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わたしの くちびるに きすを して

 オフィエルの乗った強化スーツは、フライングバードに張られた結界内に、易々と潜入していた。


『ぷりは どこだ?』


 いきなり暴れて誘い出すという手もあるが、無駄弾(むだだま)は使いたくない。プリ様だけに、正確に攻撃を仕掛けたかった。

 オフィエルは正面コンソールの赤いボタンを押した。


 これぞ、オフィエル自慢の器械の一つ、サイキックウェーブ検出装置であった。

 人間の放出するサイキックウェーブは、一つとして同じものは無く、その波形を検出すれば、個々人の特定が可能であるという、オクの理論に基づいて作られているのだ。


『そういえば、この きかいの じまんを おくさまに するのを わすれてましたわ。』


 プリ様の波形は、雲隠島で採取済みであった。


『おっ、はんのうあり……。』


 見覚えのある波形が二つ……。


『なんだ、あらとろんと べとーるか……。』


 リタイア組は仲良く花火見物か。呑気なものだ。

 と、オフィエルは思った。


『んっ?!』


 その時、オフィエルは妙な事に気が付いた。一つとして同じものは無い筈なのに、同一のサイキックウェーブの波形が、二ヶ所で見付かったのだ。


 器械に何か致命的な欠陥があるのだろうか?

 となると、技術者として看過出来ない。


 オフィエルは、プリ様討伐の前に、器械の不調の原因を調べる事にした。


『まず ひとつは こうぶかんぱん……。』


 ! プリ!!

 奇妙な波形の持主の膝の上に、プリ様が居た。


『あの おんなか……。どこかで みた おぼえが あるが……。』


 そう思いながら、オフィエルはレーザー砲の安全装置を外した。そして、発射ボタンに手をかけながら煩悶していた。


 物凄く迷った末、プリ様への攻撃は後回しにした。

 器械の欠陥に対する技術的な興味の方が勝ったのだ。


 強化スーツは翼を羽ばたかせ、もう一つの波形に向かって飛んだ。




 ベッドに座っているオクの前で、リリスは正座をさせられていた。


「きす して。」


 オクが右足を差し出すと、食い付かんばかりの目で睨んだ。


「まあ、なあに その()は。わたしに くっぷく したんでしょ? りりすちゃん。」


 オクは心の底から、女騎士陵辱ゴッコを楽しんでいたが、やらされているリリスは、腹わたが煮え繰り返る思いをしていた。


 それでも、大人しく彼女の足を取り、キスをした。


「じゃあ、こんどは よろいを はぎとる あそびね。」


 オクが言うと、肌に冷たい金属の感触を覚えた。気が付くと、その身に鎧を纏っていた。


「今、何をしたの?」

「まほうで よろいを きせたのよ。」


 前回は気絶している間に、鎧を着けられていたので、オクがこんな方法を使っていたなんて知らなかった。


「賢者の石……?」

「けんじゃのいし ですって?」


 オクはクスクスと笑いを洩らした。


「そんなものに たよらなくても このくらいの ことは できるわ。」

「…………。」

「まあ、けんじゃのいしに かくれて いきている りりすちゃんには、とうてい むりな げいとう(芸当) でしょうけどね。」


 その言い様に、カチンと来るリリス。


「貴女に私の何がわかるというの?」


 怒気を含んだ言葉も、オクは涼しい顔で受け流した。


「じぶんの なかの ひとでない ぶぶんが せいぎょ できない。」

「そ、それは……。」

「だから、けんじゃのいしで ふたを している。」

「…………。」

「めだたないよう、めだたないよう、ひとめを かくれて いきている。」


 オクの台詞が、一つ一つ、リリスの胸に突き刺さった。


「だから、はんてん させて あげたの。けんじゃのいしの ちからを。」


 淡々とした口調で、オクは告げた。


「さっ、もう そんな はなしは いいでしょ。あそびの つづきを しましょう。べっどに ねて りりすちゃん。」

「その前に、私のお願いを叶えてくれないかしら?」

「おねがい?」

「そうよ。言われた通り、命令に従っているのだから。貴女のした小細工を解除して。」


 リリスに言われて、オクは少し考えた。


「いいわよ。じゃあ、まず、けんじゃのいしを もとに もどして あげる。」


 オクは、リリスの胸元に、手を伸ばした。


「待って。戻し方を私に教えて。二度と同じ手口が使えないように。」

「おなじ てぐちなんて つかわないわ。つまらないもの。」


 そう言いつつ、悪戯っぽく笑った。


「どうしても しりたいなら、こんどは わたしの くちびるに きすを して。」

「何でよ。」


 思わず怒鳴ってしまったリリスを、仮面の下の瞳は面白そうに見詰めていた。


「くちびると くちびるを あわせて、じょうほうでんたつ するのよ。」

「……、それしか方法は無いの?」


 オクは微笑んで、頷いた。


『ほんとうは からだの いちぶが せっしょく していれば、どこでも いいんだけど……。』


 リリスちゃんの方から、キスしてくれるチャンスなんて、絶対ないし。役得だわ。

 オクは内心ほくそ笑んでいた。


 そうとは知らないリリスは、躊躇いながらも、身体を屈ませて、オクの唇に口付けした。

 その瞬間、恐ろしい量の情報が、頭の中に流れ込んできた。


「こんどばかりは じぶんに ながれる ()に かんしゃ したほうが いいわ。ふつうの にんげんなら はっきょう してるわよ。」


 みとめたくないが、オクの言う通りだった。

 そして、リリスは既に理解していた。かけてある魔法の性質を逆転させる技を。


「次は、首相さんの頭ね。」

「それは まだだめ。りりすちゃんが わたしを まんぞく させて くれてからよ。さあ、べっどに ねて。」


 リリスは仕方なく、鎧姿のまま、ベッドに寝転がった。




 たまや〜!


 という声が、其処此処で上がっていた。


「すばゆ『たまや』って なに?」

「うーん。花火の時の掛け声……かな? 由来は昴もちょっと……。」


 何ですかね? と頭を捻った。


「たま『や』というくらいですから、何かのお店じゃないですか?」


 離れた所で二人の会話を聞いていた尊治は、そうだと頷いた。玉屋とは江戸時代の花火商の名前だ。


「ねこさん じゃないの? 『たま』って ねこさん よくいるの。」

「猫さんですか。そうかもしれませんね。」


 いや、違う。せっかく正解に近付いていたのに、何を言い出すんだ、あのガキは。

 尊治は少しイラっとした。


「きっと そうなの。はなび きれいなの。ねこさん にも みせたげ たいの。」

「ああ、それで猫さんを皆で呼んでいるんですね。『たまや〜。』と。」


 プチン。

 尊治の中で何かが切れた。


「違う。玉屋とは、江戸の花火商、玉屋市兵衛の事だ。」


 暗がりから、いきなり声を掛けられた昴は、怯えてプリ様の後ろに隠れた。


「さっきの おじさんなの。すばゆ、こわがらなくて いいの。」

「オジさん……?」


 恐る恐る顔を出す昴と、目を合わせる尊治。

 接触する気は無かったのに、つい、口を挟んでしまったのだ。そういうところは、六連星と親子といえた。


 失敬、と言って立ち去ろうとする尊治の背広の袖を、昴がちょこっと摘み、少なからず驚いた彼は、思わず振り返った。




 声も出さずに、剥ぎ取られていく鎧を、淡々と見詰めているリリスに、オクが不満の声を上げた。


「もお。にかいめ なんだから、すこしは くふう しなさい。」


 工夫? 何の?

 リリスはオクを睨んだ。


「たちばが わかって ないのね。あなたは わたしを よろこばせ なければ いけないのよ。」

「……何をすれば良いのかしら。」


 この、クソガキ〜。

 リリスは頭が沸騰しそうになる怒りを抑えながら聞いた。


「とらえられた おんなきしが はずかしめを うけているのよ。もっと『ああっ。』とか『や……めて。』とか、ちじょくに まみれた こえを あげて。」


 そう言いつつ、肩当てを外した。


「アアッ、ヤメテ。」

「はんこうてきね。いいわ。しゅしょうさんの あたまを ざくろ みたいに しちゃうから。」


 脅し文句を呟きながら、今度は胴巻きを剥ぎ取った。


「ああっ。やめて……。」


 切なげなリリスの声に、オクは大興奮した。


「それよ、りりすちゃん。ああ、りりすちゃんの そういう こえが ききたかったの。」


 変態クソガキ。殺す、絶対に殺す。

 リリスは身体にオクの重みを感じながら、物騒な決意を固めていた。














会社の期が改まって、また仕事が忙しくなって来ました。

今月、来月は泊まり込みになりそうな日もあって、もう半泣きです。


更新期間が空いてしまったら、ごめんなさい。


もし過労死しても、霊界から更新は続けるつもりです。

ある日を境に、やたら「恨めしい。」とか言う、幽霊っぽい文体になったら、死んだのだと思って下さい。

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