

「おい、幸太郎。その子はなんじゃ?」

「おう、拾った。コイツ、今日から奴隷にするから」

ジジイの拳が幸太郎の顔面に食い込んだ。

「何を言っとるんじゃこのガキは!まったく、どうしてこんなクソガキに育ってしまったのやら・・・」

「そりゃ、ジジイの教育のせいだろ?」

「エイシャァっ!はぁ~・・・学校をサボって悪さばっかり、家の手伝いもしないで森で遊び呆けて・・・。昔はジージ、ジージと可愛かったのに・・・」

ジジイは幸太郎の可愛かった時の事を思い出す。

「昔は体が弱くて、ただ(たくま)しく育って欲しいと思ったもんじゃが。こんな風になってしまうとは・・・」

ジジイは幸太郎にヘッドロックを掛けながらそう呟いた。

「あがががっ!頭ががががっ!」

ジジイは幸太郎がぐったりしたのを確認すると、手を離し少女を抱きかかえると家に入っていった。

「幸太郎、早く家に入れ。晩飯の用意を手伝ってもらうぞ。それとこの子は誰だ?村じゃ見かけん顔じゃが」

「知らん、落ちてた」

「落ちてたって。まあいい、ベッドにでも寝かせておくか。目が覚めたら話を聞けばいいし」


 三日後、少女が目覚めるといきなり頭を叩かれた。

「うっ」

「やっと起きたか!遅いぞ奴隷のクセに!」

「・・・?」

少女が朦朧とする意識の中、少年が顔を覗き込んでいるのが見えた。

「アナタは、誰?」

「幸太郎様だ!」

少女はきょとんとした表情をする。

「・・・誰ですか?」

「ん~、なんだコイツは!?白痴か?幸太郎様だと言ってるだろうが!」

「あ、はい。えっと、ココは何処なんでしょうか・・・」

「俺様の城だ!」

「城?」

少女は周りを見渡した。木造の広い部屋、床に散乱する玩具に服にゴミ、埃を被った勉強机。

「・・・城っ!?」

「もとい、俺様の部屋だ。いいか、奴隷の分際で俺様のベッドを3日も占領しやがってからに!その間、俺様は1階のソファで寝てたんだぞ?わかってんのか!」

「あ、いえ、それは申し訳ありませんでした」

少女はそう言って頭を下げた。

「当然の謝罪だな。だが、奴隷如きが頭を下げただけで許されるとでも思ったのか!バカめ!」

幸太郎がそう言って邪悪な笑みを浮かべた瞬間、脳天にジジイの拳が落ちた。

「朝ごはん出来たぞ。それとお嬢さん、やっと目が覚めたか、歩けるかね?」

「が、頑張れば・・・歩けます」

ジジイは幸太郎の頭を鷲掴みにすると、少女に手を貸しながら1階へと労わりながら連れて行った。

「さあさあ、遠慮しないで食いなさい。とれたての牛乳もあるぞ」

少女は1階の居間にあるテーブルに案内されると、出来たての料理の前に座らされた。肉料理や野菜のサラダが大盛りで、果実も沢山並んでおり、熱々のスープが湯気を立てていた。

「すごい量ですね・・・」

「あ?こんなの普通だろ」

幸太郎が頭をさすりながら席に着く。

「ん~、お嬢さんここら辺の人じゃないのかい?」

「え・・・まあ」

「そんなのどうでも良いっての。いただきまーす」

幸太郎は両手を合わせてそう言うと食べ始めた。

「いただきます」

ジジイも両手を合わせてそう言って食べ始めた。

「えっと、食膳のお祈りとかはしないんですか?」

「祈り?誰に?」

「神にです」

「なんで?」

「恵みだからです」

「アホくさ!」

「なっ!」

少女が、食事にがっつく幸太郎を獣を見るような目で見つめる。そんな様子をジジイは(いぶか)しげに見ていた。少女は1人で祈りを片手で捧げ、食事を始めた。

「おいしい・・・!?」

「そうじゃろう?全部新鮮な食材で、その味を最大限生かして作ってるからな。お前さんみたいな他国の上級国民じゃあ、味わえん代物じゃ」

少女はジジイの言葉に、食事をする手が止まる。

「ジジイ何言ってんだ?この小汚い女が上級国民?他国の?」

「そうじゃろ、お嬢さん」

「そ、それは・・・」

「あー言いたくないのなら黙っていなさい、わしはお嬢さんが誰だろうと、どうでも良いからの。だが、これから身を隠すなら、気を付ける事じゃな。ちょっとした言動や行動で、正体が出てしまう。ろくでもない事に関わっている様じゃが、よく生きてこれたもんじゃ」

少女は驚いて立ち上がった。

「あ、アナタはどこまで知っているんですか!?]

「何も知らんよ。ただ、左手のない他国の上流国民の少女が行き倒れていた。それだけでお嬢さんがろくでもない人間だと察しが付く」

「そう・・・ですか」

少女は安心したように座った。

「なんだぁ?さっきから驚いたり安心したり、変な奴。お前なんで左手ないんだよ?」

「それは・・・」

「幸太郎!」

「なんだジジイ?」

「お前って、ほんとデリカシーがないのう。聞くか普通」

「いや、気になるだろ」

「お嬢さん、このバカの事は気にせんでいいから」

「あ、はい」

3人は、その後たわいない話をしながら食事を終えた。


 数年後、今日も元気に幸太郎が学校をサボっていた。少女は学校の学友と別れの挨拶をすると自宅へ急いで帰った。自宅の前には大きな熊が暇そうに座っていた。

「あ、権太さん。どうしたんですか?」

「ああ、はじめちゃん。ジジイ、じゃなくて幸之助さんの新村長のお祝いにハチミツを持ってきたんだけど誰もいなくてね。ハチミツをつまみにお酒を飲もうと思ってたから、幸之助さんが帰ってくるまで待ってたんだよ」

熊の権太はそう言って、大きな壷を見せた。

「それはおじいさんも喜ぶと思います。どうぞ、入って待っててください」

「はじめちゃんは、幸太郎のクソガキと違って、良く出来た子だベヤー。さすが、村一番の秀才だぁ、やさしいベヤっ!」

「そんな事ないですよ。それと幸太郎と比較するのやめてくれますか?マジむかつくんで」

「あーごめんごめん」

少女はじめは、熊を招きいれるとお茶を出してもてなした。熊の権太は、お茶にハチミツを入れて飲み始めた。

「おいしいんですか、それ?」

「ハチミツは何にでも合うんだな。甘くてうまいっしょ~」

「そうですか・・・」

「そういえば、幸太郎はどこにいんだ?」

「さあ?今日も学校をサボってましたから」

「あんだけサボってて、第七王国『中央自治区』の学園都市に行くんだから、世も末だベヤー」

「ホントデスヨネー」

はじめは、幸太郎にテストの度に答案を見せていた事や、入試試験のカンニングを手伝った事を思い出しながら言った。

「幸太郎はともかく、はじめちゃんも学園都市に行っちゃうのは寂しいなぁ。オラ、はじめちゃんはイナァカの農業学校に行くと思ってたベヤ」

「本当はそうしたかったんですが、あの問題児が学園都市に1人で行かせるわけにはいけませんから。それに私と幸太郎が行く学校には農業学科もあります。卒業したら私は戻って、おじいさんの農業を継ぎますから安心してください」

「幸之助さんは、良い娘さんを持って羨ましいベヤ。オラも嫁さんもらって、ハチミツ農場の跡取り残さねば!」

「権太さんは見かけによらず良い人なので、全裸で日光浴する癖を直せば結婚出来ると思いますよ」

「うっ、それはオラの趣味だからなぁ。趣味を理解してくれる人を探すベヤー」

熊の権太とはじめがお茶をしていると、ドアを騒がしく開けて幸太郎が入ってきた。

「幸太郎、ただいま帰還しました!」

「おかえりー」

「おっす幸太郎、おじゃましてるぞぉー」

「な、熊が俺様の家でお茶を飲んでるぞ!害獣め、駆除してやる!」

幸太郎は熊の権太に飛び掛るが、権太は気にせずお茶をすすった。

「幸太郎、お客様に失礼です」

「いいんだよはじめちゃん。このクソガキとも、しばらくお別れだと思うとなぁ。色々あったベヤ、服を盗まれたり、ハチミツを盗まれたり、湖に落とされたり、落とし穴に落とされたり・・・。ああ、なんだか腹が立ってきたベヤ!幸太郎、一発殴らせろ」

「バカめ!殴られたら俺が死んでしまうだろがっ!それにベアベアうるさいんだよ、お前は熊か!」

「ベアベア言ってねぇベヤ!熊だベヤ!」

幸太郎と権太はじゃれ合うの見ながら、はじめはお茶を飲んでジジイの帰りを待った。

 一時間もすると、疲れた顔をしたジジイが帰ってきた。

「あー、疲れたわい。晩飯晩飯ぃ」

「おじいさん、おかえりなさい」

「ジジイ遅いぞ!さっさと晩飯を作れ」

「幸之助さんおじゃましてまぁす」

「お、権太。つーか、わしが晩御飯作るの?めっちゃ疲れてるんじゃけど・・・」

「私が作ってもよかったんですが、学園都市に行く前におじいさんの手料理が食べたいと思って。駄目ですか?お手伝いしますので」

「はじめ・・・おぬしはええ子じゃのう。わかった、腕によりをかけて作ってやるわい」

「俺様は手伝わんぞ!」

幸太郎は偉そうに言った。

「はいはい。むしろ邪魔じゃ、権太と仲良く遊んでろ」

「ええ!?幸太郎の相手するぐらいなら、オラも手伝うっしょ~」

「いや、権太はとりあえずハチミツぶっ掛けるから駄目じゃ」

幸太郎と権太は大人しく晩御飯が出来るのを遊んで待った。しばらくすると、大量の料理がテーブルに溢れんばかりに並べられた。

「いただきまーす」

全員が大きな声でそう言って、料理にかぶり付いていった。

「ハチミツかけるとうまいぞぉー」

「おい熊!から揚げにハチミツをかけるな!」

「どれどれ。うん、から揚げが台無しですね」

「そんな事ないベヤ~」

「熊はコレだから駄目なんだよ!」

「熊差別だベヤ!差別反対!」

「安心しろ、俺様は自分以外の全てを差別している!平等になっ!」

「最低ですね」

「最低だベヤ」

「最低じゃのう」

他愛無い話をしながら4人は晩飯を食べ終わった。

 翌日、幸太郎とはじめは学園都市へと旅立った。村に住む子供たちのほとんどは、地元の農業学校へと進み、ごく一部はイナァカ国立の進学校へと進んだ。中央自治区の学園都市の学校へと進んだのは、幸太郎とはじめの2人だけだった。


 第七王国『中央自治区』。東西南北の上位四王国の中心に位置する小さな国。そこは七王国中の優秀な学徒たちが集まる巨大な学園都市であった。小中高大学校、研究施設、専門教育機関が所狭しと点在する、国としては小さく、都市としては巨大な都市国家。在住する者の3分の2が未成年である特殊な国である。

「デケーっ!けどちっせぇ!」

幸太郎は馬車に乗りながら、地平線まで続く街の大きさに驚き、この街だけで国である、その小ささにさらに驚いた。

「まさに都市国家(メトロポリス)ですね。国家産業は学問のみで、食料も生活必需品も周辺の六王国に頼っている、力を持たない賢き国」

はしゃぐ幸太郎を尻目に、はじめは本を眺めながらそう言った。

「国の未来を担う人材の宝庫!まさに俺様向けの国ではないか!はっはっは!」

「どうだか。幸太郎はなぜ学園都市の学校に行きたかったのですか?珍しく土下座したから、色々と協力しましたけど」

幸太郎ははじめの読む本を取り上げて言った。

「世界征服の第一歩だ!」

「はぁ?」

「ここでコネを作る。出来れば、将来の優秀な手足を見つける!むしろ、今の内に部下にする!」

「何言ってんだこのお馬鹿は・・・」

「おい、俺様の奴隷の分際で、ご主人様をバカ呼ばわりするな!」

「ああん?誰が奴隷だってぇ?」

はじめは左手の義手を握りこぶしにして、幸太郎の顔に力強く押し付けた。

「痛い痛い、わかったって。奴隷改め最初の部下よ、俺様の世界征服計画を手伝え!そのために着いて来たのんだろう!」

「ハっ!私は幸太郎のお目付け役と最先端の農業技術を学びに来たんですよ。イナァカでは学べない画期的な農作技術をね」

「出たな!いいか、世界征服もするが、ジジイの農場は俺様が継ぐんだからな?お前は召使いなんだよぉ!」

「いえ、おじいさんの農場は私が守ります。駐車場にするとかほざいているバカ息子には渡しません。うちの村には農業重機やトラックターがほとんどなんですよ?駐車場なんて作っても意味ありません」

「駐車場は儲かる!放っておいても金が入るんだもんね。不労所得万歳!今時、農家とか流行んねぇんだよ!」

「このバカ息子が」

はじめは幸太郎の顔に拳を押し付けた。

「いたいいたい!」


 2人が馬車に揺られてしばらくすると、目的地に着いた。そこは2人が通う『国立第一高等学校』の校舎から程近い場所にある一軒家だった。立派な木造二階建、庭が付いており立派な門が正面に立っていた。

「うわぁ~素敵」

「ちっせぇ家だなオイ!庭もなんだコレ?サッカー出来ないぞ!」

「イナァカの農家の家と、都会の家を比べないでください。平気で山とかサッカー場クラスの庭を持ってるイナァカの人がおかしいんですから。普通は王族か貴族レベルじゃないとそんな土地はもってません」

「へぇークソみてぇだな、こんな小屋に住む羽目になるとは。で、はじめは何処に住むんだ?」

「ココです」

「なるほど。なら俺様はこの小屋ではなく、もっとデカイ家に住むのか。よし俺様の家に案内しろ」

「ココです」

「どう言うことだ?」

「うちが二軒も賃貸できる経済力があると思ってるんですか?むしろ。こんな素敵な家を借りてくれるなんて、おじいさんは相当無理したと思いますよ。ああ、おじいさんありがろうございます」

「こんな小屋で、お前と2人で住むのか!?狭くて圧死するわ!」

「食事もろくに作れないくせに偉そうに・・・。圧死してくれた方がどれほど楽か。小屋が嫌なら、庭で寝ればいいんじゃないですか?」

「なるほど、その手があったか!」

「え・・・」

「庭が俺様の家。()わばこの大地が俺様の家、地球は俺様の家、つまり地球は俺様の物と言う事だ!はっはっは!」

「ここまでバカとは。私は疲れたので、先に中に入ってますからね?」

「はーっはっはっは!」

「ハァー・・・」

はじめは高笑いをする幸太郎を置いて新居へと入っていった。イナァカの家とは違い、幸太郎の言うとおり狭く感じた。だが、どこかイナァカの家のような温かみのある内装であった。

「木造の家、木製の家具たち、石の暖炉。やっぱ、落ち着きますね」

はじめはどこか懐かしく思える新居の2階に荷物を運んだ。疲れた体をベッドに投げ出すと、左手の義手を外す。


 数ヶ月もするとはじめは学園都市の生活にも慣れた。食材の鮮度はイナァカほどではないが、新鮮に保たれており。素材の味を生かす料理法のイナァカ料理をなんとか作る事が出来た。幸太郎は不味いと文句を言いつつも、いつも完食していた。

 学業の方も順調で、普通科の授業の他に先進農業の授業も受け、学友たちと農業の未来について熱く語り合ったりもした。

 一方、幸太郎は学園都市内でも有名な問題児に成長しており、なにか事件があればだいたい幸太郎の仕業だった。エロ本独占販売事件、清涼女子学院集団のぞき事件、僕たちの屋台戦争事件。たった数ヶ月で幸太郎が起こした事件である。もちろん、はじめもその事件に巻き込まれていた。

 エロ本独占販売事件では、学園都市中のエロ本を買占め男子生徒諸君を大いに苦しめ、法外な値段で販売を行う片棒を担ぎ、需要と供給の原理を学び、人が禁欲にどれ程弱いのかを知った。

 清涼女学院集団のぞき事件では、いかに兵士たちの士気が大切かを学び、敵陣を突破する方法、攻城とは何か、そして玉砕する男子たちの雄姿を目に焼き付けた。

 僕たちの屋台戦争事件では、学園都市合同学園祭にて、他の学校の屋台の情報を盗み、自分たちはどう立ち回れば最大の利益を得られるのか。風評被害の凄まじさ、人間の行動心理などを学び、情報がどれ程大切かを体で覚えた。そして、屋台を爆発させてはいけないと心から理解した。

 幸太郎が人を集め、目標を定める。はじめはその目標を達成する道筋を考えた。しかし、はじめが事件の責任を問われる事はなく、幸太郎が常に全責任を押し付けられていた。はじめは少しの罪悪感を覚えるも、常に高笑いしている幸太郎を見ているとバカらしくなり、同情するのをやめた。そんな学校生活を2人は送っていた。


「おいはじめちゃん、幸太郎が告白するらしいぞ?」

「はぁ?」

農業化学の授業中にそんな話をされた。

「それあたしも聞いた。なんか放課後に公開告白するってチラシ配ってたわ」

「あ、コレね」

「どれどれ」

はじめは学友が持っていたチラシを見せてもらった。

「今日の放課後、中央公園にて愛の大告白。主催、みんなの幸太郎様。お相手、ヒンガシ第一王女。・・・なにこれ?」

はじめは眉間にしわを寄せながら言った。

「バカだよなぁ幸太郎の奴、はじめちゃんと付き合ってるのにさ」

「いや、付き合ってませんから!」

「え、そうなの?」

「そうですよ!拳を押し付けますよ?」

「でもさ、ヒンガシの第一王女って。幸太郎の奴、身の程知らずも良い所だろ。相手は王族だぞ」

「ほんとにねぇ、いくら学園都市で学ぶ同じ学徒だからって、身分が違いすぎるでしょ。ヒンガシって第三王国だよ、三番目に偉い国のお姫様でしょ?」

「そうそう、しかも堅物ばっかの軍事国だぜ?幸太郎の奴、首切られて死ぬんじゃね」

「はじめちゃん、女房としてどうするのさ?」

「はぁ?どうもしませんけど。女房じゃないし」

はじめはチラシをグシャグシャに丸めると、黒板に一生懸命文字を書いていた教師に投げつけた。チラシは見事、教師の後頭部に当たる。

「誰だー投げたのはー。先生は悲しいぞー、なんだー告白ー?幸太郎の奴かー、後で呼び出しだなーまったくー」

 放課後。中央公園ではスーツ姿のお洒落をした幸太郎が、花束を担いで偉そうに突っ立っていた。その周りにはギャラリーが大勢押しかけて、告白を今か今かと待ちわびていた。

「はじめちゃんいいの?」

「何がですか」

「ほら、もし告白が成功したらさぁ」

「いや、成功するわけないじゃないですか。私に相談もなくこんな事して。今までは、私が作戦を立ててたから、一定の成果を得られたわけであってですね。幸太郎は基本バカなので難しい事は考えられないわけであってですね――」

「はじめちゃんうるさい!お姫様が来たっぽい!」

「いやいや私の話を聞いてくださいよ!」

はじめが群集の中に紛れて騒いでいると、何人かのお供をつれてヒンガシの第一王女が颯爽と現れた。凛とした佇まいに、長髪をなびかせて、一縷の迷いも無い足取りで、幸太郎の前まで歩いていく。

「貴様が幸太郎か。よくもまぁ、私をこんな所に呼び出せたな」

「そっちこそ、俺様を待たせるとは良い度胸だ。告白されるされる覚悟は出来てるか?出来てないなら40秒待ってやる。その間に心の準備をしな!」

幸太郎はそう言って、手に持つバラの花束を向けた。

「フッ、戯言を・・・。いいだろう、見せてみろ貴様の愛の告白とやらをな!第三王国ヒンガシが王女、このタマキが全身全霊でお相手しよう!」

幸太郎とタマキはニヤリと笑い合い、野次馬たちは一斉にざわめき出す。

「良い度胸だタマキ!俺様が認めた女だけある!いくぞ!」

「来い!」

幸太郎は素早く、タマキの前で片膝を付くとバラの花束を差し出して言った。

「その尊大な態度、ヒンガシの軍事力、そして王族と言うステータス。世界征服を目標とする俺様に相応しい!毎日、俺様の味噌汁を作らないか?ティンっ!」

幸太郎は最高の笑顔でそう言って、最後にトドメのウィンクをした。

「こと、わるっ!」

タマキはそう言って、幸太郎の顔面に綺麗な正拳突きを食らわせた。

「ウゴァ!み、見事だ・・・タマキ・・・ぐふっ!」

幸太郎はこうして、大量の野次馬の目の前で盛大に振られ、気絶した。

 

 その晩、はじめは鼻にティッシュを詰めて料理をかっ込む幸太郎に聞いた。

「なんで、ヒンガシの王女に告白なんてしたんですか?本当に好きだったんですか?」

「なんでって、はじめは授業で習わなかったのか?ヒンガシは七王国でも、最大の軍事国家なんだぞ。しかも、七王国で唯一の外国と接している国だ。実戦経験も豊富、世界征服をする俺様としては、ヒンガシの王女を妻にしてヒンガシの王となり、七王国を1つの国家として再統一し、全世界を蹂躙する。な?」

「はぁー、信じられない。そんな事で告白なんてしたんですか」

「そんな事とはなんだ。ヒンガシさえ手に入れれば、俺様の世界征服は飛躍的に進むんだぞ!クソ、なぜ俺様の愛の告白を拒絶したんだアイツは!」

「いや、当然じゃないですか」

「どうしてだ、普通、俺様程の美男子から愛を囁かれれば、あんな女イチコロのはずだろ!」

「あー、どこから突っ込んだものか・・・。とりあえず、ご飯粒を私に飛ばしながら叫ばないでください」

「フン、タマキの奴は一生後悔する事になるな」

「一応聞きますが、どうしてですか?」

「俺様ほどのイイ男をふったんだからな!はーっはっはっは!」

「だから、ご飯粒飛ばすなって言ってるでしょーが!」

幸太郎とはじめが平和に食事をしている一方で、大事件が起きていた。


 七王国、第三王国ヒンガシ。東王及び側近が軍部により暗殺される。軍部はすぐに軍政府を組織し、ヒンガシ王国中枢を掌握する。そして七王国中に宣言した。

『ヒンガシは七王国から独立。これより大東帝国と名を改める』と。

 その情報は、瞬く間に七王国中に駆け巡った。無論、国民はおろか各国王たちですら寝耳に水だった。

 ここで七王国の位置関係が重要になってくる。東西南北にそれぞれ、西の第一王国ニッスウィ、北の第二王国キーター、東の第三王国ヒンガシ、南の第四王国ミ・ナミィがあり、その四カ国に囲まれるように中央に小さく第七王国『中央自治区』が存在した。そしてヒンガシとミ・ナミィに接する東南方面に広大な土地の第五王国イナァカがあり、ヒンガシの一部を除いて総てを海に囲まれているのが七王国大陸である。そしてド・イナァカの下にある島国、第六王国シイマを入れて、七王国と呼ばれていた。

 軍事クーデターが起こったヒンガシと接していないのは、孤島のシイマと首都があり七王国の中枢政治を担っているニッスウィだけであった。そして、軍事を主要産業とするヒンガシに何とか対抗できる軍事力を有しているのが、ニッスウィとシイマだけだった。

 翌日、速報が国民たちに行き渡った頃、第二王国キーターにて旧ヒンガシ軍、現大東帝国軍の大軍を、キーターとヒンガシの間にある関所にて、怠惰(たいだ)な警備をする兵士が目撃する。

 はじめがラジオを聴きながら複雑な表情をしていると、幸太郎が眠たそうに欠伸をしながら階段を下りてきた。

「あ~あ、死ぬほど朝って感じだなぁ・・・。見ろ、あの太陽を。朝っぱらから燦々(さんさん)と!これ見よがしに燦々とぉ!」

幸太郎が窓を開けながら太陽に文句を言っているのを、はじめは無視してラジオの声に耳を傾けた。

『今、速報が入りました。ヒンガシ軍がキーター領に進軍した模様です。繰り返しお伝えします。ヒンガシ軍がキーター領に進軍した模様です。情報が入り次第、続報をお伝えします―』

「なんと言う・・・」

「なぁにを聞いている!朝飯は出来てるのか?」

「昨日の残りの味噌スープでもご飯にかけて食べてください」

「何を言っているんだ!朝はオカズ七品にご飯に汁物、そして愛情を一摘みだろうが!味噌汁ぶっかけなんぞ俺様は食わんぞ」

「うるさいです!」

「む、なんで機嫌悪いんだよ。クソ、味噌汁ぶっかけで我慢するか・・・」

幸太郎は渋々、味噌汁をかけたご飯を啜りながら、はじめが聞いているラジオの声を聞いた。

「なん・・・だと・・・」

幸太郎は茶碗の中のご飯を一粒残らず急いで口に入れると、茶碗を落として驚いた。

「いや、茶碗を落とさないでください」

「落とさずにいられるか!ヒンガシがクーデターで独立でキーター侵略だとっ!?」

「ええ、なんだか大変な事になってしまいました・・・」

「俺様がやるはずだったのに!」

「・・・」

「クソたれ!・・・先を越されただと、この俺様が?はじめ、とりあえず俺様たちも独立するぞ!」

「何から独立するんですか」

「う~ん、ジジイからでも独立するか?」

「それは自立といいます。そしてとても良い事だと思います」

「そうか良い事なのか。良い事をしても仕方が無い!俺様は一生ジジイのすねを(かじ)るぞ!」

「はぁ~。冗談は置いといて、一国民に過ぎない私たちが何を出来るわけでもありません。いつも通り学校に行くを準備をしますか」

はじめはため息をつきながら立ち上がる。

「何を言っているはじめよ!学校なんて行っている場合じゃないだろうが。俺様たちも動かないと、波に乗り遅れるぞ!」

「まったく。何の波ですか?」

「革命と言う名の津波だ!乗るしかないだろうが!」

「濁流だと思うんですけど・・・。離れて安全地帯にいないと、最悪死にますよ?」

「ハッ!俺様は死なない」

「どこからその自信が出てくるのやら・・・」

「お腹の真ん中あたりだ!」

「あ、そうですか~お腹のね~。早く準備しないと学校に遅刻しますよ」

「俺様はやる事が出来たのでな、今日は休むぞ!」

「出席日数は大丈夫なんですか?」

「知らん!」

そう言って幸太郎は元気良く飛び出して行った。

「あーあ、留年しても知りませんからね」


 幸太郎が急いで向かった先は、ヒンガシの王女タマキが学園都市で仮住まいにしている豪邸だった。

「クソ、ここでも出遅れたか!」

幸太郎が着いた時には、豪邸の回りは野次馬で溢れかえっていた。

「いや、良く考えればタマキはとっくにいないだろう。ヒンガシの王族は、ヒンガシの軍はおろか、残りの王国だって喉から手が出るほど欲しいはず!いまアイツの利用価値は黄金の塊の様なモノだからな。本命ヒンガシ軍、対抗ニッスウィ王国って所か。まあ、大穴の俺様が勝つんだがな!はっはっは!」

幸太郎はそう言って高笑いしながら走り去って行った。

 この時、幸太郎の頭の中には1つの計画があった。現在、ヒンガシはほとんどの人が大混乱しているだろう。唯一、行動目的がはっきりしているのは軍部のみ。それはヒンガシ国民の全体の10分の1にも満たない数である。残りの大多数の混乱している国民を1つにまとめ上げられるのは、今まで政を司り、国民の代表を務めてきた王族。国とは人の集まり、大多数が正義なのである。

「タマキを使えば、ヒンガシ国民の大多数を取り込む事が出来るかもしれない!」

幸太郎が考えていたのは簡単な事であった。革命には革命を。軍部が革命を起こし、国の中枢を握った。だが、基盤を固めるには時間が掛かる。そして、革命のすぐ後に革命が起こるなんて誰も考えていない。

「いま、この時だけのビックチャンス!」

幸太郎の顔がつい満面の笑みになってしまう。


 幸太郎が向かった先は学園都市にある流通施設であった。日々、大量の食料、日用品、娯楽品に趣向品などを運搬配送している場所である。

「さて、どこの国が黄金を手に入れたか・・・。ニッスウィに帰る貨物か、ヒンガシに帰る貨物か・・・」

流通施設には、施設職員しかおらず簡単に忍びこむ事が出来た。のぞきの時に鍛えた隠密技能が役にたった瞬間である。

「フッフッフ、馬鹿な者共はタマキの豪邸や人を運ぶ馬車や自動車乗り場に集まっている様だな。間抜けめ!こういう時は、物運びのプロ、物流運送屋が一番怪しいんだよ、はっはっは!」

幸太郎は物陰に隠れながら独り言を呟いて笑った。

「ん?誰かいるのか?」

と、貨物を降ろしていた作業員がその笑い声に気がついた。

「にゃ~ん」

幸太郎は慌てて猫の真似をした。

「なに!?猫だと、俺は無類の猫好き。猫がいたら構わず撫で回すのさ。おーよちよち、こっち来るにゃ~」

作業員は仕事をほっぽり出して、幸太郎のいる場所へと気持ち悪い赤ちゃん言葉で近づいてきた。

「な!まさか無類の猫好きとは。ぬかったか!」

幸太郎の額に汗が滲んだ。

「ウ~!ワンワン!」

「なに!?犬だったのか。犬は駄目だ、人懐っこすぎる。あの媚びた感じがどうも好かん。仕方ない、真面目に仕事するか・・・」

作業員はがっかりした様子で仕事に戻っていった。

「なんだこのイベントは!時間の無駄だろ!」

幸太郎は悪態を着きながら、匍匐で先に進んだ。

 幸太郎は、荷物を降ろし本国へと帰還する前のトラックたちが、一時的に止めている駐車場まで辿り着く。ドライバーたちが集まって談笑したり、トラックの運転席で仮眠を取ったりしていた。

「ん、あれは!」

と、幸太郎はフードを深く被ったローブの2人組みを見つけた。2人組みは辺りを警戒しながら、小走りでどこかに向かっていた。

「アレだな。見たところ、囚われている感じではない。何者かに保護されたって所か。ヒンガシの王女タマキを保護する国。ん~どこだろうか・・・。まー関係ないか、俺様がタマキを利用するんだからな!」

幸太郎は起き上がると全速力で走り出し、怪しい二人組みの内、背の高いほうに体当たりした。

「うぐっ!」

「ハッ!バァカめ!」

幸太郎はもう1人の手を取ると無理矢理連れ出した。

「え?ちょ?」

「ハッハッハ!コイツは俺様のモノだ!シーユーアゲイン!」

幸太郎は、また会いましょうと言いながら、走り去っていった。

 

 幸太郎とローブの何者かは、息を切らしながら、止めてあったトラックの物陰に隠れた。

「よし、タマキを奪還したぞ!」

そう言って幸太郎は何者かのフードを取った。そこには褐色の肌、さらさらの金髪、そして特徴的な尖がった耳の青年がいた。

「誰だお前はっ!」

「えっと・・・」

「その肌、その耳。貴様ダークエルフだな!」

「は、はい・・・」

「誰だお前は!」

「ええ~!?」

幸太郎が謎のダークエルフに詰め寄っていると、後ろから押し倒された。相手は素早く幸太郎の腕を固め、身動きを封じる。

「大丈夫ですか王子」

「え、は、はい。僕は大丈夫です」

「よかった。で、貴様は何者だ。王子を狙う暗殺者か?」

「王子だぁ?」

「あ、いや王子ではない。このお方はそんな重要人物ではない。ただ容姿端麗で博学多才な青年だ。で、貴様は何者だ」

「ダークエルフ、王子・・・」

幸太郎はその言葉で、この青年が何者かわかった。第四王国ミ・ナミィ、その南王は原住民のダークエルフと結婚していた。人間とダークエルフの混血にして、ミ・ナミィの王子。

「なるほど、ダークエルフは往々にして銀髪だと聞くが、混血だから金髪なのか!」

その幸太郎の言葉を聞いて、金髪のダークエルフは顔を顰めた。

「貴様っ!」

と、幸太郎の腕を固めていた者が、幸太郎の腕を締め上げた。

「いてて!折れる折れる!」

「安心しろ、粉々に砕いてやる」

「いだいいだい!」

ミシミシと、幸太郎の腕の関節が限界ギリギリを告げる。その時、物陰にしていたトラックの荷台が豪快に開いた。

「うる、さいっ!」

と、空気を切り裂くように研ぎ澄まされた声が鳴り響く。幸太郎とローブの2人は体をビクつかせた。声の主を見ると、そこには地に対して、綺麗なまで垂直に仁王立ちするタマキの姿があった。

「仮眠中である、静かにっ!」

「え、す、すみません・・・」

「タマキっ!こんな所にいたのか!」

「な、なぜヒンガシの王女が!?」

タマキは驚く3人を冷たい眼差しで見下ろした。

「ん、そこの黒いの、どこかで見たな」

「え、僕ですか。えっと、第四王国ミ・ナミィの第三王子、マクリリです。お久しぶりですタマキ王女」

タマキは少し考えこんで、何かを思い出したような顔をした。

「あー、昔会ったことがあったな。てっきり女だと思っていたが、貴様男だったのか。いや、ボーイッシュなだけか?」

「あ、いえ、男です・・・」

「ふむ、で、そっちのダークエルフは付き人か?」

「は、近衛のポポロと申します」

と、近衛のポポロがタマキに礼をした瞬間、幸太郎は力任せに起き上がった。

「ふんぬ!」

「うお、こやつめ!」

「タマキ!やっと見つけたぞ。俺様と来い!ヒンガシを征服しに行くぞ!」

幸太郎は大声でそう言った。

「うる、さい!」

タマキはそう言って、トラックの荷台から幸太郎を蹴飛ばした。

「お前、昨日のバカじゃないか。何をしている」

「フッ、聞いてしまうか?俺様の計画を!」

「計画だと?」

幸太郎はトラックの荷台に上がると、タマキの横に立ち、喋り始めた。

「ヒンガシは軍のクーデターで革命状態!大半の国民は大混乱中。そこに俺様が元君主の王族タマキを旗頭に、混乱している国民を纏め上げ、準備が整っていない軍政府を叩く!高速閃光の革命返しで、俺様がヒンガシの支配者になるのだ!」

幸太郎は自身満々の顔して言った。

「え、何を言っているんですか、この方は・・・?」

「王子、ただのバカです。相手にしてはいけません」

マクリリとポポロは幸太郎の妄言に呆れたが、タマキは違った。

「フ、フフ。アッハッハッハ!貴様、たしか幸太郎と言ったか」

「そうだ、幸太郎様だ!」

「おもしろい、着いて来い!面白いモノを見せてやる」

「ん、なんだ急に」

「お前の事が少し気に入った。いいから、私と一緒に来い。お前のそのチャチな妄想を粉々に打ち壊してやる」

「なんだと!」

タマキは笑いながら幸太郎の頭を叩き、幸太郎は不満そうにしていた。

「おい、ミ・ナミィの王子。お前もついでに来い、新時代を担う者同士、目に焼き付けて置くべき事がある」

「ぼ、僕ですか?」

「いけません王子!ただちに国に帰り、身の安全を―」

と、ポポロが言いかけた時、タマキが叫んだ。

「黙れっ!付き人風情が、横槍を入れるな!マクリリ、貴様も上に立つつもりなら、自分で選択しろ!」

「え・・・」

「私と一緒に上を目指すか!尻尾を巻いて自国に逃げるか!選べっ!」

「帰れ!」

「うる、さい!」

横槍を入れた幸太郎はタマキにぶっ飛ばされた。

「えっと・・・僕は・・・。い、行きます、着いて行きます」

「うむ!」

タマキはマクリリをトラックの荷台に引っ張り上げた。

「あ、王子!お供します!」

ポポロもその後に続こうとしたが、タマキは思いっきり蹴飛ばした。

「悪いな、この荷台は三人用なんだ。貴様はお留守番だ!」

「なっ!」

タマキはそう言って、トラックの荷台の扉を閉めた。

「開けろー王子ー」

ポポロが荷台の扉を必死に叩いていると、荷台の中にいるタマキは運転席側の壁を思いっきり蹴った。

「発車させろ!」

タマキのその声と共に、トラックは慌てて動き出した。


 ヒンガシ改め大東帝国がクーデターを起こした翌日、大東帝国軍40万の大軍隊が隣接する北の第二王国キーターに侵攻する。その数は大東帝国が保有する軍の全てに近く、国内には最低限の守備が出来る人数のみを残すだけだった。

 本来、40万の大軍の侵攻は亀の様に鈍く、防衛側のキーターは主要都市に帝国軍が到着するまで一ヶ月以上はかかると睨んでいた。もちろん、キーターの西にあるニッスウィも同じ考えであり、七王国の中心にして大東帝国に対抗できる軍事力を有するニッスウィは、その侵攻速度を加味してキーターへの援軍の準備をしていた。

 一週間。キーター侵攻が開始され、キーターの首都サホロが落ちた日数である。尋常ではない速度で進んだ大東帝国軍に、キーターはニッスウィの援軍もなく、あっけなく敗れ去ったのであった。機械化師団による電撃戦、正確無比な超長距離砲撃、何よりも七王国唯一の歴戦の兵士たちは強かった。

 第一王国ニッスウィの西王イザツチは、キーターに送るはずだった援軍を再軍備し、キーターとの国境に配備した。それは、占領され援軍を待ち侘びていたキーターの王はおろか、国民たちの士気を挫くのに十分な裏切りであった。

 誰もが、大東帝国軍は第一王国であり、七王国の中枢を担うニッスウィに侵攻すると考えていた。だが、さらなる事件が起こった。

 ヒンガシ改め大東帝国領内にて、国民による一揆が起こる。先人を切るのは、元ヒンガシ王女タマキであった。

『ヒンガシに仇名す逆賊打つべし』

その言葉を合図に、元王族の1人の少女に国民たちは感化され、ほとんどの軍人がキーターに侵攻しているのを良い事に、500万人を超す人の群れを引き連れ、大東帝国の首都へと雪崩れ込んだ。軍政府が掌握する王宮では、国民と軍が衝突。後に王宮が『血の城』と言われるほどの虐殺が行われた。

 そしてキーターに侵攻していた40万を超える大軍は呆気なく大東帝国へと引き返していく。ニッスウィの上層部は、最悪の事態を考えたいたが、思わぬ肩透かしを食らってしまう。

 

 まだ日も昇らぬ時間。旧ヒンガシ、現大東帝国王宮内、王の間にある玉座に、悠然(ゆうぜん)たる姿で学校の制服姿のタマキが座っていた。その傍らには何とも複雑な表情の幸太郎と、緊張して固まっているマクリリがいた。

「タマキ、これからどうするんだ?40万の軍隊が来るぞ」

「し、死んじゃいますよ~・・・」

タマキはそんな言葉に動揺することなく、ただ一言だけ発した。

「夜明けだ」

タマキは立ち上がると、王宮の外へと迷い無く歩いて行った。幸太郎とマクリリは急いでその後に続く。

 王宮の外に群がる大量の国民たちがまるで蜘蛛の子を散らす様に道を開けていく。そこには40万人の屈強な兵士たちの姿があった。全身を硬い鱗で覆われ、まるで竜のような顔つきの兵士たちが、軍服に身を包み、突撃銃を構えて一糸乱れぬ行進で王宮へと近づいていた。

「すっげぇ!」

「これがヒンガシが誇る竜騎士隊・・・」

幸太郎とマクリリは、その圧倒的光景に見とれた。

「竜人を見るのは初めてか?」

タマキは二人にそう言った。

「は、はい」

「ヒンガシの国民のほとんどは誇り高き竜人だ。七王国となる以前は、竜人だけの国が此処にあった。建国王が統一しなければ・・・、いや、その話はまた今度するか。幸太郎、マクリリ、最後の仕上げだ。しかと目に焼き付けておけ」

「ほう、仕上げだと!」

40万の大軍は、王宮正面の大広間に到着する。縦横歪みの無い整列は、錬度の高さの証明だった。幸太郎とマクリリは、その光景に恐怖を通り越して異常なまでの高揚感を覚えた。タマキはそんな大軍の前に1人で躍り出る。

「バカかアイツ!」

「ちょ、タマキさん!」

タマキは幸太郎たちの制止を聞かずに、40万の屈強な兵士たちの前に仁王立ちする。その80万の鋭い眼に、さすがのタマキも背筋が震え上がった。だが、大きく息を吸うと体に力が沸きあがってきた。

「聞けぇ!勇敢な戦士たちっ!」

拡声器を使わずとも、空を切るように響くタマキの声は、眼前に広がる40万もの兵士たち全員に届いた。

「貴様らのぉ!愚かな指導者は死んだぁっ!」

大広場には、タマキの声だけが鳴り響いていた。

「現時刻より!この私がっ!貴様らの上官であるっ!」

一時の静寂、その場の40万と2人は物音立てずに黙っていた。

「・・・。異議のある者は前に出ろぉっ!」

幸太郎は生唾を飲み込んだ。なぜなら、こんな小娘に従うとは、到底考えられなかったからである。ここが自身の墓場になるとは、まったく想像していなかった。だが、予想外の大声が響く。

「女王陛下にぃ!けぇれぇぇぇいっ!」

最前列の中央にいた赤い鱗の竜人が叫んだ。その大声と共に、40万の兵士たちは一斉にタマキに向かって敬礼した。その音の衝撃は、まるで地響きのように幸太郎の体を震わせた。

「よぉぉし!戦士たちよ!国民を集めろ!宣誓するぞぉ!」

『はいっ!女王陛下っ!』


 数時間後、豪華な軍服に身を包んだタマキは、王宮前の大広間に詰め掛けた大量の国民や兵士たちの前に現れた。豪勢な壇上に立つ姿は、紛う方なき王の姿だった。タマキは壇上のマイクを軽く叩く。

『コンコン』

「ふむ。諸君、ヒンガシ国軍部の暴走により、我が父である東王は死んだ。そして、暴走した軍部は独立を宣言し、キーターへと侵攻した」

壇上でタマキが演説している様子を、幸太郎は王宮内の物陰から見ていた。

「だが、国民諸君は私に味方し、狂った軍上層部と戦ってくれた。結果、暴走した軍上層部はいなくなり、我が精鋭なる兵士たちは我々国民たちの元に戻ってきた」

マクリリは、タマキの後ろに控えており、その凛とした後ろ姿を見ていた。

「私はここに宣言する、大東帝国の国家元首になる事をっ!」

その言葉に、大広間にいた国民たちは動揺する。本来なら第三王国ヒンガシに戻ると宣言されると誰もが思っていたからだ。大東帝国でいると言う事は、七王国からは独立を保ったままだった。

「誇り高き竜人たちよっ!今一度竜人の国として、立ち上がろうではないかっ!人間に媚びへつらうのではなく!人間と竜人が手を取り合う国へ!」

放心状態の国民を見て、タマキは空に浮かぶ太陽を指差した。

「見ろ!大東帝国の夜明けであるっ!」

その言葉に、国民も兵士も空を見上げる。そこには光り輝く太陽があった。皆が空を見上げている間に、タマキは壇上を下りて、国民たちの前まで歩いて行った。

「エイ!エイ!オーッ!」

タマキはそう叫んで、腕を振り上げた。国民も兵士もその声に気付き、タマキを見た。

「エイ!エイ!オーッ!」

タマキは繰り返しそう叫んで腕を振り上げた。1人、また1人とその掛け声を真似、腕を振り上げていく。

『エイ!エイ!オーッ!エイ!エイ!オーッ!』

気がつけば、まるで大地が揺れるほどの大合唱になっていた。そして、タマキは改めて空を切り裂く様な響く声で言った。

「大東帝国の夜明けであるっ!」

その言葉に、大広間に集まる大勢の人は割れんばかりの歓声を上げた。

 七王国に戦乱の時代が来た。


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