ローマの盾、クィントゥス・ファビウス・マクシムス。
膨れっ面はしていたが、徐々にオフィエルの機嫌も直り、話は対プリ強化スーツへと移っていった。
「『ぷり』っていうのは くま みたいな たふがい なのかい? どう かんがえても なまみの にんげんあいてには かじょうな そうび だとおもうけど……。」
ファレグの意見に「フン。」と、オフィエルは鼻を鳴らした。そんな生意気な仕草でさえ、小さいオフィエルがすると、可愛いなあ、と二人は和むのであった。
「あれでも せんとうのうりょく としては ごぶですわ。やつが きりふだを だせば あやうい。」
彼女の言う切り札とは、プリ様がベトールとの最終戦で使用した重力の壁「グラビティウォール」だ。
オフィエルは腰を浮かせ、全身を使って、その恐ろしさを解説したが、やっぱりファレグとオクは、可愛いなあ、と和んでいた。
「なるほどね。げんじょう、ぐらびてぃうぉーるは ふせぎようが ないわけだ。」
そういうと、ファレグは少し考え込んだ。
「ふせげないなら、つかわせ なければ いいんだよ。」
「かるく いうな ですわ。どうやって……。」
身を乗り出して反論するオフィエルを、軽く手で制した。
「ぼくは こだいろーまの ぶじん、くぃんとぅす・ふぁびうす・まくしむす を そんけいして いるのだけどね……。」
クィントゥス・ファビウス・マクシムス。通称「ローマの盾」。共和制ローマ時代の独裁官や執政官を歴任した偉い人である。
攻めて来たカルタゴ軍の将軍、ハンニバル・バルカが強過ぎたので、勝てない相手とは戦わないという、思い切った手段に出た人だ。
ファレグの話を全部聞き終えた後、オフィエルは感心した表情で彼女を見た。
「ただの ちゃらい こましやろう だと おもっていましたわ。はぎとや ふるが ねつを あげるのも わかります。」
オフィエルの言葉を聞いたオクは『まずい。』と思っていた。このままではオフィエルちゃんまで、ファレグのファンになってしまうかも。
「ちゃらい こましは ひどいな。ぼくは いつだって せいじつに おんなのこと せっしているよ。」
「まったくですわ。おわびします。どこかの うわきしょうの かたとは『おおちがい』ですわ。」
オフィエルは「大違い」を殊更大きな声で言い、オクはビクッと身体を竦めた。
『まずい。まずいわ。』
オクの焦りは頂点に達しようとしていた。
御三家の大人達は、招待客と一緒で、夕方からしか来ないので、船上のプールは貸切状態だった。それなら昼食も此処で取ろうというリリスの提案で、皆はプールサイドの大きなパラソルの下に集まっていた。
真夏の空は何処までも晴れ渡り、照りつける太陽に、うだるような暑さだった。
それでも子供達は大喜びで、食べながらも、ふざけ回るので、舞姫と昴はお守りにてんてこ舞いだった。
晶は比較的大人しい子なのだが、プリ様と操はヤンチャで手に負えない。目を離すと、何でもかんでも、すぐに競争を始めているのだ。
「ぷり。はやく たべる しょうぶだ。」
「ぷりに いどむとは なまいきなの。まけないの。」
そう言って、スパゲティの早食いを始めようとしたので、舞姫と昴は慌てて止めた。
「喉に詰まらせるから。死ぬから。止めなさーい!」
舞姫にそう言われて、操は上目遣いで彼女を見た。
「じゃ、じゃあ……、たべさせて。まいきおねえちゃん……。」
甘えてくる操の姿に、怒っていた舞姫の口元も緩んだ。あーんと口を開ける彼女に、フォークで巻き取ったパスタを運んでやった。
「あかちゃんなの。みさお。」
更衣室での仕返しとばかりに、プリ様が囃し立てたが、幸せの絶頂にある操の耳には届いていなかった。
何となく寂しげに、その様子を見ていたプリ様に、昴がパスタのついたフォークを差し出した。
「プリ様には昴がいますよ。はい、アーン。」
「やめゆの、すばゆ。ぷりは あかちゃん じゃないの。みさおとは ちがうの。」
そう言われても、昴は止めようとせず、ニコニコ笑いながら、アーンと促した。プリ様は、仕方ないなあ、という体を装いつつ、パクリと食い付いた。
「美味しいですか?」
「う……ん。おいしいの。つぎは おにくが いいの。」
「はいはい。」
そのまま、プリ様と操は、大人しく食べさせてもらっていた。
その二人を真似て、渚ちゃんは、アーンと和臣にやってみたが、彼は紅葉の口にバター付きパンを運んでいる最中だった。
「何やってるのよ。」
怒る渚ちゃんを、和臣と紅葉がキョトンとした目で見た。
「宮路さんも。何で平気で唐揚げつまんでいるの?」
そう言われて、唐揚げを頬張っていた宮路さんは口元を押さえた。
「えっ。でも、これはいつも教室でやっているから。」
「慣らされないで。普通の男女はこんな事しないから。」
怒り冷めやらぬ渚ちゃんの肩を、ドウドウとばかりに、リリスが後ろから掴んだ。
「和臣ちゃんだけじゃないわよ。プリちゃんだって。」
リリスがそう言っている間にも、キャビアをてんこ盛りにしたクラッカーを手に、プリ様が近付いて来た。
「もみじ〜。これ、おいしいの。たべゆの。」
「おっー。あんがとね、プリ。」
屈んで口を開いた紅葉にクラッカーを食べさせると、ニコッと笑って、プリ様は昴の元に戻って行った。
「ほらね。昔からなのよ。プリちゃんも、和臣ちゃんも、美味しいものを見付けると、紅葉ちゃんに食べさせたがるの。大事にしているのよ。」
昔からって……、プリちゃん三歳でしょ。っていうか、紅葉ちゃんって、仲間内でどういう立ち位置なの?
複雑な人間関係に、渚ちゃんは頭を捻った。
「考え過ぎよ。はい、渚ちゃんには私からアーン。」
紅葉から口元にあてがわれた一口サンドイッチに食い付くと、右手に嵌めたブレスレットが目に入った。
「そ、それよ。それも気になってたの。お揃いのブレスレット。何なの? それ。ペアブレスレットなの?」
宮路さんも気になっていたので、思わず二人を凝視した。
「これは……、合宿の修了書みたいなものだ。」
「合宿って、何の合宿よ。」
置いて行かれた恨みもあって、食い下がる渚ちゃん。
「渚、知らないの? 二人はテナアシナ拳の免許皆伝なのよ。」
シレッと嘘を吐くリリス。
「そんなの聞いた事ないよ。お兄ちゃんはズッと帰宅部でしょ。」
「あっー。でも見ました、私。お二人が演舞しているところ。あれは見事でした。」
格闘技の話となると、舞姫も口を挟んで来た。
「演舞を見れば力量がわかります。お二人は間違いなく全国区ですね。」
えっ、そうなの? と、和臣と紅葉は内心驚いていた。もちろん、二人は系統だった修行はしていない。体捌きなどは、魔物と戦っている間に、自然と身に付いたものだ。
だから、格闘技の世界で、自分達がどれ位強いかなどは、考えた事もなかった。
一方、渚ちゃんは混乱の極みに達していた。彼女にとって和臣は、妹にしか威張れない、喧嘩なんかは全然ダメな優男だと思っていた。
それが、いきなり格闘技の達人? 信じられる筈もなかった。
「ううっ。何でよ。何で、あんな泥棒猫まで知っているのに、私がお兄ちゃんの事知らないのよぉ。」
「ちょっと、誰が泥棒猫なんですか。」
舞姫の抗議は無視して、渚ちゃんは泣き出した。
「何泣いてんだよ。馬鹿だな、お前は……。」
そこはやっぱり兄なのか、泣いてる妹の背中を摩ってやった。
宮路さんはといえば、密かに胸を撫で下ろしていた。ペアのブレスレットなどではなかったからだ。
「でも、修行中、和臣は良い思いしてたわよね。」
いきなり語り出した紅葉を、和臣は訝しげに見た。
「師範のお姉様の道着を脱がしたり、その豊満な胸に触ったり。特訓にかこつけて、やりたい放題だったものね……。」
何言い出すんだ、こいつ! 言ってる事は嘘じゃないけど、間違っているだろう。
「ううう、嘘だよ、宮路さん。」
必死で言い繕う和臣を、引き気味で宮路さんは見ていた。
「あと、幼女から『ほうびは わたしじしんだ。』とか言われて、有り難く頂いていたわよね?」
その幼女と、師範のお姉様と、ブレスレットは同一人物だろう、と心の中で突っ込んだが、その頃にはすでに、渚ちゃん、舞姫、宮路さんから、汚物を見る目で見られている和臣であった。
実は最近スランプだったのです。
小説を書こうと思って、タブレットを開いても、何もお話を思いつかないという事が度々あり、当然、更新ペースも遅くなっていました。
ノリの悪い文章を、読んでくれている方達にお見せするくらいなら、一ヶ月くらい充電しようか。
とさえ思い詰めていたのですが……。
舞台がプールになってから、筆が進む、進む。
水着で戯れる美少女達を想像したら、もう、幾らでも書ける。
うわーい。すごーい。たーのしー。
という状態になって、見事復活しました。
皆さんは私の事を「君はエッチな事を考えるのが得意なフレンズなんだね。」と思われるかもしれませんが、概ねその通りです。