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多摩川上空ドッグファイト

 船は再び横浜大桟橋に戻って来た。

 子供達は遊び疲れて、各々の客室でお昼寝をしていたが、停船のアナウンスを受けて、眠い目を擦りながら起き始めた。


「プリ様ぁ。素敵な夢を見ちゃいました。」


 昴はベッドの上にペタンと座って、未だ寝惚け眼で自分の膝に頭を乗せてくるプリ様に、語り始めた。


「石造りの素敵な街で、昴は幽霊なんです。毎日、一生懸命、窓の外を見ているんですけど、誰にも見付けてもらえないんです。孤独なんです。それでも、ある時、プリ様だけは気付いてくれて……。そして、お友達……恋人になってくれるんです。」


 そこで昴はチラリとプリ様を見た。


「それが本当だったら、どうします? 」


 昴は期待に満ち満ちた目でプリ様を見た。慈悲深いプリ様なら、きっと夢の中と同じように、優しく自分を包み込んでくれる……筈。


「おはらい するの。」

「えっ?」

「ともだちとかに なっていゆ ばあいじゃ ないの。あくりょう たいさんなの。」

「酷いプリ様。昴は悪霊じゃありません。可哀想な幽霊さんなのです。」

「それなら なおさらなの。はやく てんごくに おくって あげゆの。そのほうが しあわせなの。」

「プ、プリ様ぁぁぁ。」


 プリ様のあまりの現実主義に、涙にくれる昴であった。




 船内のバーのカウンターに座って、リリスと六連星はカルーアミルクを……、もとい、ミルクセーキを飲んでいた。


「ケダモノ……、乱橋さんは?」

「リチャードはF35で哨戒任務中よ。」


 プールから出た後も、時折、発情した乱橋が抱き付いて来ようとして、リリスは気の抜けない時間を過ごしていたので、少し胸を撫で下ろした。


「今日ね、お父様も来るのよ。」

「何ですって?! あの光極天の皇帝、光極天尊治様が?」


 とても信じられなかった。光極天尊治こうぎょくてんたかはるといえば、御三家を束ねる頂点である。実際は三家の合議制で物事は進むので、独裁者という訳ではないが、このような場に軽々しく赴く身分でもない。


「あらあら、こんな政財界への接待みたいな催しは神王院や美柱庵に任せる、とか偉そうに言っていたのではないの?」

「お父様を悪く言わないで。実際、偉いのよ。」


 リリスに言い返しながらも、六連星はフッと真面目な顔になった。


「お姉様が来ると、私に聞いてからだと思うの。花火大会に行くと言い出したのは……。」


 その六連星の言葉を、リリスは鼻で笑った。


「ないわ。それは貴女の願望よ。聞いたんでしょ。昴ちゃんに関する話。」

「でも、光極天家のお歴々に詰め寄られれば、お父様だって庇いきれない。泣く泣く……。」

「何があっても、娘を守るのが父親でしょ!」


 珍しくリリスが声を荒げた。

 六連星は驚いて、ちょっと身を引いた。


「ごめんなさい、大きな声を出して……。私もそろそろドレスに着替えなければいけないから……。」


 リリスは六連星と目を合わさず立ち上がると、借りている自分の部屋へと去って行った。




「おかあたま!」


 胡蝶蘭の姿を見付けたプリ様は、目を輝かせて駆け寄った。


「良い子にしてた? プリちゃん。」


 プリ様を抱き上げて、ギュッと抱き締める胡蝶蘭。

 そろそろ皆と合流しようかと、廊下に出た所で、バッタリ出会ったのだ。


「ゴメンね。今日はこれから忙しくなるから、一緒に花火は見れないの。」

「そうでちゅか……。」


 シュンと項垂れるプリ様。


「昴ちゃんの言う事を聞いて、良い子にしているのよ。」


 胡蝶蘭がそう言うと、彼女の隣に居た紳士が振り向いた。そして、少し離れた場所の昴を凝視した。


「昴ちゃんよ。伯父様。」


 胡蝶蘭が、若干、緊張した面持ちで彼に告げた。


「昴ちゃん、いらっしゃい。」


 呼ばれた昴は、プリ様を抱く胡蝶蘭の元に近寄ったが、紳士の視線を避けるように、彼女の陰に隠れた。

 紳士は昴の頭に手を伸ばしかけたが、思い留まり、掌をきつく握り締めた。


「行くぞ、胡蝶蘭。」


 短く言われて、胡蝶蘭は名残惜しげにプリ様を昴に手渡した。母と娘は暫しウルウルと見つめ合っていたが、先に歩き出した紳士を追って、胡蝶蘭も行ってしまった。


「何か一言くらい言って上げればよろしいのに……。」

「……。今更、父親ヅラなど出来ん。」


 この紳士こそ昴の父親、光極天尊治その人であった。


 一方、残された昴は、胸の中がモヤモヤする、妙な感覚を覚えていた。


「プリ様……。私、あの方知っているような。」

「どのかた? おかあたま いがい いなかったの。」


 プリ様の台詞に、昴の顔色が青ざめた。


「嘘……。奥様の隣に立派な紳士が……。」

「みてないの。すばゆ だいじょぶ?」


 じゃあ、私の見たのは誰なの? ままままま、まさか、本物の幽霊?

 昴の怯えは頂点に達した。


「なーんて うそなの。ちゃんと ぷりにも みえてたの……。すばゆ?」


 昴は気絶していた。




「プリがアンタ抱えて走っているの見た時は吃驚したよ。」


 医務室で気付薬を嗅がされて、意識の戻った昴に、紅葉が話し掛けた。


「すばゆ〜。ごめんなの。」


 泣きながら謝るプリ様をチラッと見て、昴はプイッと横を向いた。


「もう、プリ様なんて知りません。これで昴が死んで幽霊になっても、どうせ、お祓いされちゃうんです。」

「しないの。おはらい なんて しないの。」

「本当ですかぁ?」

「ほんとなの。」


 そこで我慢出来なくなった昴は、プリ様に抱き付いた。


「約束しましたよ。幽霊になっても、ずっと、恋人同士ですよ。」

「ちがうの。こいびと では ないの。」


 ドサクサに紛れて、恋人同士を既成事実化しようとしていた昴に、プリ様が冷静に返した。


 こいつら、中々、凄い攻防戦をやっているな。

 と、聞いていた和臣は、感心した眼差しをプリ様に向けていた。




 その頃、多摩川付近を哨戒していた乱橋は、一旦帰投しようと機首を傾けた。

 まるで、乗り込んでいる戦闘機の一部になったかのような、精密で滑らかな動作で操縦をしながら、頭の中では昼間プールで見た女の子達(特にリリス)の事でいっぱいだった。


『あの奥さんも子持ちとは思えんかったな。身体の線も全然崩れてないし……。』


 尚子の姿を思い出し、だらし無く口元を緩めた。


『んっ、妙だな。』


 エロい妄想をしていても、鍛えられた鋭敏な五感は、微かな違和感をキャッチしていた。右上で何かが光った気がしたのだ。


『レーダーに反応はねえぞ……。』


 しかし、何か居る。幾多の戦場を潜り抜けて来た、独特の勘が確信させていた。

 彼はF35を空中に停止させた。


『お嬢の浪費に感謝だな。』


 動かずに滞空しているなんて真似は、普通のジェット機では出来ない。便利な機体である。


『考えてはダメでぇーす。感じるのでぇーす。』


 目を閉じ、感覚を研ぎ澄まして、辺りの気を窺った。

 彼とて、光極天家に代々仕える家系だ。六連星の共として、魔物とも戦うのだ。見えない敵などに惑わされたりはしない。


「そこだ。」


 機首を上に向け、一点を狙って、機体下部のハードポイントに設置された機関砲をぶっ放した。


「うそじゃーん。」


 驚いたのは、対プリ用強化スーツに搭乗していたオフィエルであった。


 豪華客船フライングバードに辿り着くまでは、なるべく隠密行動を取ろうと、ステルス性能を最大限に発揮しつつ、周りの風景に同化する事によって、視認すら出来ないように隠れていたのに、その自分に正確に当ててくる奴がいたのだ。


 ヒヒイロカネの装甲に25mm砲が直撃する、ガンガンという鈍い嫌な音が響いた。


「まだ、もくげき されるのは、おもしろく ありませんわ。」


 強化スーツは姿を隠したまま、さらに上空へと羽ばたいた。動けば見失うだろうと、タカをくくっていたのだが、F35は正確に追撃をして来た。


「やむなし!」


 実はオフィエルは、出来れば、F35を攻撃したくはなかったのだ。何せ、まだ自衛隊ですら配備していない最新鋭機である。壊すなんて勿体無いと思っていた。


『くりーんひっと しないように……。』


 左肩の砲からレーザーが放たれた。

 さすがの乱橋も、見えない敵からのレーザー攻撃は避けようがなかった。


 翼を掠められ、滞空能力を失ったF35は、グングン高度を落としていった。


 ふうっ。

 以外な伏兵に肝を冷やしたオフィエルは、漸く安堵の息を洩らした。













小説冒頭の昴の夢の話ですが、実は先日書き上げた短編の粗筋となっています。

プリ様との触れ合いを描くのに、宣伝を兼ねて、利用しました。


この短編、二、三日経って読んでみると、物凄く恥ずかしかったです。

いっそ削除してしまおうかと思ったのですが「なろうのサーバーに負荷がかかるから、削除はなるべくしないでね♡」と、どっかに書いてあった気がしたので止めました。


まあ、せっかく書いたものですしね……。

多くの人に読んでもらいたいけど……。

あっー、でも、やっぱり恥ずかしい。


なんで、この歳になって、黒歴史を作らねばならないのだ。

と、頭を抱える今日この頃です。

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