盟主オク、恐怖の結界蟻地獄!
手に持ったバッグから溢れる着信音に、そういえばバイブにしてなかったわ、と六連星は思った。
「はい、もしもし?」
「お嬢〜、褒めてくれ。市街地には落とさなかったぜ。」
乱橋からだ。
何を言っているんだ、こいつは?
六連星は頭を捻った。
「見えない敵と遭遇した。翼長約十メートル。しかも、こいつはレーザーば撃つ。」
なんで九州弁になるのよ、と六連星は思った。
「見えない敵なのに、どうしてわかるの?」
「太陽を背にした時、チラッと輪郭が見えた。翼が有るのは間違いない。」
「透明になる魔物か……。」
厄介だわ。
緊張した面持ちになる六連星。
「魔物じゃねえと思うぜ、お嬢。」
「何故、そう思うの?」
「レーザーを撃って来るっつ言ったろうもん。魔物がそんなん持っつるかっつうの。」
使用人のクセに、なんで、こんなに偉そうなのよ、こいつは。
六連星は怒りにプルプルと肩を震わせた。
「自衛隊及び、関係各所には連絡した。お前は旦那様に催しを中止するよう勧告しろ。」
だから、命令するなっての。
「もう無理よ。お客様はあらかた乗船してしまっているわ。」
「なら、リリスちゃんのチームにも協力して貰え。」
「バカ言わないで。今日は、御三家のロイヤルガードとも言える手練れの退魔師が、大勢居るのよ。アマリ達の手を借りるまでもないわ。」
フンと、六連星は鼻息を荒くした。プリ様やリリスはともかく、一般人の和臣や紅葉を当てにしては、御三家の名折れだ。
「むしろ、俺とか、神王院家に居る『戦場の褐色の踊り子』みたいな、物理的攻撃に長けている人材の方が向いている敵だと思うのよ。」
「なら、早く戻って来なさい。」
「いや……、それが……。」
市街地を避けて海に向かった為に、東京湾内に点在する人工島の一つに降りてしまったのだ。
「ここ、マジ何もねえ。草しか生えてねえ。陸地と繋がってないんだぜ? 心細いよお、お嬢〜。」
子供か。
六連星は使えない部下を持った上司の悲哀を味わっていた。
昴も元気になったので、プリ様達は甲板に出て、晶や操達と合流していた。周りは、政府要人や各国外交官で溢れていて、大層な賑わいだ。
一緒に歩きながら、舞姫は尚子に三歳児検診の話を聞いていて、昴もそれに耳を傾けていた。
「あきらしゃん、しゅしょうさんなの。」
とつぜん、プリ様が晶の腕を突いた。指差す先には、現首相の阿倍野伸次郎さん、その人がいた。
「おかし、もらえるかな?」
「もらえゆの。しゅしょうさん いいひと なの。」
「なに? おかし もらえるのか?」
プリ様と晶の会話に、操も乗って来た。
「みさおちゃん、おまじない しないと もらえないよ。」
「そうなのか?」
「みさおにも おしえたげるの。」
お呪いなどという女々しいものは良しとしない操も、お菓子の誘惑には勝てず、二人からお呪いを教えてもらった。
「まま、しゅしょうさんの とこに いってくるね。」
晶が繋いでいた手を離して駆け出した。
「遠くに行かないのよ……。」
今、何て言ったかしら、あの子……。しゅしょうさん……、首相さん!?
尚子の脳天に稲妻が走った。
やばい。やば過ぎる。
慌てて追いかけるも、人が多くて、中々歩が進まない。一方、小さな身体で人混みを縫うように走る幼女達は、忽ち首相の所に到達してしまった。
「しゅしょうさん!」
「おお。お嬢ちゃんは確か神王院家の……。」
「ぷりむらでちゅ。こんばんはなの。おかし もらいに きたの。」
ストレートに要求をぶつけて来たな、と隣で聞いていた秘書官は思った。
「いいとも。おい、仲村君。」
秘書官の仲村君は、鞄の中から「黒い稲妻」というチョコ菓子を三枚取り出した。
「上げたら、もう一枚しか残りませんよ。」
「何? それは大変だ。ちゃんと補充しておけよ。」
どうやら、いつも鞄の中に常備しているらしい。
「ありがとなの。」「ありがとうです。」「おう、ありがとな。」
三人はそれぞれ感謝の意を示してから、首相の周りをスローなステップで回り始めた。
「はえーろ。はえーろ。しばしばん。もーこん、ふっかつ。ふっさふっさ。」
真面目な顔で、踊る様に回っている幼女達を、可愛いなあと、首相と仲村君は相好を崩して眺めていた。
「君達。何だい、それは。」
微笑みながら問い掛ける首相に、晶が元気良く答えた。
「かみのけの はえる おまじないよ。しゅしょうさん づらでしょ? ままが いってたわ。」
ちょうどその時、追い付いた尚子が、泡を食って晶の口を塞いだ。
「しゅしゅ、首相さん……。違うんです。これは……。」
「…………。」(首相&仲村君)
「ひいいい。ごめんなさいぃぃ。死刑ですか? 銃殺ですかあぁぁ。」
跪き、必死に晶を抱き締める尚子。
「あっははは。酷いな、奥さん。私は鬘じゃありませんよ。」
「えっ、嘘。だって、その歳でそんなフサフサ……。あわわわ、いや、そ、そうですね。」
パニクる尚子に、秘書官の仲村君がソッと耳打ちした。
「大きな声では言えませんが、最先端のIPS細胞の研究成果で、首相の毛根は全復活しているのです。」
IPS細胞凄い……。
尚子は、首相と同い年の自分の父親のショボくれた頭部を思い出して、溜息を吐いた。
「そもそも、子供のする事に目くじら立てたりしないですわ。こんなの野党の奴等の言い掛かりに比べたら……、もうね……。」
「首相、黒いオーラが出てますよ。有権者の前です。スマイル。スマイル。」
「おっと。いかん。いかん。仲村君、最後の一枚、奥さんにもお上げなさい。」
言われた仲村君は、鞄から「黒い稲妻」を取り出した。
「奥様、選挙区は何処ですか?」
「えっ、港区ですけど。東京第一区です。」
自らの選挙区内の有権者には、お菓子を渡しても贈収賄に問われるのだ。首相のそれとは違っていたので、仲村君は安心して「黒い稲妻」を渡した。
予定の招待客が全て乗船して、フライングバードは再び大桟橋を離れた。もう、そろそろ、花火も上がり始める時間だ。
リリスを捜していた六連星は、甲板の丸テーブルに固まっている、和臣達を見付けた。
「アマリ、見なかったかしら?」
「リリスなら、あそこよ。」
紅葉の示した方には、黒山の人だかりが出来ていた。
「あの娘がドレスアップして登場したら、周り中の人間が、皆群がって行って……。」
その様子に、六連星は舌打ちをした。
「あれでは近寄れないわね……。」
「何かあったのか?」
「哨戒中のリチャードが、未確認飛行物体と遭遇したのよ。」
和臣の質問に六連星が答えた。
「この船は結界に覆われているんでしょ? 雲隠島にあったものの小型版の結界装置が船底にあるって、リリスが言っていたわよ。」
六連星、和臣、紅葉で話していると、渚ちゃんと宮路さんが、興味津々で聞き耳を立てていた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん! 何の話?」
勢い込んで聞いて来る妹を、和臣はやんわりと手で制した。
「六連星、何か手伝える事はあるか?」
「ありがとう。紅葉さんが言う通り、結界が張ってあるから大丈夫よ……。」
そうは言うものの、六連星の胸中には、一抹の不安が宿っていた。
そして、その不安は的中していた。
船底の結界装置の前には、一人の幼女が佇んでいたのだ。
「くもがくれとうの けっかいは ちょっと やっかい だったけど……。」
幼女は右手をスッと上げた。
「さいしょから なかに いれば、いじるのは わけないわ。」
瞬間、彼女の右手から火花が走った。
「まりょくの むきを ぎゃくてん させたわ。」
結界装置の術式を書き換え、入り放題だけど出られない、蟻地獄の様に結界を変えてしまったのだ。
その幼女、オクは、仮面の下の瞳を光らせ、ニヤリと笑った。
お友達が、投稿する時間帯を考えた方が良いよと言うんです。
アクセス数を伸ばしたいなら、皆が見る時間に投下する方が良い、と。
もう、それは重々承知なんですが、書き上げると嬉しくなって、すぐ投稿してしまうんです。
特に、忙しくて更新の間隔が長くなってしまった時は、待ってくれている人もいるのでは、などと考えて、矢も盾もたまらなくなって、投稿してしまうんです。
頭がコツメカワウソちゃん並だと言われるようになりました。
うわーい。たーのしー。